第236話





「何でいるのかって?だってもう魔王来てるんだから隠れる必要ないでしょ?隠れてたのは私がここにいるとバレたらアイツらの侵攻が早くなると思ったからなんだ。でももう来てるから良いよね?ってなった。

 まあ一応本気で魔力を抑えるから近付かないと気付かれないとは思うけどね」


「……でもアルティは来てるの分かってるんだから向こうも分かってるんじゃないの?」


「向こうは隠す気がないからね。こっちは本気で隠してるから大丈夫でしょー!」


 アルティはニコニコしながらレインの肩を叩く。外でアルティに会うのは初めだ。いつも頭の中に響く声しか聞いてなかったから不思議な気持ちになる。


「…………ただね?すぐにあの場所に戻ろう。今のレインだとまだ勝てない。最後の箱を開けるんだ」


 アルティは真剣な表情で話す。さっきのルーデリアに苦戦しているようでは魔王の配下には勝てても魔王そのものには勝てないという事だろう。


「……分かった」


 アルティが言った最後の箱を開ける……その方法をレインは既に知っている。魔神から聞いた事だ。魔王となる覚悟を言葉で示すのが最後の箱を開ける鍵となる。


「あ、あのー……」


 戦闘が終わりアルティと話していた所に審判が恐る恐るやって来た。そういえば決闘の決勝だったという事を思い出した。


「はい?」


「えーと……試合は終わったのでしょうか?レイン様の勝利で……よろしいですか?」


 レインはクーデリカの方を見る。まだ降参するとは言ってなかったような気がする。

 

「…………あ、はい…私の負けです。レインさんには勝てないですね」


「あ、そうでしたか。…………では…んんっ!……決着ー!!『紅焔の神覚者』ルーデリア・アルバドス・エタニア降参により、勝者は『傀儡の神覚者』レイン・エタニアとなります!!

 そして『傀儡の神覚者』レイン・エタニアには決闘2連勝を記念して神話級ポーションが2つ贈呈されます!」


 審判が叫んだ事でレインが優勝したのだと理解した観客も歓声で応えた。ルールを無視して暴れたルーデリアを倒したレインはさながら英雄のように扱われる。


「え?!良いんですか?」


 しかしそんな事はレインにとってどうでもいい。神話級ポーションが2つ貰える。これは嬉しすぎる誤算だ。世界最高の治癒薬を予備として持って置けるのは最高だった。


「はい!今年は神話級ポーションが豊作だったとの事です。もしレイン様が2連覇を達成された際には2つお渡しするようにと国王陛下から仰せつかっております」


「おおー……結構いい事するじゃん。エドワードさんでしたっけ?あれ?エルドラムさん?」


「…………その御方はイグニスとメルクーアの国王陛下ですね。我が国の国王はハインラート様です」


「ハ、ハインラー……ト?初めて聞いたな」


「え?えー……おそらく前回、神話級ポーションを贈呈した際の式典で名乗られているはずですが……」


「……………………そうだった…ですかね?」


 あの時は興味のない長い話のせいで耳が聞く事を拒否していた。そしてポーションだけ貰って帰ろうとしたが、ローフェンに全力で阻止されて一緒にご飯だけ食べたんだった。要はレインがちゃんと話を聞いていないせいだった。


「まあ今回の神話級ポーション贈呈式で覚えていただければと思います。此度も各地域の貴族方もいらっしゃってます。皆さん、レイン様とお話しできるのをとても楽しみにしておりますよ。…………ただ」


 審判はレインの後ろで不機嫌そうに立っているアルティを見る。レインとの会話を邪魔された事で若干イライラしている。


「ん?どうしました?」


「召喚された駒は解除されないのですか?」


 既に傀儡は全て召喚解除している。ただアルティは黒く長い髪に黒い魔道服を着ている赤い瞳の女性だ。レインが使役する傀儡と似ているといえば……まあ似ていると思う。だから勘違いするのも無理はないかもしれない。


「あ……これ…じゃない、この人は俺の切り札みたいな感じなんですよ。だから一度召喚したらしばらく解除出来ないんです」


「そうでしたか!これは失礼致しました!……では流れは前回と同じです。このまま少し休息や治療と着替えなどを行っていただき王城の方へと向かっていただきます。よろしくお願いします」


「了解しました」


 

◇◇◇


「誰ですか、あなたは!レインさんから離れて下さい!」


 ハイレン王城の前にカトレアの声が響き渡る。警備兵たちもオロオロした様子でこちらを見ている。


 カトレアが怒っている理由は明白だ。さっきからアルティがレインに腕に自分の腕を絡めて密着している。クーデリカはしばらくハイレンに滞在するとの事で宿へ帰って行った。


 レインも国王からポーションを受け取ったらすぐに帰るつもりだ。だから阿頼耶、カトレア、アメリアの3人を呼んでもらった。その矢先の事だった。


「はっ!離れろ?お前ってレインにめちゃくちゃ悪態付いてた奴だろ?その魔力の感じは覚えてるぞ。あれだけこの子の事を愚弄しておいて何を言ってるんだ?」

 

「なっ?!……あの時の事は猛省しております。そしてそれはもう1年以上前の事です。貴方がどれだけ私たちのことをご存知か知りませんが、既に私たちの関係は……」


「私たち?……私が寝ている間にどういう状況に」


 2人の魔力がどんどん大きくなっていく。今こんなところで2人が本気の喧嘩なんかしたら国都が消し飛ぶ。カトレアもアルティも魔法戦特化だから範囲が近接戦特化よりも遥かに広い。


「はい!ストップ!カトレア、アメリア……この人はアルティという名前で俺を鍛えてくれた師匠みたいな人だ。……多分俺とカトレアが2人掛かりで挑んでも勝てないくらい強い人だ。喧嘩なんかしたらこの国が無くなる。だから2人とも……言い争いはなしだ」


「レインさんが言うなら」

「レインが言うなら」


 2人の言葉がほぼ完璧に重なる。そして2人はまた睨み合う。


「「真似するな!」」


 仲悪いと思ったが、思ったより仲良くなれそうだとレインは思った。

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