第262話
レインの剣は化け物の腕を容易く両断する。そしてレインはそのまま着地と同時に回し蹴りを放って吹っ飛ばした。
ただ他の屋敷にぶつける訳にはいかない。化け物が建物にぶつかる前に複数の刀剣を召喚し、壁を作った。その化け物は勢いよく刀剣の壁に激突し全身隈なく串刺しになった。
「コイツ……見た目より硬くないし軽いな」
見た目だけなら巨人にも匹敵しそうな重さだ。しかしレインの蹴りだけで簡単に吹っ飛んだ。再生能力が高いといっても全身が串刺しになっていればなかなか出来ないようだ。小さな呻き声を上げながらモゾモゾと動こうとしている。
「さっさとトドメをさしてやる。他にもいそうだからな」
レインは手を握る動作をする。するとその動きに呼応するように化け物に突き刺さっていた全ての刀剣はそれぞれの方向へ移動する。そんな事をすれば当然、化け物の身体はバラバラに切り裂かれる。レインの目の前で化け物は複数個の肉塊となった。
「…………まだ生きてる…のか?なんか動いてるけど?」
地面に赤黒い血と共にバラバラになった化け物の肉片はモゾモゾと動き続けている。それぞれの肉片が再生しようとお互いを求めているかのようにも見える。とりあえず本当に気色悪い。
「とりあえず全部の肉片みたいなのも斬っておくか」
レインは片手を振り下ろす。すると刀剣はそれぞれの肉片へ向けて突撃し、串刺しにした。
「……ん?」
その直後に肉片は全て砂になって消えてしまった。これでようやく死んだという事になるのだろう。
「死んだか?」
「はい、そのようですね」
カトレアも屋敷の庭から出てきた。砂になった化け物を見てそう呟いた。
「再生能力の限界を越えるとあのようになるのか、もしくは身体のどこかにこれくらい小さな核のような物があり、それを壊さない限り再生しようとするのかは不明ですが……死ぬというのが分かれば問題ありませんね」
カトレアは指で小さな輪っかを作る。もしあの肥大化した身体の中にそんな小さな核があり、それを破壊しないといけないなら大変だ。核の位置が分かっていれば問題ないが、もし移動したりするのならかなり細切れにしないと当たらない。
完璧に消し飛ばす事も出来ないわけではないが、魔力の効率を考えれば難しいだろう。
「……………………空中に投げ飛ばして龍のブレスで消し飛ばすか」
レインは珍しく無い地頭を回転させて対処法を考えた。しかしものの数秒で頭が痛くなってきたので考えるのをやめて強行手段を取る事にした。
「じゃあ手分けして殲滅していこうか。これ以上無駄な被害は出したくないからな。行くぞ」
「はい!」
そこで2人は分かれた。テルセロの中にもまだまだあの化け物はいる。神覚者やSランクなら時間はかかるが問題なく対処できる。しかしそれ以下の覚醒者なら化け物より先に覚醒者の方に限界が来る。レインは急いで戦闘の音が響く街の中央へ向けて跳躍した。
◇◇◇
レインは屋根の上を飛びながら耳をすませて戦闘の場所を確認する。そしてすぐ側で悲鳴が聞こえた。
「そっちか!」
レインはすぐに向かう方向を変える。そしてすぐに屋根から飛び降りて、そこにいた化け物を上から蹴り下ろした。予期せぬ方向からの一撃により化け物は地面に深く沈んだ。
「レイン!」
「……え?」
その化け物に襲われていた誰かを助けた。しかしそれが誰かまでは確認していなかった。助ける助けないを人で選ぶような奴にはなりたくないから確認していなかった。
しかしこの街……というかこの世界でレインの事をレインと呼んでいるのは2人しかいない。そしてその声は男だった。ならもう1人しかいない。
レインはその声が誰なのか、ほぼ確信した状態で振り返って確認する。
「アッシュか!」
「レインー…助かったよー!!死ぬかと思ったよー!」
久しぶりに再会したアッシュはレインの肩に手を置いて揺らす。アッシュの後ろには前に一度だけあったパーティーもいた。その中にはもうアッシュと結婚したであろうカトラもいる。
「何でここにいるんだよ。この化け物はDランクには厳しいぞ?」
「仕方ないだろ!俺たちだって覚醒者なんだ。この街の為に戦わないと!……でもな!あの変な気色悪い奴も1体倒してるんだぜ!」
「え?マジで?俺とカトレア2人でさっき1体倒したけど……錯乱してるのか?」
神覚者2人で時間をかけて倒した化け物をDランク覚醒者だけのパーティーがすでに倒した?それはあり得ない事だとレインはアッシュの錯乱を疑った。
「違う!!俺にはな!〈観察〉っていうスキルがあるんだよ!」
「か……観察?」
「今ショボイスキルだなぁ……って思ったろ!これはな!相手の弱点をやんわり察知できるっていうスキルなんだよ。それであの変な奴の核を察知してそこばっかり攻撃してたらいけたんだ!
でもそこに埋まってるのは身体の中心にあるせいで俺たちの攻撃じゃ核を破壊出来なくて苦戦してたんだよ」
「そうか……でもそんなスキル持ってなかったよな?どうやって修得したんだ?」
スキルの発言は覚醒者であれば発生する。ただ高位の覚醒者でもなければかなり難しくDランクのアッシュだと相当な努力をしないといけないはずだった。
「え?……えー?」
「何だよ?うざいぞ?」
「なんか……嫁が可愛いなあってずっと見てたら覚えた」
「ちょっと!アンタ神覚者様に何言ってんのよ!……も、申し訳ありません!」
アッシュの嫁になったカトラはアッシュの頭を誰が見ても強いと感じる威力で殴る。
「まあ……幸せそうで良かったよ。なら尚更怪我しないように後ろにいろよ?」
「は、はい!ありがとうございます!」
レインは剣を持つ手に力を込めて地面から這い出てきた化け物に向かって歩いて行った。
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