第245話
「ステラさん!エリス様!」
ステラが学園を脱出し、王都へ逃れるために馬車を探そうとした時だった。シャーロットから派遣されていたエリスを遠目から警護する為の騎士6人がやってきた。
騎士たちは普通の兵士よりも優れた者たちで組織される王都防衛隊に所属している。
騎士たちはステラが乗る用の馬と軍用に補強された馬車を持ってきてくれた。万が一このような事態となった時のために常にエリス用に人員と装備が手配されていた。
最強の神覚者であるレインに何不自由なく暮らしてもらう為に王族から全ての希望を叶えるようにと通達が来ている。
レインにはそこまで欲がないが、エリスを特に大切に思っている。だから王国からこのような形で人員と予算が割かれている。
「助かります。状況はどうなっていますか?」
「は!謎の浮遊物体がテルセロに侵入し攻撃をしております!浮遊している物体の側面にヘリオスの国旗が描かれている為……おそらくは……」
「ヘリオスによる侵攻……ですか。イグニス南西部にある小国『エスラトル』と領土問題を抱えていましたね。
ヘリオスからの圧力に耐えられず、レインさんがいるイグニスへの帰属を求めていた…という話は有名ですが…」
「私どもには判断出来かねます」
「そうですね。今はそんな事はどうでもいい。これより学園、そしてテルセロを脱出し王都アルアシルを目指します!」
ステラが騎士たちに指示を出す。その言葉にエリスが反応した。
「王都?……みんなはどうするの?アメリアさんにクレアさん、セラさんたちは?みんなを置いて私だけ逃げるなんて出来ないよ」
エリスのこの反応は当然だった。エリスはとても優しい性格だ。自分1人だけが助かる道なんて絶対に選ばない。このままだと学園のみんなが無事だと分かるまでここにいる……そう言い出しそうだった。
「……エリスさん、あの屋敷にはレインさんが配置した傀儡と門兵たちが大勢います。向かい側の王女様の護衛兵たちもいます。絶対に大丈夫です。
でもここから家に戻るにはあの炎の中へ突っ込まないといけません。だからまずは……貴方を安全な王都へ送り届けます。軍用の馬車で迎えばそう時間は掛かりません。今はなりよりエリスさんの安全を確保しなければ」
「で、でも……」
「エリスさん!私は貴方を守るようにレインさんから頼まれています!そのレインさんはまだこの街に戻ってきていません」
レインがエリスとステラを守るためにブレスレットに配置したはずの傀儡が発動しない。エリスは教えられていないがステラはレインから直接聞いていた。
"ステラ……もし、自分では対応出来なさそうな敵が来たらこのブレスレットを強く握って助けを求めろ。そうしたら俺の傀儡が出てきてステラの命令に従うようにしてある。
エリスにはもっと大量に付けてあるけど……これ言っちゃうと怖がらせちゃうかもしれないからね。……ステラ、エリスを頼んだよ"
レインはステラにこう伝えていた。しかしステラは爆発が起きてからずっとブレスレットを握って助けを求めている。なのに傀儡が出てこない。レインとあまりにも距離が離れていると発動しないのかもしれない。
そうステラは判断し、王都への避難という選択をした。
「レインさんは貴方を何よりも大切にしている。レインさんが戻って来たらあんな敵なんて一瞬で倒してしまいます。
でもエリスさんが無事だと分からないとレインさんは心置きなく戦えないかもしれない!レインさんが戦えないとこの街の人たちがもっと危ない目に遭うかもしれません!この街の人たちの命運はエリスさんが安全かどうかに掛かってるんです!」
ステラはエリスに対して初めて声を荒げた。本当にやりたくない事をするのはステラにとっても苦痛だった。
でも今はこうやるしかない。これでどれだけ自分が嫌われて、レインから叱責されたとしても受けた命令を遂行しなければならない。アメリアたちを優先し、もしエリスに何かあったら自分の主人に顔向けできない。
「…………わ、分かっ…た」
エリスは渋々納得した。納得するしかなかった。周りから見ればエリスはまだまだ子供で覚醒者のように戦う事もできない。
そんなエリスがわがままで街に残って戦えるレインが動けないなんて事になる事こそ最悪の事態だとエリスも理解した。
「エリス様……こちらへ!このまま学園の裏口を利用して脱出します!急いで下さい!」
エリスが納得したことを確認した騎士が馬車の扉を開ける。ステラも一緒に馬車に乗り込む。エリスたちが場所に乗ったことを確認した騎士たちは一斉に駆け出した。
こうしてエリスはテルセロを脱出する事となった。そんな姿を遠くから見ている存在がいた。その者はニヤリと笑い自分の耳に指を当てて話し始める。
「……エリス・エタニア発見…少数の護衛を伴いテルセロを脱出、北東方面へ逃走中。おそらくイグニス王都へ向かったものと思われる。テルセロ及びアルアシル方面に展開中の当該部隊兵士に伝達……追跡、対象を捕捉し、抹殺せよ。
繰り返す……エリス・エタニアは現在少数の護衛を伴うのみである。追跡、対象を捕捉し、抹殺せよ」
この言葉を聞いたヘリオス兵たちの一部は街への攻撃をやめて一斉に走り出した。物凄い速度で城壁を飛び越えて伝達された方角へと向かっていった。
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