第238話
「懐かしいなぁ……ここを離れてからまだ2年くらいしか経ってないのになぁ」
「私的には数秒だねぇ。じゃあレイン、ここで今から最後の試練を始めよう」
「ここで?分かった、何をするんだ?」
ここでの1年は外での1時間くらいの相当する。だから外で数日経ったならここでは数十年くらい経っている。試練や特訓をするにはちょうどいい場所だ。
「構えろ」
アルティは自分の周囲に無数の刀剣を召喚した。レインにほとんどを渡しているはずなのにまだ数十本は持っていたようだ。
レインが持っている武器と同じ見た目の近接武器がアルティの周囲をクルクルと回っている。アルティのいつもの戦い方だ。一撃必殺級の魔法を放ちながら近接武器での接近戦を仕掛けてくる。それも一歩も動かずに。
それに加えてレインよりもはるかに強い傀儡のスキルまで以前は持っていた……となるとアルティがどれだけ強いのか理解できる。アルティのいる次元に近付けば近付くほどその差を理解させられる。
「分かった」
レインは両手に剣を持つ。レインはアルティのようには戦えない。そこまで器用な人間ではない。
剣を召喚した瞬間にレインは物凄い衝撃を受けてダンジョンの壁に最中を強く打ち付けた。
「うッ!!」
背中を強打したせいで呼吸が止まりそうになる。ほとんど反応できなかった。
「…………これから私と戦い続けよう。レインに足りないものは個人の強さだ。傀儡はただの補佐でしかない。だってレインに倒された者が傀儡になる。レインより強い奴が出てきたら何も出来ないでしょ?だからアンタを強くする。でも私はこれしかやり方が分からない」
「はぁ……はぁ……」
レインは剣を杖代わりにして壁から抜け出す。ここまでの衝撃はかなり久しぶりだ。ルーデリアとの戦闘で受けたものより強かった。よく生きているなと自分を褒めてやりたいくらいだった。
「私はアンタを殺す気でやる。死んだらそれまでだ。お前はエリスもアメリアもみんな死ぬ事になる。魔王の軍勢は捕虜を取らない。奴らは魔界から溢れ出しそうなモンスターたちを解放し、神とその軍団を抹殺するのが目的だ。人間たちは眼中にないんだよ」
「俺たちだって……ゲホッ!…ただではやられないぞ?」
「確かに普通のモンスターなら問題ないと思うよ?でも魔王を殺さないと戦争は終わらない。魔王軍の下っ端は数だけだ。
ただその数もとんでもない数だけどね。下っ端は神覚者って呼ばれている人間なら何とかなるだろう。でも魔王は神か魔王でなければ倒せない。だからレインを鍛えるんだ。死ぬ気でやれ」
アルティは会話は終わりだと言わんばかりに手を前に突き出した。それに合わせるように刀剣が一斉にレインへ襲い掛かる。
「……っ!傀儡!」
アルティが放った刀剣の速度がレインの予想を超えていた。今の状態では避けられないと悟ったレインは傀儡を召喚する。今のままではアルティに近付く事すら困難だ。傀儡の召喚は禁止されていない。
アルティと戦える次元にない。まずは殺されない事を意識しないといけない。アルティは既に覚悟を決めていた。
アルティが放った刀剣を上位騎士たちが盾を突き出して待ち構える。しかし数秒だけ耐えた後に盾ごと貫かれた。
それでも数秒稼げれば今のレインには充分だった。両手に持った剣で刀剣を全力で弾き飛ばすそうとする。
「…………重い…何だこの強さ」
しかし1番最初に来た剣が弾き飛ばさない。その後ろからはさらに別の剣が向かって来ている。
「クソ」
レインは飛んできた剣を受けながら、盾を剣と交換するように召喚する。
「駄目だね。アンタの長所は速度だ。盾なんか使って受け止めるなんて論外だね」
アルティは指先を小さく動かす。すると真っ直ぐ向かって来ていた刀剣は直角に何度も方向を変えてレインの背後に回り込む。
「か、海魔!」
次はレインの背後を守るように海魔たちが武器を構えて立ち並ぶ。騎士より海魔の方が少し強い。だからさっきよりも多少は保つはず。
「うん……その場にあった傀儡を良い感じに召喚できてるね。それはいい事だ。でも!」
剣を防ごうとした海魔の間にアルティがいきなり出現した。海魔は混乱する。目の前に迫る刀剣か横に突然現れたアルティに対応すべきか分からなくなった。
そして動きが固まった所に刀剣が突っ込んで来て身体を貫かれた。
「傀儡は命令に絶対服従だ。自分を守れなんて曖昧な命令をしたらこんな事になる。傀儡は便利だが絶対じゃないぞ!!」
アルティの蹴りがレインに放たれる。レインはまだ持っていた盾で受け止めるが、盾ごと吹き飛ばされた。
数百メートルある反対側の洞窟の壁にまためり込んだ。その度に呼吸が止まりそうになる。骨が折れてないのが奇跡だ。
「レイン……ちゃんとやりなよ?そんな弱いんじゃ戦争が始まればすぐに死ぬ。
レインは私にとって大切な人だ。将来、私の大切な人を無駄死にさせるくらいなら今この場で私が殺してあげる」
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