番外編4-8
「すいません……俺って本当に頭が良くないので……」
「そ、そういう訳ではありません!……ええと…この国の法律で男性は4人の女性との結婚が許されているんです」
「ちなみにエスパーダ帝国は超越者に限り制限はありません。優秀な遺伝子を持つ者同士の子供は国力増強に繋がりますからねぇ」
レインに抱きついたままのカトレアが捕捉する。別に興味はない。
「4人……ですか」
「はい、ただし色々厳しい条件があります。同じ家に住む必要があり、妻にする女性の人数以上の部屋も必要です。
あとは王族によくある正妃や第2妃のような順位付けの禁止ですなどもあります。全員を平等に愛さなければならない……という事ですね。
最後に厳しいですが、新しく妻を迎える時は既に婚約関係にある女性全ての同意が必要……などもあります」
「………………はぁ」
結婚。これまでもこれからも自分には関係ない事だと思っていた。でも今はカトレアがいる。もしかするとそういう関係になるのかもしれない。
"…………結婚って何したらいいんだ?というかしたら何か変わるのか?"
が、当のレイン本人がよく分かっていない。レイン本人が結婚しようと思う事はまだまだ先になりそうだった。
◇◇◇
あの後、レインは無理やり結婚の話題を終わらせて式典の会場へと移動する。食堂は人の気配が皆無だったが会場になると話は変わる。
既に大勢の貴族っぽい人や使用人たちがいた。ザワザワと楽しそうに会話をしながらグラスを片手に立ち歩いている。しかしそんな騒然とした会場も一瞬で静まる。
当然だ。自分たちよりも上の階級である神覚者、それも超越者の2人と王家に次ぐ権力と歴史を持つセレスティア公爵家の令嬢が一緒に入ってきた。
全員が各々の用意された席へそそくさと移動して着席する。そして口を閉じて俯いた。最低でも200人以上がいる空間とは思えないほど静かになった。
「………………何ここ?処刑場?」
「違います、ここが式典会場です。奥のステージ袖からクラスごとに今年の新入生が入場します。新入生の代表者が簡単な挨拶をして終わりです。
その後は新入生たちがここに来ているであろう家族の元へ来ますので、食事をしながら他の生徒とその家族と交流するという流れです。
しばらく楽しんだ後にクラスごとに分かれて教室に行きます。既に教科書などが準備されているはずなのでそれを受け取って帰宅というのが初日になりますね。
……あら?私とは別のテーブルのようです。また後でお会いしましょう」
「…………なるほど、助かりました。また後で」
そう言ってエレノアは会釈して自分の席へと歩いて行った。レインたちも自分の席のカトレアと共に探す。
「……はぁー、なんか緊張してきたな」
「何でレインさんが緊張するんです?」
カトレアは少し呆れるように話す。レインたちは案内されるがまま自分たちに用意された席へと歩いていく。エレノアとは別の席だったようで今はカトレアと2人だけだ。
「いや……だって妹の初めての晴れ舞台だぞ?何かあったらどうするんだ。……Sランクダンジョンより緊張する」
「妹の入学式典とSランクダンジョンを並べないで下さい。……あら、このお酒美味しですよ。レインさんも飲んでみて下さい」
カトレアはレインの前にグラスを置く。しかしレインはそれを取ろうともしない。一瞥するだけでお茶だけを啜っている。
「お酒飲むと全身が痒くなるから飲まない。お酒の何が美味しいのかもよく分からない。……と、とりあえず今は緊張してて、なんか気持ち悪いから…は、話しかけないでくれ」
「お酒弱いんですね。そんな所も可愛くて素敵です。レインさんの新しい面を知れば知るほど好きになっていきます」
そう言いながらカトレアは座席をずらしてレインの方へと近付く。神覚者同士が仲睦まじく話しているのを見た他の貴族たちは行動を起こす。
カトレアの方には容姿は良さそうな貴族の男性が、レインの方には宝石と香水で全身を武装した貴族の女性がやってきた。
「初めまして、アッセンディア様。私はイグニス南西部に領地を持つ……」
サラサラの金髪を靡かせた男がカトレアへ話しかける。しかし名前を言う前にカトレアが手を出して制止する。
「ああ……私に挨拶は必要ありません。どうせ覚えられませんので。国王に直訴できるくらいの立場になってから改めてご挨拶して下さるかしら?
それと……神覚者2人の会話に割り込むなんて大国の王でもなかなか出来ない事ですよ?貴方はこの国の王なのでしょうか?」
カトレアの目の笑っていない微笑みが恐怖を振り撒く。
この場にいる全員が、これ以上発言すれば自分たちにとって良くない事が起こると察した。
覚醒者でない家柄だけの貴族が世界を代表する神覚者に目を付けられれば死よりも恐ろしい事になる。
「いたいッ!」
そんなカトレアの頭にレインは手刀を放つ。その行動に貴族たちは騒然となる。
「エリスの晴れ舞台に変な空気を持ち込むんじゃない。どうせ家で沢山話すんだからいいだろ?」
「あ、ありがとうございます。そ、そうですよね!」
家で沢山話す――つまり今後も滞在していいというレインの言葉にカトレアは満面の笑みを放つ。
その美しさと可憐さに男性たちは横にいる妻の視線すら構わずに見惚れた。ただ当のレインにはそれが伝わらなかった。
「あ、あの……レイン様?」
レインの手刀により雰囲気が和んだ式典会場。女性たちはこの隙を見逃さず動いた。
「何でしょうか?」
「も、もしよろしければ……この式典が終わった後に我が家で食事など如何でしょう?私の家で雇っている料理人はとても優秀なんです」
「それなら私の家だってすごいわよ。こちらの方にいらして下さらない?」
何としてでもレインを自宅へ招きたい女性たちは我先にとレインを誘う。
ただ言い争いはしないようにしていた。醜い言い争いをして神覚者の心象を悪くするのは避けないといけないというのは全員が理解していた。
「すいませんが、美味しい食事は間に合ってます」
レインは女性たちからの誘いをキッパリと断る。隣で心配そうに見ていたカトレアは、うんうんと頷いている。レインが即答で行きます!と言ったらどうしようかと不安だった。
「で、では!」
諦めきれない女性はさらに別の提案をしようとする。
「大変お待たせ致しました!それではこれより新入学生の式典を行います。ご家族、来賓の皆様方は席にお付きください!」
ここで壇上から男性が部屋中に響き渡るような声を張り上げる。これよりエリスたちの挨拶が始まるようだ。
「…………間の悪い……レイン様、また後でお話ししましょう」
そう言って女性たちは解散していった。カトレアの方に関しては最初の恐怖からか誰も居なくなっていた。
「それでは……まずは普通科学生からの入場です」
「…………普通科?……なあ普通科ってなに?」
レインはカトレアに小声で尋ねる。そもそもエリスがどこに所属するのかレインは知らなかった。
「え?……すいません、この国の教育機関についてはまだ詳しくなくて……」
カトレアも小声で且つレインに顔を近付けて話す。エスパーダの人間であるカトレアが遠く離れたイグニスの学園の事を知っているはずがない。
「あー……そうか…そうだよな。申し訳ない」
「大丈夫ですよ。ただエスパーダにも同じように普通科や覚醒者教育専門科などもあります。国が違うからといって大きな差はないと思いますので、覚醒者でないエリスさんは普通科になると思いますよ?」
「…………そうか…あ、いた」
壇上には普通科所属とされている生徒たちがゾロゾロと歩いて出てきた。全員が黒と赤を基調とした制服を着ている。数十人が一斉に入場している中でもレインは即座にエリスを見つけた。
「え?ど、どこですか?……何故そんなに早く発見できるんです?」
「俺のエリスへの愛情を舐めるな。数千万人いたとしても一瞬で見つけられる自信がある」
「それは……エリスさんの前では言わない方がいいですよ?気持ち悪がられるかもしれませんよ」
「そんな事ないよ。…………というか挨拶聞いてなかったな。もうエリスの入場も終わったし、合流したら帰るか」
「…………本当にエリスさん一筋ですね。それをもう少し私にも向けてほしいものです」
こうして将来イグニスを支える事になる学生たちの入場と挨拶は進んで行った。序盤にメインであるエリスの入場が終わった為、神覚者の2人はほとんど聞いていなかった。
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