第269話
「超越者の皆様……ご用意の方はよろしいですかな?」
後ろから声を掛けられる。振り返るとそこには立派な髭を持つ老兵と護衛と思われる数名の兵士たちがいた。
「やあ!将軍、こっちは準備OKだよ。作戦はどうする?」
シエルがその老兵を将軍と呼んだ。つまりこの人がここに集まった100万人近い軍集団の総司令官という事だ。確かに踏んできた場数が段違いな風貌をしている。
「はい、超越者の皆様方にはヘリオス首都、炎陽都へ進軍し、ヘリオス国家元首を捕縛していただきます。道中の敵モンスターは可能な限り殲滅していただきたいのですが、あくまで進軍速度を意識して下さい。
討ち漏らした敵は後方から遅れて追従する各国の神覚者と覚醒者連合軍で対処致します。ヘリオス側の生存者に関しても我々にお任せ下さい」
「なるほどねー。じゃあ僕たちはあの黒い肉塊みたいなモンスターを倒しながら首都を目指して……敵の親玉を捕まえろって事かな?」
「おっしゃる通りです」
「倒すのはモンスターだけか?もしヘリオスの国民が武器を持って襲ってきたらどうする?あとどれくらいの速度で行けばいいんだ?ここからヘリオス首都ってかなり遠いだろ?」
とレインも質問する。敵の殲滅に関しては問題ない。何が1番の問題かというとヘリオス首都の場所が全く分からない事だ。あと国家元首が誰なのかも分からない。知ってるのは名前くらいだ。
その辺の質問が出ないという事は知っていて当然という事だ。バカだと自覚していても、わざわざ公にする必要ない。というかしたくない。だから後でこっそりカトレアに教えてもらうとする。
「武器を持って攻撃してくる者は老若男女問わず全てモンスターと見做します。武器を捨てて降伏したとしても人間には戻らないものとして下さい。
進軍速度に関しては単騎で突出し過ぎない程度でお願い致します。あまりに突出している、または遅れている場合は『千里の神覚者』様に連絡していただく手筈となっています。休息に関しても各自の判断でしていただいて問題ありません」
「連絡?どうやって?」
「………………こ、これ…です」
既にフラフラになっているシルフィーから初めて見る小さな物を渡される。
「これは?」
「それは我が国が開発した長距離通信機です。一定の魔力を注ぎ込み続けている間のみ連絡が可能です。連絡可能距離は数百km程ありますのでここからでも充分に連絡が取れます。
ただ私からレインさんへ語りかけるのみで、レインさんの声は私には届きません。一方通行なんです。なので返事は空に向かってマルだったりバツだったりと何かしらの仕草をして下さい。それを見て改めて連絡します」
「へぇーこんなのがあるんですね。どうやって付けるんですか?」
「貸してください。これは…ヒッ!……ど、どうぞ」
シルフィーはレインの背後に視線を移して怯えるように小さな悲鳴をあげる。そして誰かにその通信機を手渡した。
「私が付けて差し上げますね?動かないで下さいよ?」
やはりシルフィーから通信機を奪い取ったのはカトレアだった。そしてレインの耳にその通信機を付ける。耳の穴に押し込み、メガネのように耳に引っ掛けて固定するようだ。
さらにそこから紐が伸びていてレインが身に付けている服の襟に取り付けられる。もし戦闘で外れても地面に落ちないようになっていて壊れず、失くさない様に設計されている。
「何でこんなに密着するんだ?……暑いんだけど」
既に通信機を付け終わっているはずなのにレインの背後に腕を回して抱き付いている。
「なら本気で冷やして差し上げましょうか?シルフィーにやったのよりも遥かにすごい事をね」
「やめてください」
「君たち本当に仲良しだね。でもカトレアって結構性格キツいからレインも大変だね」
シエルがニヤニヤしながらやって来てレインの肩に手を置いた。分かっているのなら助けて欲しい。そしてレインでも言えない事を本人の前で遠慮なく言った。
「…………ほんと」
「肯定したら今ここでレインさんと一緒に自爆しますよ?」
「そんな事ないヨ!とっても優しい性格だヨ!」
「…………涙目なのが本当に見てられないよ。じゃあ将軍、君たちの準備はどうだい?僕たちはいつでも行けるよ?というか早くしないと超越者の1人か2人が離脱する事になりそうだから早くしてね。本当に協調性ないからね」
超越者は世界最強格の覚醒者だが、変人も多い。気が変わって帰る可能性だってある。レインも既に一旦帰りたくなっている。そして本当に帰ってもそれを咎める者は誰もいないだろう。
「はっはっは…もちろんこちら側の準備も整っておりますよ」
「じゃあみんな行こうか。……いいかい?僕たちは最強で無敵で無敗で無双だ。ただいつも通り与えられた任務を遂行するのみ。そして思い出せ。奴らが僕たちに何をしたのかを」
シエルの雰囲気は一変する。お調子者のように見えたが、やはり1位だ。口調を変えるだけでその場の者たちも自身を律した。
「憎しみは憎しみしか生まない?大いに結構だ。なら僕たちは憎しみを育む余裕すらないほど敵を完膚なきまでに叩き潰す。そして今はそれを容易くやってのけるだけの力が集っている。さあ無慈悲に任務を遂行しよう」
「「「了解」」」
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