第263話






 そのままレインはアッシュが言っていた身体の中央を両断する。


 "……今何か硬いところがあったな。今のが核か?"


 先程の化け物を斬った時とは違う感触があった。おそらくアッシュが言った通り、そこに核があったのだろう。その化け物は一瞬だけ再生しようとしたが、すぐに砂になって死んだ。


「おおー!さすが引きこもりでも神覚者だな!やっぱり強いんだなぁ」


「うるさいよ。あと……多分10体以上は近くにいるな。俺だけだと時間かかるから手伝ってくれ」


「もちろん良いぜ!後で飯奢ってくれよ!」


「この後は街の復興だ。お前は土でも食べてろ」


「ケチだなぁ。どうせ何千億も金持ってるのに使ってないんだろ?昔から自分の買い物全くしなかったもんな。黒い服着てるのも汚れが目立たないとか……そんな理由だったよな?」


「別にいいだろ。うるさいなぁ」

 

 レインとアッシュはそんな会話をしながら歩き出した。2人にアッシュのパーティーメンバーもついていく。そんな2人をパーティーメンバーは微笑ましく見ている。レイン自身もかなり久しぶりの友人との気を使わない会話を楽しんだ。



◇◇◇



「よっしゃー!これで15体目だ!」


「何でアンタが倒してる風なのよ。全部神覚者様が倒されたんでしょ!殴るよ!」


「ご、ごめん」


 レインの後ろでアッシュたち夫婦がイチャイチャし始める。レインという最強の存在が街へ戻り、暴れていた化け物を次々と討伐していく。


 そしてこの夫婦がいつもの日常のような会話をそこそこの大声でしているから家の奥で閉じこもっていた人たちを引っ張り出した。そこでようやくレインがそこにいて街で暴れている化け物を討伐している事を国民たちが知る事になった。


 今、外にはあのレインがいる――その事実はいきなり攻撃を受けて何が起きているのか全く理解できず、ただただ恐怖に支配されていた国民の心を救うのには充分すぎる事だった。


「し、神覚者様だ」

「神覚者様が……私たちを救ってくださった」

「これでもう大丈夫だ」


 そんな声が建物から出てきた国民から次々と上がる。街はまだ所々で火が上がっている。ただ街の中での戦闘音は消えた。攻撃は止み、敵の全てが撃退されただけでも国民に希望を与える。そんな希望を与えているという事をレインだけが分かっていなかった。


「…………これで終わったな。アイツらも戻すか」


「アイツらって?」


「俺のスキルだ。……アスティア聞こえるか?」


 "…………はい、我が王よ…聞こえております。如何されましたか?"


 "こっちは終わった。これから街の復興と負傷者の治療だ。そっちはどうだ?"


 "はい、既にメルクーア、サージェス、ヴァイナーに侵攻していた敵性勢力は殲滅致しました。途中から身体を肥大化させるなどの変化がありましたが、全て問題なく対処致しました。ヴァルゼルの方も滞りなく進行中と思われます"


 アスティアは現在の状況を淡々と簡潔に述べていく。アスティアのレインは頭が弱い。だから難しい言葉は使わず可能な限り分かりやすく伝えることを意識していた。


 "分かった。すぐに戻って来れるか?怪我人がかなり多そうだ。火事もまだかなりの場所で起きてる。とりあえず何とかしないと"


「お待たせして申し訳ありません」


「「うわあぁっ!!」」


 いきなり後ろから声を掛けられる。視界の端にいきなり黒いデカい塊が出てきた。レインとアッシュは同じような声で悲鳴をあげる。


 アスティアたちは一瞬にして帰ってきた。ただ全ての傀儡が戻ってきたわけじゃないようだ。アスティアの他に熾天使と大天使たち上位の傀儡たちとその傀儡に連れられた天使の一部だけが転移魔法で戻ってきた。


「いきなり出てくるなよ!本当にマジでビックリするから!俺そういうの苦手なんだよ!」


「申し訳ございません、我が王よ!」


 アスティアは膝をついて頭を地面に激突させた。その場所は大きく窪み、その振動でアッシュたちは尻餅をついた。


「ごめん……それもやめてくれる?とりあえずお前たちって治癒魔法とかは使える?もう阿頼耶とかを行かせてるんだけど……多分人手が足りなさそうだ。火事の方も兵士たちだけで対応し切れていない。どうにかできるか?」


「ハッ!私は治癒魔法は使えませんが、熾天使や大天使は少し扱えます。火事の方も水創生系の魔法で消し止めましょう」


「そうか、じゃあ行け。何かあればまた報告しろ。ヴァルゼルにもここに戻るように伝える事は出来るか?」


「それに関しても可能です。そちらの方も合わせて進めていきましょう。では失礼します」


 そう言ってアスティアと天使たちは飛び立って行った。アスティアの指揮ならば傀儡たちも優れた行動を取れるはずだ。レインが指揮するよりは任せられる。


「召喚した駒って話すんだなぁ」


 アッシュはそんな事を言い出す。もう自分にできる事はあまりないと思っているのか警戒もしていない。


「俺のが特殊なん」


「レインさん!」


「「うおおおっ!!」」


 今度はカトレアがレインの背後に突然現れて飛び付いた。カトレアもアスティアほどの長距離ではないが転移魔法が扱える。


 それでいきなり背後に出現してレインに後ろから抱きついた。レインとアッシュはまた同じような悲鳴をあげる。


「おぉって……貴方はまさか……魔道の神覚者様ですか?」 


 アッシュが突然畏まった話し方をする。その話し方と自分への話し方の差に納得がいかない自分がいた。


「おい……何でカトレアには様って付けるんだよ。俺だって神覚者だぞ」


「レインは……まあ何だ?なんちゃって神覚者みたいな感じなんだよね。うーん……でも2人の感じを見てると……結婚間近っていう噂は本当なんだな?」


「おい……その話もう少し詳しく言ってくれ」


 レインは初めてアッシュに本気で詰め寄った。カトレアを背負ったままだから何とも滑稽な姿となってしまっていた。


 


 

 

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