第233話
バシュッ――という水が突き抜ける音が聞こえる。水龍のブレスは地面を傀儡ごと抉り飛ばしながらルーデリアの方へと突き進む。
ルーデリアは周囲を傀儡に囲まれている。上空に逃げようとしても巨人兵が待ち構え、さらに魔法兵も攻撃魔法を放ち続けている。魔法兵の攻撃魔法はレインの魔力を使っている。今のレインの魔力量を持ってすれば1年近く撃ち続けても問題ないレベルと言える。
「…………チッ…これが今の支配の魔王の戦法か。やり辛いったらねぇな」
「…………何か話してるのか?」
吹き飛ばされる傀儡、地面を抉りながら進む水龍のブレス、周囲の観客の歓声と悲鳴、そんな中でもルーデリアの声は不思議と聞こえた。
「ただまあ……悪くはねえ。もっと強い奴が混じればそこそこ行けんだろ?」
水龍のブレスは間も無く到着する。このまま命中すれば神覚者といえども助からない。ローフェンの力があるとはいえ1回は確実に死ぬ。
「だが本人の力はまだ把握してねえからな。そうだな……じゃあ…………やるか」
ドンッ!と強い衝撃が地面を走った。ルーデリアの周囲にいた傀儡たちは全て吹き飛ばされ闘技場の壁にめり込んだ。その光景に一瞬固まったレインだがすぐに落ち着きを取り戻す。ルーデリアのいた場所に水龍のブレスが命中した。
「避けてないよな?直撃したのか?何かしようと……」
その時、水龍の頭が消し飛んだ。その上に立っていたレインはバランスを崩して地面へ落下する。
「なっ?!」
レインは狼狽えながらも空中でバランスを整えて着地する。水龍の再生が遅れるほど細かく刻まれた。あまりにも細切れにされたせいで消し飛んだのだと錯覚するくらいに粉々だ。
そしてすぐレインは周囲を見回す。しかしルーデリアがいない。今この場に水龍の頭を細切れに出来るような奴は1人しかいない。何をしたのか知らないが、レインの目から逃れられる存在はかなり少ない。
「…………どこだ?」
レインが呟いた時に後ろに突如として気配が出現した。レインはそれが誰かを確認する事もなく剣を握って振り返り様に全力で振り下ろした。
「……マジか」
そこにはルーデリアがいた。しかしレインが驚いたのはそれではない。レインの振るった剣の切先はルーデリアに掴まれる形で止められていた。レインの斬撃をルーデリアは素手で受け止めている。
さらにルーデリアの姿も少し変わっていた。右腕から首筋、そして頬に至るまで赤い炎を連想させるような模様が浮かび上がっている。
「なかなかいい反応速度だ」
「お前……その姿は……」
「私の姿なんかどうでも良いだろ?ほら防御しないと死ぬぞ?」
ルーデリアは足を振り上げて蹴りを放つ。レインは咄嗟に盾を召喚して両手で持って防ぐ。しかしその直後、レインは闘技場の崩れた壁の中にいた。
「ああ…痛い。アルティの盾が壊れた……これ腕も折れたな。蹴りが見えないって……マジか」
アルティから貰った盾の中心が大きく歪んでひび割れている。水龍のブレスにすら耐えた盾が蹴り一撃で壊れた。
「早くお前もなれ。本気を出せ。出来るんだろ?」
顔を上げると既にルーデリアがいた。そしてレインに理解できない事を言っている。
「何言って……」
「
「…………なぜその事を」
「お前……もしかしなくても相当頭悪いな?察しろよ……というか聞いてないのか?おい!」
ルーデリアはレインの首を掴んで持ち上げる。当然抵抗するが物凄い力で何も出来ない。これほどの力の差を味わうのは久しぶりな気がする。
"そんなこと言ってる場合じゃない!死ぬぞ……これ"
「何とか言え!」
「……ぐぅぅッ!」
言えと言われても首を絞められているから話せない。ルーデリアはレインとアルティの事を知っている。レインよりも。ただそれを伝える手段を言えって言ってくる奴が封じている。
「何も言わないのか?だったら一旦殺してやる。同じエタニアだから期待したが……外れだったな。神話級ポーションとかも興味ないし……お前を殺してこのままイグニスへ行くとするか」
ルーデリアは首を掴む拳の力を上げていく。首の骨がミシミシと音を立てる。
「…………はな…せ!!」
レインは苦悶の表情を浮かべながらも何とかルーデリアの腹部に蹴りを入れた。鳩尾に確実に命中した。
なのに微動だにしない。むしろ脚の方に痛みが走る。鋼鉄の壁に蹴りを入れたようだった。
「くすぐったいな。ほらもう一回やってみろ。少し力を緩めてやるからよ」
そう言ってルーデリアは拳の力を弱めた。しかし少し余裕が出来たからといってすぐに動けるわけじゃない。
"……レイン"
「………………え?」
レインは足をもう一度上げた。首を掴まれ持ち上げられたまま再度蹴りを入れる体勢を取る。
「ほら蹴りを入れてみろよ!お前の弱々しい蹴りなんぞ痛くも痒くもないけ」
ドゴンッ!――とレインの蹴りがルーデリアの腹部に炸裂する。
「げぅッ!!!」
ルーデリアは血を吐きながら崩れた壁の中から飛び出した。地面の上を何度も何度も転がりながら進んでいく。そして反対側の魔法石で強化された壁を突き破ってさらに奥へと進む。
「ちょっと仮眠してる間に何だこの状況は?何であっちの方から魔王の気配がするんだ?
まあそれはいい。何で神の魔力を持つ奴が私の超大好きなレインの首を掴んで殺そうとしてるんだ?お前が神の関係者だろうが関係ない……殺すぞテメェ!」
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