第243話





 

「なんだ…………あれ?」

 

 見張りの兵士が呟いた。テルセロの各地点で爆発が起こる。高ランクの覚醒者が放つ爆発魔法のような火力だ。

 

 堅牢な城壁であっても数発で大きな穴が出来る。ただの家屋だと一撃で倒壊する。兵士が来ている鎧などその爆発による衝撃と熱線で融解し、人体ごと破壊される。


 空中で浮遊する2隻の魔動飛行船から爆炎弾が放たれ続ける。イグニスにとって完全な不意打ち。


 この世界における国家間の戦争は兵士と覚醒者たちを並べての突撃戦が主だった。だからいきなり空から高威力の魔法攻撃は想定されていない。兵士たちもそんな訓練などしていないから大混乱だ。


「38番陸用爆炎弾全弾目標に命中!戦果大なり!戦果大なり!!」


 魔動飛行船からの興奮した通信が国家元首の元へと届けられる。それを座って聞いていたラデルはニヤリと微笑む。


「まだだ。まだまだ足りんぞ?38番陸用爆炎弾次弾装填!ならびにヘリオス強化兵降下開始!!」


「了解!」


 そこで飛行船からの通信はブツンッと途切れる。通信を終えた魔動飛行船の艦長はマイクを持って飛行船内全体に呼びかける。


転移門ゲート開け!そしてヘリオス強化兵が降下する前に爆炎弾を全て投下せよ!」


「了解!」


 飛行船の両側に設置された複数の扉が開く。その奥にはダンジョンの入り口のような青黒く光る時空の歪みがあった。


 そして場所は変わりヘリオス空軍基地。そこには地面を埋め尽くす赤と黒の鎧に包んだ数十万人の覚醒者と疑似覚醒者たちが立ち並んでいた。


 その巨大な列の前に複数同時に転移門ゲートが出現した。その転移門ゲートは目標とされた各国の都市へと続いてる。それらが出現すると同時に兵士たちは歓喜の声を上げる。


「降下作戦開始!敵兵士及び覚醒者を駆逐しながら目標を果たせ!第1師団各員!特別目標を見つけ次第、念話スキルの覚醒者から通信を入れる。それまで敵を殲滅しながら待て!以上!」


「「「了解!」」」


「これより!作戦を発動する!総員!突撃!!」


「「「うおおおおお!!!」」」


 兵士たちは雄叫びを上げ、武器を抜いて転移門ゲートへと走り出した。兵士が転移門ゲートを潜り抜けるとその先には燃え上がる都市が広がっていた。


 国家元首ラデルが考案した作戦。それは邪魔される事がないと予想できる空中を移動する兵器を作成する所から始まる。浮遊魔法を大量に付与、武装した魔動飛行船を数十隻造り上げ敵国の首都上空へ派遣する。

 そして到着と同時に敵が警戒し、防衛体制を整える前に主要施設を爆撃する。


 一定の戦果を確認した後、一方通行で戻る事が出来ないという制限がある転移門ゲートを開く。覚醒者はもちろん疑似覚醒者たちが落下しても無傷な距離まで降下し、何万人もの兵士を一切消耗させる事なく安全に送り届ける事が出来る新たな作戦。


 身体能力を能力を大幅に強化されたヘリオス兵たちは転移門ゲートを抜けるとそのまま都市へ向けて落下する。

 その高さは数百メートルにもなる。普通の人間ならばもちろん死ぬ。だが、彼らは別だった。着地と同時に少し足が痺れる程度で、すぐに行動出来ていた。

 

「て、敵襲!!敵襲だ!!姫様と国民を守れ!!」


 城門周辺にいた兵士たちが叫ぶ。もう目の前には人間離れした速度で走ってくる敵兵士が見える。


「弓兵!早く放て!」


「無理だ!そんなすぐには準備がッ……来てるぞ!!前を見ろ!」


 指示を出していた兵士が前を向く。するともう敵の剣が迫っていた。それくらい敵兵士が接近していた。


「なッ?!まだ数百メートルはあったはずだぞ!……ぐッ!!」


 兵士は何とか敵の剣撃を受け止めたが、その圧倒的な力により弾き飛ばされた。弾き飛ばされた兵士は壁に強く身体を打ち付ける。そして地面に倒れた所を別の敵兵士が剣で貫いた。


「クソ!!準備が出来た者から放てー!!」


 ここでようやく城門上の弓兵が矢を放つ。数本の矢が敵兵士1人に向けて放たれる。敵兵士はその矢の一部を剣で叩き落としたが、ほとんどをその身体で受けた。


 矢が突き刺さった所から血が噴き出る。敵兵士の周囲には血溜まりが出来る。


「……やったぞ!このまま敵を制圧ッ」


「ぎゃははははッ!!すげぇ!痛みもない、身体も動くぞ!これが新たな力か!」


 敵兵士は矢をその身に受けたまま目の前で陣を組むイグニス兵へ向けて突撃した。その敵兵士に続くようにさらに多くの敵兵士が突撃する。陣形も秩序もあったものではない。ただ目の前にいる敵を片端から攻撃していく。


 既に敵の攻撃はテルセロの王城まで及び、各地で黒煙と炎が立ち昇っていた。


◇◇◇


「ひ、姫様!シャーロット様!ご無事ですか?!」


 燃え上がる執務室の外に兵士やメイドが集まる。王城全体が炎を上げている。早く避難しないと煙に呑まれてどの道全滅してしまう。

 しかし今ここに迎撃か避難か、何をどうするべきなのかを指示する人間がいなかった。


 メイドたちにも混乱と焦燥が見え始めた時だった。突如、燃え上がる執務室の中から黒い巨大な塊が複数飛び出してきた。


 レインがシャーロットに渡していたブレスレット、その中に潜んでいた騎士が3体だ。


 騎士は近くにいた兵士を見るや否や斬りかかろうとする。この爆発の原因が何なのか傀儡たちには分からない。だが、部屋を飛び出した瞬間、すぐに横に武装した兵士がいる。傀儡たちはその兵士を敵だと判断した。


「待ちなさい」


 しかし、別の女性の声がそれを制止する。その声の正体は阿頼耶だった。シャーロットを抱きかかえて傀儡たちに守られながら執務室から飛び出してきた。


「シャーロット様!アラヤ様!……ご無事ですか?!」


「私たちは無事です。シャーロット様も既に回復させました。状況は?この爆発は何処から?分かる人のみ発言しなさい」


「…………………………」


 メイドたちはお互いを見合わせながら沈黙する。メイドたちにはこの状況が分かっていない。そんな中、別の方向から兵士が走ってきた。


「シャーロット様!!すぐに避難を!敵性勢力が既にテルセロ内へ侵入!各地で我が軍の兵士と戦闘状態になっております!」


「こ、国民の避難誘導を……優先なさい。すぐに王都へ援軍の遣いを出すのです。今ここには黒龍ギルドのSランクの皆様も神覚者のお2人もいません」


 シャーロットはふらつく身体を何とか支えて指示を出す。テルセロが最も手薄なタイミングで敵が攻めてきた。


「りょ、了解しました!シャーロット様もすぐに避難を!既に城門付近にも敵が迫っております!」


「私は……ここを離れる訳にはいきません。民を導く立場である私が最初に逃げたのでは示しがつきません。…アラヤさん、お願いがあります」 


「……何でしょうか?」


「私のことはいいです。街へ出て敵性勢力の撃退をお願い出来ませんか?」



 


 

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