第242話
師団長キャスパーは国家元首命令の内容を理解はしている。ただ殺害対象が理解できなかった。
「……エリス・エタニアの方ですか?兄である神覚者レイン・エタニアではなく?」
「そうだ。エリス・エタニア……妹の方だ」
「…………了解致しました。覚醒者でもない、ただの人間風情、我々の敵ではありません。早急に排除し、そのまま神覚者レイン・エタニアも抹殺して見せましょう」
師団長キャスパーは立ち上がり、他の師団長たちに見せつけるように豪語する。他の師団長たちもよくぞ言った、とばかりに力強く頷く。
「……ふっはっはっは………キャスパー少将、君は何か勘違いをしているようだ」
国家元首ラデルは笑いを交えながら話す。口は笑っているが目が笑っていない。その目だけでこの場にいる軍人全員が固唾を呑んだ。誰も反論する事ができない。意見すら出来ない。
「確かに君の言う通り……レイン・エタニアも充分脅威だ。不死の傀儡を操り、本人だけでも十分過ぎるほど強く、同じ人間であっても敵であると判断したら殺す事に何の躊躇もない。既に1人で国を滅ぼしているしな。そして極め付けは奴を守護している存在だ。
あの粘着質な恋愛依存のクソ女は今回の作戦遂行において障害となり得る。察知能力がポンコツなおかげで今日まで気付いていないようだがな。……ただそれらが霞むほどの力を持っているのがエリス・エタニアという存在だ」
「………………な、なんと」
国家元首の発言に円卓の周辺には動揺が広がる。
「エリス・エタニア……彼女は存在そのものが奴らにとっての奇跡であり、我々にとっての悪夢であり、あの兄の対極に位置しながら相思相愛なのに家族という訳の分からない状態だ。……そして彼女は自分が何者で何によって守られているのか分かっていない。無邪気な笑顔の裏に控えている軍勢をこの地上に降臨させてはならない。その覚醒の鍵は自分が何者かを自覚する事。
彼女が覚醒すれば我々は負けるだろう。いや確実に負ける。どれだけ追い込んでいようと彼女が覚醒した瞬間に全てを失う事になる」
「……それほどの力が10代の少女にあるというのですか?」
「その通りだ。こちらが20万の将兵、40万の覚醒者、20隻の魔道飛行船全てを失ったとしても彼女さえ死ねば十分過ぎるほどの戦果となる。もうビックリするぐらいの大戦果だ。いいか?刺し違えてでも殺せ。何としてでも殺せ。その為の犠牲は全て不問としよう」
「了解致しました!」
師団長は敬礼する。それに続くように全ての師団長が立ち上がって敬礼した。それらを確認した国家元首ラデルは満足そうに微笑む。
「よろしい。では戦争を始めよう。2つや3つの国同士の小さな紛争程度のものではない。全ての国家、すべての人類を巻き込んだ大戦争!『世界大戦』だ。
第1攻撃目標は大国の主要都市全域!エスパーダ帝国帝都『ガルシア』、イグニス王国王都『アルアシル』、第2都市『テルセロ』、メルクーア王国王都『ルイーヴァ』、ハイレン王国国都『ガロフィア』、ヴォーデン王国王都『グラドシティ』、サージェス共和国首都『ケントニス』、ヴァイナー王国王都『ミルマグナ』だ。
目に付いた物は全て壊し、無駄で嘘に塗れた書物は全て燃やし、崇高なる任務の邪魔をする者は全て殺せ!圧倒的火力で敵勢力を撃滅せよ!」
「「了解致しました!!国家元首殿!!」」
師団長たちは再度一斉に敬礼する。立ち上がった時の勢いは凄まじく腰掛けていた椅子が後ろに倒れるほどだ。
「よろしい!聞こえているな?私の作戦で最も重要な役割を持つ飛行船部隊の諸君!」
ラデルは天井へ向けて大声を放つ。そこには巨大な世界地図しかない。しかしこの壁から声が遅れるように響き渡る。
「……聞こえております、国家元首殿!通信状況良好であります!」
「そうであろう!それは私がこの作戦とは別で吐き気を催すほど徹夜に徹夜を重ね、砂糖とミルクを大量に注いだコーヒーをがぶ飲みして作り上げた長距離通信装置だ!庶民の一家屋くらいの大きさがあるのとこんな感じで声を張り上げないと相手に聞こえないという欠点もあるが仕方ない!
では!……ゴホッゴホ……喉が…………ん゛んッ!飛行船部隊攻撃開始せよ!38番陸用爆炎弾全弾投下!!そして転移門開場!!燃え上がる敵主要都市を……おぇ…強襲せよ!!…………ゴホッ!……締まらんなぁ」
「「「了解!!!」」」
◇◇◇
「アラヤさん……わざわざご報告ありがとうございます。おっしゃっていただければこちらからお伺いしましたのに……」
「その必要はありません。レインさんもカトレアさんもその内戻られると思います。第2王子の件は急ぎだと承知しておりますが……ご容赦ください」
「いえいえ!そのように頭を下げないでください。神話級ポーションの依頼を受けて下さっただけでも嬉しかったです。そして見事達成されたとの事。これ以上何を要望出来ましょうか」
「感謝します。……では私はこれで…………あれは何ですか?」
阿頼耶が立ち上がりシャーロットの執務室を出ようとした時だった。シャーロットの後ろに設置された大きな窓の先に何かがある。
「あれ……とは?…………何ですか?あれは?」
シャーロットも振り返る。雲の隙間から何かがゆっくり降りてきた。生き物ではない。ただ見た事がない。
「私も初めて見ます」
「私もです。……しかしあの横に描かれている国旗は……ヘリオス?……あれ?何か光がッ」
その言葉の後、執務室が大爆発を起こし炎に包まれた。だが、そこだけじゃない。
王城、城壁、兵舎、覚醒者組合本部、黒龍ギルド本部、イグニス学園……そしてレインの屋敷がある区域にも無数の爆発が起きた。
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