第244話





「……いえ、私はここを守ります。敵の目的は不明ですが、戦争を仕掛けたのならここ……そして王族が目標のはず。私とレインさんの傀儡で対処します。

 戦えない全ての者を最も頑丈な部屋へ案内しなさい。そうすればその部屋だけを守ればいい。良いですか?」


「し、しかし……」


「民を導くのが貴方の仕事です。貴方は自分の身を優先しなさい。国民には申し訳ありませんが、耐えてもらうしかありません。

 そう時間も掛からずレインさんとカトレアさんもここに戻ってくるはずです。そうなれば敵が何であろうと殲滅できます。それまで耐えなさい」


「分かり……ました」


 シャーロットは渋々納得した。こんなところで意見を言い合っている場合ではない。


「そこの人、この城に残っている兵士は何人ですか?」


「はッ……え、えーと……」


「質問に答えなさい。今この時よりこの王城に駐屯している兵士は全てアラヤさんの指揮下とします」


「承知致しました!兵士の総数は約85人です。現在、王城内の各地点に防御陣地を構築しております!」


「分かりました。シャーロット様、この王城で最も安全だと思われる場所は何処ですか?」


「謁見室です。あの部屋の壁は全て魔法石を入り混ぜてあります。1番頑丈なはずです」


「分かりました。ではこの王城の全ての兵士は撤退しながら謁見室周辺に防衛線を張りなさい。私と傀儡はそこに続く1番大きな通路に陣取ります。すぐに皆に声をかけてその部屋に集めなさい!」


 阿頼耶は知り得た情報を的確に処理していく。敵の強さ、人数が不明のため、兵士たちを個別、または少数で行動させると各個撃破される可能性がある。ならば1箇所にまとめて数で敵を倒した方が効率がいい。


「了解しました!」


 阿頼耶と傀儡の騎士を先頭にしてその部屋へと向かう。レインがシャーロットに付けていた傀儡は上位騎士が3体と下級剣士が5体だった。その下級剣士は後方を警戒するように追従する。


 一団は道中にいたメイドたちを保護しながら謁見室へと向かっていく。その時だった。


「見つけたぞ!」


 謁見室へ向かう途中にヘリオス兵数人と会敵した。既に王城内に入り込まれていた。


「シャーロット・イグニス!貴様はこれから誕生する新たな世界には邪魔な存在だ。ここで殺ぉ…ゴボッ……」


 先頭にいた兵士の額と首と心臓の3箇所にナイフが突き刺さる。その兵士は血を噴き出しながら倒れた。


「アラヤ……さん?」


「敵と判断すれば即座に殺します。我々には捕虜をとっている時間も余裕もありません。

 私はレインさん程ではありませんが、同じ収納スキルを持っています。ナイフ程度であれば大量に召喚できます。

 私が奴らを片付けます。離れ過ぎず近付き過ぎずを徹底して付いてきて下さい」


 本当は阿頼耶は収納スキルを持っていない。真実は自身の一部をナイフに作り変えて投擲している。しかしそれに気付ける者はここにはいない。


 阿頼耶はそのまま他のヘリオス兵たちを一瞬で惨殺した。まるでレインのように一切の容赦なく、敵が反応する前に首を切断した後に身体もバラバラにした。


 

◇◇◇



「全員、この部屋に入りなさい!そして絶対に開けてはいけません!中と外にいる兵士同士で合言葉なり対策をして下さい。可能な限りここに敵を近付けさせませんが、もし万が一敵が来た場合は死ぬ気でここを守りなさい」


「「了解!!」」


 阿頼耶の前で整列する約40名の兵士が敬礼する。他の兵士たちは防衛陣地の構築を急いでる。防衛陣地といってもそこら辺の家具を積み上げてバリケードを作り上げている。


 その光景を背に阿頼耶と傀儡たちは歩き出した。そして謁見室へ続く最も広い通路の中央で横一列に並ぶ。


 それと同時に阿頼耶たちが陣取る通路にヘリオス兵が一気に侵入してきた。


「貴様……覚醒者か。高位の覚醒者はこれからの世界には必要だ。降伏し、服従するならば恩赦を与えるが、邪魔立てするなら容赦はしない。好きな方を……」


 阿頼耶は話していたその兵士の眼前に高速で移動する。そして先頭に立っていた5人の兵士の首を綺麗に刎ね飛ばした。


「ゴミ以下の害獣風情が舐めた口を聞くな。私に命令して良いのは、私を使役して良いのは、そして私が自らの意思で服従するのはこの世界でお1人だけだ。取るに足らない有象無象が声を掛ける事、視界に入れる事すら恐れ多い御方だ。

 そんな御方が暮らす街を、そこに住む人々を攻撃し、傷付けた罪は重く万死に値する。 貴様らは人として死ぬのではなく羽虫の如く消え失せろ」


 阿頼耶は首をなくして倒れた敵兵士の身体を強く踏みつける。踏みつけた事で周囲に血が飛散した。


「この女ぁ……最早生かす価値もない!殺せ!!総員かかれぇ!」


 王城に傾れ込んだヘリオス兵たちは阿頼耶へ向けて一斉に突撃した。


 

◇◇◇

 


「…………これは…エリスさん、私から絶対に離れないで下さい」


「う、うん」


 場所は変わって王立イグニス学園。テルセロに飛来した謎の物体からの攻撃は当然イグニス学園にも及んでいる。広い学舎の数カ所とグラウンドに着弾し周囲に炎を振り撒いていた。


 学生の悲鳴がそこら中から響いている。怪我をした人も多いのだろう。助けを求める声も聞こえている。


 緊急事態と悟った警備兵たちも学園内へと傾れ込む。各貴族の私兵たちもすぐに到着するだろう。学生たちはどうしていいのか分からず逃げ惑うしか出来なくなっていた。


 教員の指示も警備兵たちの誘導も爆発音に掻き消され届かない。学園内は混乱の極みとなり収拾が付かない状況だった。


 さらにここに貴族の私兵と敵国の兵士が突入してしまえば敵も味方も分からなくなってしまう。


 しかしそんな中でもステラは冷静で落ち着いていた。エリスの手を強く握り逸れないように行き交う人混みから離れた場所で街の方を確認していた。


 "屋敷へ戻る?……いやここからだとテルセロの中央を通らないといけない。爆発で通れない道も沢山あるはず。

 余計に時間を掛けてしまうと侵攻してきた敵に包囲される可能性もある。……なら学園の避難経路を使って外に出て王都を目指すべき……か"


 ステラは自分の持つ知識と技量の全てを使って考える。屋敷にいる家族の事ももちろん心配だ。しかし自分が今受けている命令はエリスの安全を確保する事。

 あの日、光を失い野垂れ死ぬ未来しかなかった自分を助けてくれた主人からの命令であり、頼みだった。


 ステラは自分の全てを賭けてでもエリスを守ると誓った。ならば今は家族の安否よりエリスを安全を優先すべく行動を開始した。


 

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