番外編4-7







「……………………何でもないです」


 今、頭で思っていた事を素直に話したら殺される。この学園諸共消し飛ばされそうな気がする。初対面だった決闘の時より親しくなってからの方が怖い。圧倒的に怖い。


「し、失礼致しました。それと……ありがとうございます。断られるものだと思っておりました」


「え?どうしてですか?」


 まあ断るつもりではいた。ただ今回はタイミングが良かっただけだ。


「レイン様はとても忙しい御方でしょうし、お茶会は一晩で終わりますが、道中の移動で計3日ほどテルセロを離れる事になります。それだけのお時間はとっていただけないと思っておりましたので……」


「今は時間があっただけです。それに依頼ですからね。受けられるのに断るのは良くないですから」


「ありがとうございます。……出発は3日後なのですが、本当に大丈夫ですか?もちろんレイン様の屋敷の前までお迎えにあがります。

 日程として、その日はアルアシルにある私の私邸で滞在します。次の日の夕刻より茶会は始まります。そして次の日の昼過ぎにはテルセロヘ戻る形となります」

 

「分かりました。……俺は何か用意する物はありますか?服装とかは……普段の装備が有難いんですが」


 今着ているこの堅苦しい服も嫌いだ。本気で動くと多分破ける。何の意味があるのか分からないマントも色々なものに引っかかるしイライラしてしまう。


「もちろん、それで大丈夫です。では3日後からよろしくお願い致します。その馬車の中で報酬の件はお話しさせていただきますが、必ず納得のいくものにしますのでよろしくお願いしますね」


「了解しました。…………さてエリスたちはどうしてるかな?」


「施設の案内が終わればご学友たちとの顔合わせになるかと。その後は制服のサイズを測り、着替えて式典となります。先に移動しておきましょうか」


 そう言ってエレノアは立ち上がる。制服がどんな物かは知らない。ただエリスが着るのだから絶対に可愛いはず。もしそれで変な男が言い寄って来たら大変だ。


 "学生といえどエリスに手を出すならぶっ殺す。あんなに可愛いんだからそんな輩も出てくるよな?怪しい奴は今のうちにやってしま……"


 レインが考え込んでいると、いきなり首元に氷結魔法を纏った指先が触れる。


「ああ!!冷たい!!!」


 カトレアがレインの首元にガンガンに冷え込んだ指を押し当てた。凄まじい冷たさにレインはその場から離れる。エレノアはレインの移動に反応すら出来ない、


「え?!え?!」


 と声を上げながら周囲を見回す。レインの移動に反応出来ていたカトレアはその方向を見ながら立ち上がって口を開いた。


「レインさん……由緒ある学舎でその顔はやめて下さい。何を考えていたのかは想像出来ますが……未来ある子供をやってしまおうなどと考えてはいませんよね?」


 "何で分かるんだ?やはり顔に出てたのか?"


「…………別にそんなことは……ないよ?」


「完全に嘘ですね。……ふふ…本当に分かりやすい御方ですこと」


 カトレアはレインの頬を両手で包む。そしてそこそこの力でギュッとする。少し前にも誰かにやられた気がする。しかし覚醒者であるカトレアの力の方が圧倒的に強い。


「…………痛いんですけど」


「まあまあ……これも私の愛情表現です」


 カトレアはレインへと顔を近付けていく。そして瞳を閉じた。

 

「…………あの」


 2人の間にエレノアが入り込む。


「………………何ですか?」


 "この2人……多分仲良く出来ないな。相性すごい悪そうだもんな"


「貴方こそ殿方に対して節度ある行動をすべきだと思いますが?」


「…………ふふふ…何を言っているのです?ああ…貴方は知らないんですね?私とレインさんは相思相愛でお付き合いしているのです。だからこうやってキスする事も出来るんです!」


 そう言ってカトレアはエレノアを無視して口を近付けた。レインが何もしなければ唇同士が触れ合うキスとなる。が、レインは咄嗟に横に避けた。


 カトレアはいつも通りレインの頬にキスをする。しかし腑に落ちない顔をしている。


「………………何故避けたのですか?」


「え?……ごめん、何となく」


「レイン様……ほ、本当に……お付き合い……を?」


「え?……まあ…ダンジョンでしつこッ」 


 レインが言い切る前にカトレアの電撃が人差し指からレインの腹部に刺さる。油断してたからすごく痛い。


「レインさんは他の方々がしているような含みを持たせるような、何が言いたいのか分からない言い方は好みませんし、伝わりません。

 だから私はレインさんが好きでお慕いしていると真っ直ぐ伝えたのです。あなた方とは覚悟が違います。レインさんから告白させようなどと姑息な手は使いません」


「…………そんな…これであと3人しか……」


 エレノアが呟く。


「いててて……カトレア…怒ったら魔法を放つのやめてくれないか?笑顔なのがさらに怖いよ。……俺だって痛いんだぞ?」


「あら?ごめんなさい……あ、な、た」


 カトレアは頬を包むのをやめてレインの首に腕を回して抱きつく。もうそれも慣れたがエレノアが呟いた事が気になった。


「…………エレノアさん…今言ったあと3人ってどういう事ですか?」


「…………え?……レイン様はご存知なかったのですか?」


 エレノアは驚く。知っておかないとダメな事だったみたいだ。

 

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