第246話
◇◇◇
「ひっ!ば、爆発?!……何が起きてるの?」
ここはレインの屋敷、そこで働く使用人たちは小さく悲鳴をあげる。今日もいつも通りの日常のはずだった。
アメリアが先に帰って来ていて、もう間も無くレインたちも帰ってくる。そのためにたくさんの食材を購入し、掃除も完璧に済ませて待っていた所だった。
そんな中、突如として街中が爆発し炎を上げている。屋敷の中にいるのに外からの悲鳴が聞こえてくる。
「ど、どうするの?レインさんもカトレア様も今ここにはいないのに……それにステラさんにアラヤさんも……」
サーリーが狼狽える。いきなり戦争状態となった。こんな時にどうすればいいのかをちゃんと理解して行動できる人間なんてそうそういない。
「わ、私に聞かないでよ!ど、どうしたら」
カイラもイブも混乱する。いつも一緒にいる仲良し4人組もどうしていいか分からなくなる。そのせいで感情のコントロールも難しくなっていく。その負の感情はどんどん広く強くなっていきその場はパニックとなる。
「落ち着きなさい!!」
しかしアメリアの声がその感情の広まりを止め、一瞬で鎮めてしまった。アメリアの後ろにはセラやクレアもいる。屋敷の玄関にステラを除く使用人全員が揃った。
「アメリア……さん」
「貴方たちはあの神覚者様にお仕えする使用人です!この程度の事で狼狽えてはなりません!!」
アメリアが声を荒げる。いつも優しく、何かミスをしても優しく諭すように話すアメリアが他の使用人にこうやって話すのは初めてだ。
「でも……どうすれば……」
「この国は現時点を持って他国との戦争状態に入ったと判断すべきでしょう。こうした場合の避難場所は近くの兵舎となっていますが、ここはレインさんの屋敷です。強度という意味ではかなり安全なはずです。
カトレア様もこの騒ぎを受けてまずここに向かわれるはず。幸い食料や水も沢山あります。なので我々はここに立て篭もりレインさんの帰りを待ちましょう!私たちはここを離れるべきではありません!」
「みんな一緒だからね!大丈夫!!」
アメリアの言葉にセラとクレアも賛同する。クレアもセラも落ち着いていた。自分が何をすべきなのかをちゃんと理解していた。
そんな時、扉が強くノックされ返事をする前に開けられる。
「みなさま!ご無事ですか!」
レインの屋敷の門兵たちが入ってきた。普段なら許可がないと屋敷へ入るなんて事はしない。そうしないといけないほどの緊急事態だった。
「私たちは無事です。状況は分かりませんが戦争が始まったと考えるべきでしょう」
「はい、アメリアさんの言う通りだと思われます。ですのですぐに避難を。今ここには神覚者様もアラヤさん、ステラさん覚醒者お2人もいらっしゃいません!既に敵兵士も侵入しているはず。我々だけではお守りできない可能性があります!」
兵士はアメリアたちに避難するように伝える。神覚者がいない状況で敵軍の侵攻。増員されたとはいえたった10人程度の兵士ではとても守り切れないと兵士たちは判断した。
「私たちはここに残ります」
「なっ?!それは無茶です!今、ここに戦える覚醒者はおりません!」
「いいえ……います。レインさんはいつだって私たちを守ってくれています。だから私は……私たちはこの屋敷を…あの人が帰る家を守ります」
アメリアはレインから貰ったブレスレットを握りしめた。レインはアメリアにもステラと同じ事を説明していた。
ただ少しだけ違うことがある。レインがここに配置した傀儡はブレスレットの中だけじゃない。
"レインさん…私に勇気をください。みんなを守れる力を少しだけ、少しの間だけ私にお貸しください。……レインさん……どうか"
アメリアはブレスレットをさらに強く握る。そして顔を上げて一言呟いた。
「…………傀儡召喚」
その言葉に反応するようにアメリアたち使用人が身に付けていたブレスレットが黒い光を周囲に放つ。
そしてその光は屋敷内の家具や絵画、庭に植えられた樹木にも広がっていく。その光を受けると影のような黒い物体が床を這い回るように移動し始める。
その影はアメリアの背後に集まってくる。そしてその背後に跪くようにレイン・エタニアの傀儡が出現した。その数は50体近くにもなり、通路一帯を埋め尽くす。上位騎士、鬼兵、番犬、最下級剣士、そして騎士王もいる。
レインがアメリアに与えた力と権限。それはアメリアが『傀儡召喚』と唱えた時、屋敷内にいる使用人と屋敷全体に配置した傀儡の指揮権をアメリアに一時的に移譲する事だった。今この時だけアメリアはレインの傀儡を使役する事ができる。
「す、すごい……これだけの駒がいればここを守るのに充分な戦力になります」
何も無いところからいきなり出現した不死の軍団に兵士たちも希望を見出す。
「はい、もし逃げ遅れた人がいたならこの屋敷へ案内してください。どうせ部屋も沢山余ってるんです。レインさんもきっと笑って許してくれる。逆に他の人を見捨てたとなれば叱責されるでしょう。あの人はそういう御方です。だからみんなで生き残りましょう。
あの人に悲しい思いはさせたくありません。誰1人として欠ける事も怪我をする事もなく……帰ってきた時にいつも通りの笑顔で迎えられるようにしましょう!」
「「「はい!」」」
使用人たちの返事が重なった。もう誰も不安にも恐怖にも支配されていない。みんな自分が今何をすべきなのかをちゃんと理解していた。
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