第232話
闘技場全体を揺らすほどの衝撃と土煙が舞い上がる。完全に不意を付けたはず。あんな状態であればレインだって無傷では済まない。
視界の範囲内なら傀儡を召喚できるという特性を使っての不意打ち。卑怯だと言われるかもしれないが知った事ではない。カトレアを傷付け、使用人を侮辱したルーデリアに配慮なんてものはいらない。
「何という衝撃だ!これは勝負あったか?!」
審判の解説が観客たちのテンションを上げていく。お互いの名前のことなどどうでも良いかのように歓声へと切り替わる。
「勝手に決めるな」
「まあ……そうだよな」
舞い上がられた土煙が収まる時に声が聞こえた。やはりルーデリアは傷一つ付いていない。
足を掴まれ動きを封じられているのには変わりない。ただ上空からの攻撃を斧と長剣で受け止めていた。人間の腕力でできる事ではない。巨人兵4体の一撃をあんな細い腕で受け止めるなんて普通じゃない。
観客たちは響めくが、レインはそこまで動じていない。何故なら赤い魔力がどんどん広く高く立ち昇っている。
「な、なんと!まだ生きているぞ!」
「…………やっぱりアイツ五月蝿いな。ヴァルゼル、そのまま掴んでろよ」
レインはさらに傀儡を召喚する。レインを取り囲むように騎士たちが召喚される。剣豪や聖騎士もいる。そんな新たな集団の先頭に魔法兵たちがいた。
「魔法兵、全力の魔法を放て。アイツは今、上からの攻撃と足を掴まれて動けない。やれ」
先頭に立つ6体の魔法兵が持っている長杖の先をルーデリアに向けた。そして間髪入れずに
ズドンッ!と巨人兵の攻撃ほどではないが、地面に響く爆発が起こる。魔法兵たちはさらに続けて魔法を放ち続ける。
その光景に観客たち口を閉じた。ついさっきまで爆発の音にも負けないくらいの歓声だったのに今は爆発の音しか聞こえない。
「…………何でお前ら引いてるんだ?静かになったからいいか。攻撃は続けてろ」
爆発による煙はどんどん周囲に広がっていく。ただルーデリアに大したダメージはないだろう。と、レインが思った瞬間に煙から何かが空に向かって飛び出して来た。
「あれだけじゃ無理か。ヴァルゼルの腕をぶった斬ったんだな」
「さっきから!地味に熱いのと痺れるの連発して来やがって!!鬱陶しいんだよ!!さっさと死ねよ!クズ野郎が!」
空中にいるルーデリアを叩き落とそうと巨人兵たちが剣を振り下ろす。
「そんな攻撃があたるかよ!」
ルーデリアは空中で身体を回して巨人兵の剣を避ける。そしてその大剣を足場にして高速で移動する。ルーデリアを取り囲んでいた巨人兵たちは瞬き1つの間に首を吹き飛ばされて地面に倒れた。
その倒れる身体をさらに足場としてルーデリアはレインへ向けて一気に跳躍する。
傀儡の剣豪と聖騎士が接近を阻止する為に間へ入り込んだ。ルーデリアの突進は剣豪と聖騎士2体が力を合わせてようやく止める事が出来た。
「鬱陶しい!鬱陶しい!鬱陶しいんだよ!!」
「傀儡たち……アイツを取り囲んで斬り殺せ」
全力でルーデリアを止める剣豪たちの周囲を埋め尽くすように傀儡たちが出現した。海魔も鬼兵も武器を構えてルーデリアに突撃する。
「ちぃ!うざい攻撃ばかりチマチマと!!」
ルーデリアは全方位から迫る傀儡に対応する為、突撃を停止する。というか停止せざるを得ない。剣豪と聖騎士は攻める事をせず、ただルーデリアの突撃に耐えるのみで突破には時間がかかるようにした。
しかし全方位からの攻撃と言っても所詮はAランク以下の傀儡たちだ。超近接戦特化の神覚者であるルーデリアには手も足も出ない。
斧の一振りで十数体が吹き飛ばされる。傀儡の特性の1つ、吹き飛ばされると着地したその先で再生するから相手との距離が出来てしまう。
その対策の為にレインは傀儡の数を揃えた。吹き飛ばされたならすぐ後ろに控える別の傀儡が突撃する。絶え間なく全方位から魔力が続く限り延々と繰り返させる。
「魔法兵は巨人兵の手に乗って上から魔法を撃ち下ろせ。近くの傀儡ごとやれ」
レインはさらに追加で巨人兵たちを召喚する。6体の巨人兵の手のひらには魔法兵が乗り、10メートルくらいの高さから魔法攻撃を開始する。
炎撃は傀儡ごとルーデリアの周辺を焼き、雷撃は傀儡を貫通してルーデリアに襲い掛かる。
「うわぁ……イライラしてるなぁ」
ルーデリアはどんどん静かになっていく。しかし顔は鬼兵みたいになっていて普通に怖い。
「おおっと!!な、何だアイツはー!」
審判が叫ぶ。それはルーデリアに襲い掛かる傀儡たちを見たからではない。レインの足元からゆっくりと出現した巨大な龍を見ての事だった。水龍の出現で歓声の中に悲鳴が混ざるようになった。
水龍は巨大な為、全て出現されると闘技場の壁にあたって観客に被害が出る。そんな事で失格なんてあり得ない。だから上半身?の部分だけ召喚した。やろうと思えば胴体を省略して別の近い場所に尻尾も召喚できる。
が、考える事が増えるから今はやらない。そこまで頭は回らないし、回るような容量もない。これからも増えない。レインは若干悲しい思いを抱きながら命令を下す。
「水龍、ブレスだ。傀儡ごとやれ」
レインの命令を受けて水龍は口を大きく開ける。すぐに青白い光が水龍の口に集まりそして放たれる。
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