第234話
レインの中で眠っていた魔王が目覚めた。指をボキボキと鳴らしながら闘技場へ戻ってきた。何が起きたのか理解できない観客は黙っているしか出来ない。
「レイン……状況はあとで聞かせてくれ」
"久しぶりだなアルティ。ただ聞かせてくれって言われても何をどこまで言えばいいのやらって感じだ"
「はは……久しぶりって大袈裟だな。そんなに経ってないだろ?」
"いや?もう一年以上経ってるけど?"
「いやいや……えー?そんな事ないでしょー。面白いこと言う」
「さっきから何1人でぶつぶつ呟いてんだ!私はまだまだやれるぞ!!」
崩れた壁から飛び出してきたルーデリアは斧を振り上げてレインに斬りかかる。先程よりもさらに速くなっている。ルーデリアにはまだ上があった。
「うるせえよ。今私がレインと話してるんだ。雑魚は黙って死ねよ!!」
ルーデリアの斧をレイン改めアルティは素手で受け止める。ぶつかり合った所から赤と黒の雷がバチバチと大きな音を立てながら発生する。
「オラァ!!」
ルーデリアは一旦距離を空けたと思えばすぐに回し蹴りを放つ。アルティは右腕でそれを防ぐが、蹴りの威力が高すぎて後ろへ吹っ飛ばされる。
"アルティが飛ばされた?!使いにくいはずの俺の身体を使っても化け物みたいな強さを誇ってるのに。それほどまでルーデリアが強いってことか?"
「レイン、あんた何を不安がってるのか知らないけど心配いらないよ。奴は強いが私との相性は悪いね。ここから圧倒してやろう」
アルティにはレインの心の動きが感じられるようだ。まあ正確には不安になっていたのではなく相手が凄いなぁとなっていただけだが。
"…………と言うかアルティって出てきて良かったのか?"
「レイン……本当に気付いていないのかい?もう魔王はこの世界に来ているよ?もう戦争の火蓋は切られている。魔界からの先遣隊が……」
バキッ!――と大きな音が響いた。ルーデリアの拳がアルティの顔面を捉えていた。レインへの説明に気を取られていた。殴られたのはレインの身体なのでアルティに痛みはない。身体が戻った時にレインが反動の痛みに加えて頬の痛みを一緒に受けるだけだ。
「………………〈
アルティはルーデリアの方を見る事もせずに黒い雷撃を放った。カトレアが放つ
"アルティ!周りの観客には被害を出すなよ?!反則負けになるからな!優勝して神話級ポーションは貰わないとダメなんだ!"
「…………分かってるよ。ただアイツは殺す。レインの身体を傷付けた報いを受けさせてやる。ガルディアに鍛えられた神人なら味方になり得る奴だが…もう許さん」
"ほ、本当に分かってるんだよ……な?"
「そんな遅い魔法が当たるかよ!」
ルーデリアはアルティの雷撃を地面に伏せる形で回避していた。今度は斧よりもリーチがある長剣を手に持ってアルティの足を狙って振るう。
アルティはそれを避けようともしない。反応できていない訳じゃない。アルティは人差し指を軽く振る。
すると地面から刀剣が出現してルーデリアの斬撃を防ぐ。それと同時にアルティの背後には無数の近接武器が追従するように控えている。ヴァルゼルと最初に出会った時と同じだ。
アルティの〈支配〉の力で大量の武器を操れる。レインを遥かに超える練度だ。
「斬り刻まれろ」
アルティの指一振りで無数の刀剣が一斉にルーデリアへ襲い掛かる。避けられる隙間など存在しない。アルティは傀儡のスキルをレインに渡している。もしこれで傀儡も扱えたなら無数の武器と不死身の傀儡たちの一斉攻勢で相手が誰であっても何もさせてもらえずにやられるだろう。
「クッソ!……卑怯な手を使いやがって……正々堂々と戦い……やがれ!」
ルーデリアは全方位から襲い掛かる武器を両手に持った斧と長剣で何とか弾き飛ばしている。物凄い反射神経と身体能力だった。
傀儡になる前のヴァルゼルもSランクダンジョンで遭遇した謎の人型モンスターも、そのダンジョンのボスすら数十秒と持たずにやられていた。
「何とでも言え。魔王はな……卑怯やり方で一方的に蹂躙するのが大好きなんだよ!なあレイン!」
"いや同意を求められても……賛成は出来ないかな"
「〈
レインの反応を無視したアルティはゆっくりと浮遊し、空高く手を掲げる。魔法の詠唱と同時に巨大な黒い火の塊が出現した。
「…………連撃」
その言葉の後に炎の球体は10個に増殖した。ただそこにあるだけで周囲に熱気をばら撒く。
「消し炭になっちまえ!!」
アルティが手を勢いよく振り下ろす。するとルーデリアに襲い掛かっていた刀剣が一瞬にして消える。消えたと同時に10個の炎の塊が着弾。闘技場の地面全てを埋め尽くす炎の渦が形成された。
逃げる隙間などない。さらにアルティは炎をコントロールして観客まで行かないようにしている。レインには皆無の魔法の才能とそれを操る練度がアルティにはあった。
「〈
相手がどういう状況かも判別不可能な状態でアルティはさらに魔法を展開する。
空中に浮遊するアルティの背後に黒い氷で形作られた矢が大量に出現する。空を埋め尽くすような氷の矢は周囲を夜のように暗く染める。
そのせいでより一層闘技場の地面全体を燃やす炎が際立った。
「ほらよ」
もう一度アルティは手を振り下ろす。それに呼応し空を埋め尽くしていた氷の矢は物凄い速度で燃え盛る地面に向かっていった。
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