第256話
そして天使たちは空を風のように、傀儡たちは地上を波のように進軍して行った。その場には地に伏せて巨大な頭を地面に擦り付けている2体の龍王と漆黒の天使たちが100体ほどだけ残った。
「よし、テルセロヘ帰ろうか。状況を確認しないといけない」
レインはエリスを優しく抱きかかえた。そしてテルセロの方を向く。みんなが無事だというのは分かる。ただ街の状況までは分からない。
「お兄ちゃん……みんな無事だよ…ね?」
「当然だ。俺の傀儡が相手を全部倒してると思うよ」
レインは魔王となったことで傀儡の周囲の状況までもある程度なら理解できるようになった。戦闘中なのか、何処にいるのか、周囲に何があるのかくらいは理解できる。
テルセロに配置した傀儡で戦闘中でない傀儡はいない。全ての傀儡が戦闘しているようだが、誰も再生するほどの損傷を受けていない。
王城にも数体いるが、大部分はレインの屋敷にいる。ちゃんとレインがいない間も役割を果たしてくれたようだ。
「し、しかし……レインさん、私たちのブレスレットからは……あの…レインさんの傀儡が出てきませんでした。姉さん達も同じようになっていたら……」
「ああ……それは…」
そこまで言ってレインは口を閉じた。エリスとステラに付けた傀儡が発動しなかった理由はエリスの神の魔力によって召喚が阻害されたからだ。実際にエリスを見て気付いた。
ただそれを言うとエリスは必ずひどく落ち込む事になる。本当にビックリするくらい優しい性格だから言葉に気を付けないといけない。
「ブレスレット間って移動できるんだよ。だからテルセロの家が危ないかなってアメリアたちの方に回したんだ。まあエリス達がここにいるとは思わなかったけど」
「申し訳ありません!私の判断でエリスさんを連れ出してしまったんです!この失態、命を持って」
「ああ!ちょっ!コラ!」
レインはエリスを抱えたままステラも抱きしめた。いきなり短剣を抜いて首を斬ろうとするから咄嗟にやってしまった。
「ステラさんダメ!誰も怒ってないし、私たちみんな悪くないからそんな事しちゃダメ!めッ!」
エリスもステラの頭に弱々しい手刀を繰り出す。その動作がもう可愛い。数百年ぶりの可愛いという感情を前に感動を覚える。
あんな真っ暗な場所で自分を殺しにかかってくる真っ黒な化け物ばかりを相手にしてたらそりゃ飢えるよね?って話だ。
「は、はい……でも、申し訳なくて……」
「じゃあこれからもずっとエリスを側で守っててくれ。辞めるなんて許さんぞ?それを持って罰って事で」
「は、はい……これかも…よ、よろし…うぅ」
ステラがまた泣き始めた。アメリアもクレアもそこそこ泣き虫だったが、ステラは違うと思っていた。でもステラも泣き虫だったようだ。ずっと隠して生きて来たが、レインと出会い一緒に生活をして隠す必要がなくなったと心から理解した証明だった。
◇◇◇
「じゃあ行くぞー!」
「おおー!!」
レインの掛け声とエリスの返事が響く。レインは待機している龍王の頭にエリスを抱えたまま飛び乗った。それにエリスが召喚した天使たちも追従する。
「魔王レイン……1つお聞きしたい事があります」
神軍長の1人がレインの横で浮遊し問いかけた。他の神軍長たちも並んでこちらを見ている。一部は睨んでいるという方が正しいかもしれない。
「どうした?……えーと、君たちに名前はあるのか?」
「はい、私はシファーと申しまして、治癒能力を備えております。そちらのステラという者も私が癒しました」
「そうか、ありがとう。それで聞きたいことっていうのは?」
「貴方様は我々の味方と見てよろしいのでしょうか?」
「なっ?!シファー、そいつは魔王だぞ!我々神軍の宿敵だ!味方になるなんてあり得ない!!」
オルファノはこの状況に納得がいかないようだった。レインとエリスが触れ合う事すらそもそも反対で先程から敵意のある視線を向けていた。ただすぐ近くにエリスがいる為、黙っていただけだった。
「コラ!お兄ちゃんと仲良くしなさい!」
エリスが可愛らしい声をあげてオルファノを怒る。そんな光景にもホッコリする。
「し、しかし母よ」
「するの!みんなお兄ちゃんと握手して!早く!」
「「あ、握手?!」」
レインとオルファノの声が完璧に重なる。エリスはみんなが仲良くする事を望んでいる。でもどうやったら仲良くできるか分からない為、とりあえず握手すればいいんじゃないかという結論に至ったようだ。
オルファノとアギアはかなり怪訝な顔をする。シファーとイゼラエルはプリプリと怒っている可愛らしいエリスを見て微笑んでいる。
「まあエリスが言うならいいや。ほら」
レインはとりあえず言われた通りに手を差し出した。すぐにイゼラエルやシファーはレインの手を取った。アギアも嫌そうな顔はしたがエリスの命令だから仕方ないと言わんばかりにレインの手を乱雑に握る。
最後はオルファノだった。神々が各自で保有する神軍。その大多数を占める天使たちをまとめる神軍長が宿敵である魔王軍、そのトップである魔王と握手なんて出来る訳がなかった。
「オルファノさん!」
それでも自らを使役する立場であるエリスからの命令は絶対だ。それでもプライドの高いオルファノは視線と態度で拒む。
「ほら!」
でもエリスは怒りながら催促する。オルファノ以外は皆そんなエリスを微笑ましく見ている。
「クソ!一度だけだからな!」
「はあ……お好きにどうぞ……」
「オルファノさんはお兄ちゃんとハグして!!」
「「…………えッ?!」」
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