第268話







「まあ知ってるけどね。じゃあ次はこっち側だね。まずは言い出しっぺの僕から……『天空の神覚者』シエル・フィドクラムです。超越者ランキングは1位です!風とか空気を色々操ってる感じだね。よろしくー」


 シエルはニコニコしながら手を差し出す。魔力を抑え込んでいるのようだが、白にも緑にも見える魔力が渦巻いている。1位となっているだけあってこれだけ鍛えた魔王レインに届き得る魔力を感じる。

 

「1位?……すごい若そうに見えるな」


 レインはそれに応じて握手する。最初に挨拶してきたのが1位だった。レインよりも確実に歳下だ。その後ろに控えている超越者たちの中でも1番若い。


「そう?一応16歳だけど……君からすれば若いのかな?まあ覚醒者に歳なんて関係ないよね。とにかくよろしくー。じゃあ次は……」


 シエルは後ろを振り返る。次は誰が自己紹介するのか確認している。

 

「じゃあ私にしておきます。こんにちはレインさん、私は『千里の神覚者』シルフィー・ウェルサーです。

 私は超越者たちの中でちゃんと戦えないんです。身体能力も本当に雑魚なので戦闘は期待しないでください。

でも地上であればどこでも制限なく俯瞰する事が出来ます。

 まあそれだけですけどね。ただ私のスキルを前にして揺動も待ち伏せも逃亡も隠し事だって出来ません。今回のヘリオス軍掃討作戦においても情報はちゃんとお知らせしますのでご安心下さい」


「……建物の中まで見れるんですか?」


 レインはシルフィーと握手しながら何となく質問する。その握手する手を睨み付けているカトレアは無視する。いちいち相手にしていたら自己紹介だけで日が暮れる。


「上から見るだけなので残念ながらそれは難しいですね。……もうレインさん…そんな事聞かないで下さいよ。私が何も出来ない子みたいな感じになっちゃうじゃないですかぁ……」


 そう言ってシルフィーはレインの手を握ったままもう片方の手でレインの胸元に触れる。そしてシルフィーは微笑みを絶やさずレインの顔をジッと見つめる。


「…………レインさん、もし良ければッはあああ!!つ、冷たい!冷たい!!」


 手のひらに氷結魔法をフルパワーで展開したカトレアがシルフィーの服をたくし上げ、背中に躊躇なく手を突っ込んだ。


「うわぁ……」


 以前首にアレをくらったが背中に直接やられた事を想像すると体調が悪くなりそうだ。シルフィーが可哀想とすら思える。


 身体をよじって何とか離れようとするシルフィーにカトレアがしがみ付き、背中とさらにお腹に氷を当てている。


「私の旦那様になに色目使ってるのよ!シルフィー!!貴方といえど許しておけぬ!覚悟なさい!」


「だ、旦那様?!それに何よ!その話し方!あああ!冷たい!やめてぇー!」


「次はワシの番だな。あの阿呆2人は放っておけ。時間の無駄だ。ワシは『滅壊の神覚者』ランドサール・アルドミナだ。スキルは触れた物を粉々にするという単純なものだ」


 と言いながらランドサールは手を差し出す。レインはそれを握ろうとは思えなかった。逆に触れた物を粉々にするって自己紹介してきた奴の手を誰が握りたいと思う?


「はっはっはっ!大丈夫だ。お主を粉々する事はできんよ。保有する魔力が多いものは私の破壊も効果が薄れるのだ。お主ほどの魔力ならば破壊しようとすればこちらが弾かれるだろうな。元よりお主にスキルを使う……というかお主と敵対するつもりはない。長生きしたいのでな!」


 握手を躊躇していたレインの手をランドサールは無理やり両手で力強く握る。何故まだ戦闘も始まっていないのに手のひらが汗でべちゃべちゃなのだろうか?


 レインはランドサールに何処かの白髪のおっさんを重ねる。多分ここにも来ている。この人自体は何も悪くないのに既に嫌悪感を覚え始める。


「どうも……よろしく……」


 ランドサールから解放されるタイミングで別の女性がレインの前に出てきた。

 

「次は私ね。私は『真雪の神覚者』イレネ・アストリアよ。こんな感じの雪の子たちを使役しているの。貴方と似ているかもしれないわね」


 と言いながらイレネは自分の足元に氷の狼を召喚した。レインが使役する傀儡の番犬に似たような形だ。前にもどこかのバカ王子が同じようなのを召喚していた。


「これって何体くらいまで召喚出来るんですか?」


「…………2,000体はいけるわね。それにこの子たちは破壊されて初めて真の能力が発動するからね。見た目で騙されない方がいいわよ。……まあそれでも貴方とは戦いたくはないわね。とりあえずよろしくね」


「……よろし……冷たッ!」


 レインはイレネと握手するが、すぐに手を離してしまった。尋常じゃないくらい手が冷たい。


「貴方……『凍結』のオルガと会ったことあるんでしょ?氷雪系のスキルを持ってる高ランクの覚醒者はみんな冷え性なのよ。いちいち驚かないでもらえるかしら?」


「…………申し訳ない」


 レインは頭を下げた。カトレアとは違い、イレネの冷たさは体質でどうしようもないものだ。そんな事すら分からず手を離してしまった事に罪悪感を覚えた。


「別に……謝ってほしいわけじゃ……まあいいわ。お互い頑張りましょ」


 そう言ってイレネは歩いて行った。そして目付きの悪い男がレインの前に立つ。


「『炯眼の神覚者』セスフィア・ディルギウスだ。私は対覚醒者……それも神覚者専門だ。今回の戦争ではあまり役に立てないだろう。だから覚えてもらう必要はない……以上だ」


 それだけを言い残してセスフィアは何処かへ歩いて行った。無愛想な奴だと思ったが、さっきまでレインも同じような感じだった。そう思ったレインは少し反省する。


「最後だな。『冥翼の神覚者』メルセルだ。この翼で色々やってる」


 メルセルは自分の背中を指差す。すると真っ黒な天使の翼が片側3枚、計6枚出現した。アスティアの翼にかなり似ている。


「……そうか。空も好きに飛べそうだな。羨ましいよ」


「飛べる以外にも色々出来るんだぜ?まあ教えてやる義理はないな」


「まあそうだな」


 メルセルの淡白な感じはレインと似ているものがある。この人となら仲良く出来そうだとレインは思った。



 

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