第257話







 またレインもオルファノの反応がかぶる。さっきまで握手だったのに何故かハグに変わった。握手を拒んだからハグにグレードアップされてしまった。


 "エリス……いつにも増して仲良くしなさい!みたいな感じになってるな。多分、俺と天使が仲悪いと離ればなれになっちゃう……みたいに思ってるんだろうなぁ。傀儡を派遣したとはいえテルセロには早く戻らないといけないから急がないと"

 


◇◇◇

 


「き、貴様!!変な想像してるんじゃないだろうな!」


「してない……なあエリスもういいだろ?」


 絶望の表情を浮かべながらオルファノはレインの背中に手を回す。レインも同様に手を回した。エリス以外、全員が何をしているのだろう?という疑問を持ったが仕方ない

 

「うん!いいよ!これでみんな友達だね!」


「そ、そうだね」


「よし!テルセロへ戻るぞ!そろそろアイツも街へ着いてると思う。本気で怒って暴れられたら余計に街が壊れるぞ!」


 レインが言うアイツとは最強の魔道士だった。感知能力をさらに高めたレインは魔王となった自分の魔力にすら届きうる魔力を持った者がテルセロは高速で向かっているのが分かった。


 彼女ならばテルセロに残っている敵兵士を殲滅出来るだろう。ただ本気で怒ってあの天使を召喚されると街への被害が余計に大きくなる。そこまで冷静さは欠かないだろうが、心配ではある。


 天使たちとの地獄みたいな交流会を終えたレインは龍王に指示してテルセロへ向かわせた。

 


◇◇◇

 


 テルセロに残るヘリオス兵たちの攻撃は止まない。何故ならヘリオス兵を圧倒できる力を持ったSランクや阿頼耶、傀儡たちは1つの場所を守る事しかできない。


 街に出て戦っているのはイグニス王国軍と滞在していた覚醒者たちだけだった。エリス追撃のために半数近くが離脱したとはいえ戦力差は圧倒的だった。


 何より空中から魔法を放っている飛行船が厄介だった。エリス殺害の為に3隻が移動したが、まだ2隻がテルセロの上空で浮遊している。

 高威力の爆炎弾は最初の数撃で使い果たしたが、また矢や槍、そして攻撃魔法が雨のように降って来ている。


 対してこちらの矢の魔法は届かない。高位の覚醒者の魔法攻撃であっても途中で失速し効果がない。


「ふははは……下等なゴミどもが地上で何かしてきておるわ!この魔動飛行船の高度には如何なる魔法も届きはしなッ」


 この言葉を最後に飛行船の操縦席と司令室がある場所が爆発により吹き飛んだ。その爆発は続けて飛行船全体に広がっていき巨大な火の玉が上空で完成した。


 飛行船は爆発音を周囲に轟かせながら墜落していく。しかし飛行船は謎の突風によりテルセロには落ちず少し外れたところにある平原へと落ちていった。


「魔動飛行船9号が墜落!」


「な、なんだと!一体どこから何の攻撃だ!」


「ち、地上からです!炎の熱線がいきなり……こ、こちらにも来ます!」


「か、回避!」


「間に合いません!……うわあああッ!」


 残っていた飛行船の司令室も炎の直撃を受けて爆発炎上した。そしてそれを地上で見ていた者がいた。


「これで空からの攻撃は止みますね。ではこのままこの街に入り込んだ害虫を処理しましょう。誰1人として生かして帰さない。私にとっても大切だったこの街と国を攻撃した罪……後悔させてやりましょう」


 たまたま遭遇したダンジョンを攻略し、戻っていた魔道の神覚者カトレアはテルセロ内部へと入っていく。道中にも遭遇していたヘリオス兵たちは全て殺害していた。


「天使たちよ……全ての敵を殲滅なさい」


 カトレアの背後に控えていた4体の天使たちは一斉に街中へと散っていく。それを確認したカトレアもゆっくりと浮遊し、街の中央へと進み出した。



◇◇◇

 


「あの人が戻られましたね。レインさんと間違うほどの強大な魔力です。これでもう敗北はありませんが……これ以上死傷者を増やさない為にも早急にここを片付けて私も援護に向かうとしましょう」


 返事をしない傀儡たちに話す様に阿頼耶は呟く。阿頼耶と背後に並ぶ傀儡たちの周辺には無数のヘリオス兵たちの死体が積み上がっている。


 その死体の中に五体満足な者は1つもない。手脚を失っていたり、頭のないものも沢山あった。瀕死で留めるような事はしない。確実に意識して殺していった。


「女ぁ……降伏すれば更なる地位と名誉を与えてやるというのに……」


「またそれですか?何度も何度も同じ事の繰り返しで聞き飽きました。お前たちが適合者と呼んだ少しだけ強かった者も既に死んでいます。お前たちに勝ち目はない。時間の無駄になるから各自で自害してもらえると助かります」


「ふざけるな!!おんッ」


 先頭に立っていたヘリオス兵の首が大きく裂かれ血を噴き出して倒れた。既にその背後にいた複数のヘリオス兵たちもほぼ同時に倒れた。


「すまない……遅れた。王女は無事か?」


 そこに立っていたのはレガだった。黒龍ギルド所属のSランク覚醒者であり暗殺者だ。そのレガに続くように武装した黒龍の覚醒者たちも突入してきた。


「あなたは……たしかレガさんでしたね。王女様はこの先の謁見室に使用人たちといます。ここ以外の通路は生き残った兵士たちがバリケードを構築して敵の侵攻を防いでいるはずです」


「了解した。城の入り口からここまでの敵は全て片付けた。貴方はすぐに自分の屋敷へ戻ってくれ。ここは俺たちが受け持とう」


「了解しました」


 そう言って阿頼耶は傀儡たちを率いて王城から離れていった。そして全速力で屋敷へと戻る。その間、阿頼耶はずっと考えていた。


「……やはりこの者たちはそこまで強くない。痛覚を鈍らせて身体能力をある程度強化されているだけ。数が多いから兵士たちも苦戦してるけど……やたら好戦的で凶暴な性格だ。統率も最初だけですぐに乱れた。

 もしかすると何か薬のようなもので無理やり強化している?でも本物の覚醒者には遠く及ばない。

 不意打ちで戦果を得たとはいえ、この人数と装備だけで大国イグニスを相手に出来るはずがない。すぐに消耗してしまう。こんな無謀な事を大国がするのか?」


 阿頼耶はこの戦争の原因が分からなかった。その裏で別の何かが動いている気がしてならない。この攻撃とヘリオス兵たちの犠牲そのものが陽動な気がしてしまう。


「何を企んでいる?」


 阿頼耶はそう考えつつもレインの屋敷へと戻って行った。


 

 

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