第271話
この天使たちはアスティアの指揮下に入っている。だから今はアスティアのレインを守れという命令を厳守しているようだ。でもそのアスティアに王と呼ばれているレインの命令だって聞いてくれていいと思う。
ハッキリ聞こえているはずなのにここまで無視されるのは悲しい。
そんな時だった。前方でかなりの爆発が起きた。傀儡の何体かが巻き込まれ消し飛ぶような高火力だった。誰がやったのかは明白だ。
「…………すごい爆発だなぁ」
「王よ」
「うぉい!!いきなり後ろに気配なく立つなよ!」
「申し訳ありません。そして敵モンスターですが、やはり肉体を完全に消し飛ばせば再生する事なく死ぬようです。他にも細切れに斬り刻むのも効果的のようです。
ただ効率が悪く、普通の覚醒者に対処することは難しいそうです。弱点などが分かれば再度ご報告させていただきます」
「なるほどね。じゃあ俺でもやれそ」
「王はこちらでお待ち下さい。全ての敵を屠ってみせましょう」
そう言ってアスティアは傀儡たちを率いて前線へと向かっていった。そしてレインと龍王と護衛の天使たちだけがこの場に残された。
「………………やる事なくなっ」
「レインさん!」
「あああッ!!!何だ!!」
突然耳元から女性の声が響いた。耳元で話しかけられている感覚がしてゾワっとする。少ししてこの通信機からの声だと気付いた。危うく握り潰して投げ捨てる所だった。
「聞こえますか?レインさん?シルフィーです!聞こえているなら空に向かって何かしてください!」
「………………何かしろって……結構適当だな」
レインは空を見上げて剣を振ってみた。当然誰もいないし誰も反応しない。天使たちもコイツは何をしているんだ?みたいな感じでこっちを見てくる。
「ありがとうございます!戦闘中に申し訳ありません。そこから南西方向に生存者を確認しました。ただモンスター数匹に追われており危険な状況です。
シエルさんにも声を掛けて向かってもらっていますが、その生存者はレインさんがいる方向に逃げています!なのでレインさんが1番近いと思われます。至急向かっていただけませんか?」
「了解し」
「あ!返事は聞こえないので空に向かって了解ー!みたいなポーズをして下さい」
「…………………………」
レインは空に向かって両腕を使って丸印を作った。ただ物凄いイラッとはした。顔にはしっかり出している。
「ありがとうございます!ではよろしくお願いします!通信終わり!」
シルフィーはそれだけを言い残して静かになった。周囲には傀儡たちの戦闘音だけが響く。
「はぁー……行くか………………南西ってどっちだ?」
その場に行こうと動き出した足が止まった。了解と返事をしたはいいが方角なんて分からない。白魔も周囲の天使たちも当然知らない。というかコイツらは返事すらしない。
「…………白魔…あっちの方へ行け。ゆっくりな?」
レインはとりあえず見ていた方向を指差す。アスティアたちが戦っている右側の方だ。レインを頭に乗せる白魔龍は翼を広げて命令された方へゆっくりと飛んでいく。
「レインさん!!」
「ああああッ!!毎回びっくりする!!」
「そっちではありません!!レインさん、今見ている方向に手を出してください」
「……………………はい」
レインは言われたまま前に腕を突き出す。
「そのままゆっくり左に動かして下さい」
「………………はい」
これもちゃんと言われた通りにやる。
「ストッ…………あー少し戻して下さい!……あーそこです!その方角です!」
「……了」
「返事は聞こえないので空に向かって何かやってください!その方角に生存者が見たところ3名ほど確認出来ます!よろしくお願いします!」
「……………白魔」
レインの足元にいる白魔龍は少し震えている。レインの声にイライラが乗り、白魔龍に伝わっていた。そして何かやらかすと消滅させられてしまうのではないかと思ったからだ。
「この方角へ行け!全速力だ!!」
ガアアアッ!!――と空気を揺らす咆哮を上げた後、白魔は翼を大きく羽ばたかせレインが指差す方向へ全速力で移動を開始した。空には白い光の線が出来上がっていた。
◇◇◇
「はやく!速く逃げるの!」
母親らしき女性がまだ幼さが残る少女2人の手を引いて走っている。その後方からは黒い化け物が十数体追いかけている。
近くにいる同族以外の生物を手当たり次第に襲うモンスターは生存者であるその親子を狙う為だけに大量に集まった。
「お、お母さん……もう…もう走れないよ」
「お願いだから頑張って!」
その時、少女2人……姉妹の内の1人が転けた。既に息もかなり荒れている。連合軍の陣地までまだまだ距離がある。その先に陣地があると知っているのかは分からない。ただ今の親子の状態ではどうやっても無事に辿り着く事は出来ない。
「リン!!」
母親は引き返しリンと呼んだ少女の元へ駆け寄る。その少女の姉と思われる少女も同じように駆け寄った。
そして逃げられなくなった。ただでさえ間も無く追いつかれるという状況だった。そんな状況で立ち止まればすぐに追いつかれる。
黒いモンスターは殺しを楽しむようなことはしない。先頭を追いかけていたモンスターは肥大化した巨大な腕を振り上げてその親子を叩き潰そうとする。
「きゃああああ!!」
少女は目の前に迫る巨大な黒い腕に恐怖し叫ぶ。
「オラァ!」
しかしその腕が家族を叩き潰す前にレインが到着、その腕を全力で蹴り上げた。そのモンスターの腕は千切れて見えなくなるほど上空へと飛んでいく。
レインはそのままモンスターの腹部辺りを殴り、後ろからさらに接近するモンスターたちに向けてぶっ飛ばした。
「…………あ、あなた…は」
母親が尋ねようとする。レインも真っ黒な服を着ている。兵士らしくない格好だ。どこにも所属していないから国旗やギルド証も身に付けていない。
だからその親子にとっては味方なのかどうかは分からない。
しかしレインが返事をする前にその親子の背後に巨大で黒と白が入り混じるような翼を持つ龍が着地した。さらに続けて数十体の黒い天使たちも到着する。
目の前から迫ってくる黒いモンスターたちと似た風貌のモンスターが背後に来た。
「ひぃ!!」
その親子は覚悟するしかなかった。一瞬、ほんの一瞬だけ助かったのかもしれないと思ったが、完全に囲まれてしまった。
「大丈夫ですか?怪我は?」
しかしレインがそう問いかけた。会話が成立する相手だと分かった母親は全身の力が抜けたように後ろへ倒れ込む。それをレインは優しく受け止める。
「お前たちの指揮権をアスティアから剥奪する。白魔、天使たちは奴らを殲滅しろ。……いや大天使2体は残ってこの子達を全力で守れ。いけ!」
レインの命令を受けた天使たちと龍は行動を開始する。――ガァ
「うるさい!いちいち叫ぶな!唸り声で我慢しろ!」
白魔は行動を起こそうとする度に咆哮する癖があるようだ。傀儡が持つ癖って何?となるが、実際にそうなんだから仕方ない。
グルルルッ――と小さな唸り声をあげて白魔は飛び立った。既にこちらへ向かっているモンスターへ向けて突撃している天使たちを追いかける。
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