第267話
◇◇◇
エスパーダ帝国からの要請を受けたイグニス王国の王族、貴族、兵士そして覚醒者たちはすぐに行動した。
まず各国で暴れていたヘリオス兵たちは神覚者と高ランクの覚醒者たち、そして援軍として参戦した傀儡たちによって駆逐された。最後は兵士というよりは真っ黒な醜い化け物となってしまっていたが、いきなり攻撃してきた奴らに情けなど不要だった。
ヘリオス強化兵と呼ばれた者たちは魔力がないのに覚醒者相当の身体能力を得ていた。だから普通の兵士には対処が難しく被害は増えて行った。が、すぐに立て直した各国の兵士や覚醒者たちの方が当然強かった。
ヘリオス兵たちが聞かされていた情報とは全く異なりただ時限式に化け物になる副作用としての肉体能力だった。その副作用が強く出た者が適合者と呼ばれてに過ぎず、最後は皆等しく化け物となった。
各都市の上空に飛来していた魔動飛行船も全て撃墜された。各都市に攻め込んだヘリオス兵の生存者は0人で数十万人の兵士を1日で失った。
しかしその飛行船から放たれていた爆炎弾が大国の帝都や王都、重要施設を破壊した。ヘリオス側の戦果としては十分だったと言える。
そしてその攻撃のせいで多くの国民が犠牲になり、完全に復興するまでは年単位の期間が必要になった。
その多大なる被害に対する報復の為、常に領土、歴史、考え方の相違で言葉による応酬や紛争をしていた複数の国家が1つとなった。国家間の利害を捨て、傷付けられた国家と国民に対する報復の為、ヘリオス新覚醒者主義共和国連邦へ一斉に宣戦布告した。
その日から僅か数日後、場所はイグニス南西部にある新設された簡易拠点地帯に全世界から覚醒者と兵士たちが集められた。普通ならば考えられない速度で調整が進み、混乱も一切なく圧倒的な数の多国籍連合軍が集結した。
20人を超える神覚者と数十万人の覚醒者、100万人近い兵士たち。かつてこれほどの者たちが1つの場所に集結した事例はなかった。全員がヘリオスへの報復を誓い合う事で助け合ってその時を今か今かと待ち侘びている。
ただ今はそんな者たち全てが視線を向ける存在がいた。当然奥の方にいる者たちは見えないが、それでも何とかして見ようと高台や防壁に登る、魔法を使って空から見ようとする者たちすらいた。
1人で中小国の全戦力に相当する力を持つ人智を超越した者たち。普段なら声をかける事、視界に入れることすら困難な者たちが今ここには揃っている。
◇◇◇
「とりあえず自己紹介しておく?」
真っ白な髪の若い男が最初に口を開いた。ここに集まった超越者の中で1番若い。レインにはそう見えた。
「そうしましょう!私たちはお互いの事は知ってますが、レインさんは初対面ですからね!超越者8人全員がこの場に揃うなんて快挙ですよ?世界だって滅せますよ!」
別の女性が話を続ける。笑顔ですごい怖い事を言う。
この場には超越者が8人揃っていた。エスパーダ帝国の要請によりレインも参戦する。要塞がなくてもイグニスから依頼されたはずだし、依頼がなくてもエリスに危害を加えた国家はどの道滅ぼすつもりだった。
ただレインはカトレア以外を見るのは初めてだし会話の必要がなければ話もしない。レインには会話力がとことん無い。
ただただ屋敷に置いてきたエリスの心配をしている。アルティをエリスの側にあまり長い期間居させたくない。悪い影響しか与えないのは明白だ。
レインは魔王となったが、特に変化はない。魔力と身体能力は今以上増える事はない。技術を磨けば更なる高みを目指せるが、それを学ぶための知識が絶望的だった。
魔神さんの言う通り寿命という概念はかなり希薄なものとなった……と思う。自分の寿命が延びたのなんてどうやったら分かるんだ?と聞きたい。
見た目も今のままから変わる事はない。ただ普通に怪我をすれば血は出るし、死ぬ事もある。
魔神さんが言っていたのは自分が創った魔王たちに対してのみ有効だったと思われる。だから本当に何も変わっていない。強いて挙げるなら傀儡が強くなったくらいだ。
「………………どっちでもいいよ。多分、そんなにしっかり覚えられないから」
レインの言葉に流石の超越者たちも引いているようだ。今回の作戦の指揮を取るのはエスパーダ帝国の司令官だ。
その司令官曰く超越者は連携するとむしろ弱くなる。元々協調性がないし、連携できるようなスキルでもないし、連携する為に敢えて出力を抑えるとそこら辺の神覚者と変わらない。
他を寄せ付けない圧倒的な強さこそが超越者と呼ばれる所以だ。だから超越者たちは味方を巻き込まない立ち回りとそれぞれがどこ向かうのかを明確にしておくを徹底すれば放置でいい。
そしてそれ以外の覚醒者や兵士たちは辺りにどの超越者がいるのかを把握して進軍する。超越者の戦闘に巻き込まれて死んだとしても超越者たちが罪に問われる事はない。
ただその死んだ者が愚かだったと鼻で笑われるだけだ。
味方の攻撃で死にたくないなら超越者に近付くなというのがエスパーダ帝国兵士たちの常識だった。
「とりあえず名前と戦い方だけ言っておくよ。君が使役している不死の軍団……だっけ?それを巻き込んじゃうかもしれないからね」
「……分かった。『傀儡の神覚者』レイン・エタニアです。色んな奴を召喚して戦います」
レインの自己紹介が3秒で終了した。今更レインの名前やスキルを全く知らないという覚醒者はいない。それが超越者なら尚更だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます