番外編4-5
その言葉でレインの頭の中にその時の記憶が一気に蘇る。あの失礼な取巻きがいて、シャーロットが来た途端に何処かに行った人だ……くらいしか印象がない。
「あー…………すいません。あの後、いろいろあったもので……」
「ふふッ……大丈夫ですよ。この度はSランクダンジョンの攻略おめでとうございます。さらにはイグニスの領土拡大にも貢献したと聞いております。
それで今日はどうしてこちらに?既にレイン様は十分すぎるほどの教養を得ていると思いますが……それに後ろの御方は……アッセンディア様でしょうか?」
「その通りです……エレノアさん…でしたか?会うのは初めてですね?今はレインさんの家にお邪魔しているんですの。今回はタイミングも良かったので一緒に学園を見学させていただこうかと思いまして……」
カトレアは簡単に挨拶する。貴方には興味ありません感をふんだんに前へ押し出している。さりげなくレインの家に滞在している事もアピールしていた。
カトレアは常にレインの周囲にいる女性(家族や使用人を除く)を警戒していた。世界中の男性神覚者たちには既に婚約者がいたり、軍に所属していたりと声を掛ける事すら出来ない状況にある。
しかしレインは別だ。何処にも所属せず、そうした色恋沙汰の話も一切ない。容姿も良く、誰にでも優しい性格で、怒る時はちゃんと怒る人間性も兼ね備えている。
圧倒的な強さと資産を持つ人を世界中の女性たちが、特に貴族位を持つ権力に飢えた女性が放っておく訳がない。特にレインが住む国の公爵家令嬢となれば尚更だ。
そしてカトレアの警戒を他所にレインはエレノアの言った言葉にやめてくれと言いたい。レインの教養なんてあってないようなものだ。
普段無口で多くの人と関わりがないからクールで頭が良さそうというイメージが勝手に1人で走り出したに過ぎない。
その走り出したイメージはもうレインにはどうする事もできない程遠くまで行ってしまった。
「お兄ちゃん?」
先を歩いていたエリスが戻ってきた。エリスを見たエレノアはエリスへ駆け寄る。
「あらあら!なんて可愛らしい子なんでしょう!レイン様のご家族ですか?」
エレノアはエリスの前でしゃがみ手を握る。それを受けてエリスは少し引く。まだ見知らぬ人に触れられるのは驚くし、怖いようだ。
「こんにちは……エ、エリス・エタニア……です」
それでも頑張って自己紹介できた。もし怖がって嫌がるようならエレノアを無理やり引き剥がして、窓の外へ投げ飛ばす所だった。
「こんにちは。私はエレノアと申します。こちらは私の妹のクラフィールです。今日からこの学園に通うんです。エリス様と同じクラスになれたらいいですね。ほらご挨拶なさい?」
エレノアはエリスから離れて蚊帳の外になっていたクラフィールという妹を前に出した。
「こ、こんにちは……クラフィール・アドル・セレスティアです。よろしくお願いします」
その子はドレスの裾を少し持ち上げて挨拶する。とても小さく可愛げのある挨拶だ。クラフィールはレインの方を向いて挨拶する。
「レイン・エタニアです。こっちは……」
「妹のエリス・エタニアです。クラフィール……さん?よろしくお願いします」
エリスもぺこりと頭を下げる。レイン達は貴族ではないから作法などは知らない。でも可愛いから良しとする。文句を言った奴は後で本気の決闘を申し込んでやる。
「エリスさん……クラフィールに敬称は要りません。歳も近いでしょう?私たちはいつもラフィーと呼んでいますからエリスさんもそう呼んであげて下さい」
「……ラ、ラフィーちゃん?」
エリスがそう呼ぶとクラフィールは嬉しそうに首を縦に振った。この2人はもう大丈夫だなとレインは思った。
「エリス……あとはリゼさんに2人で学園を案内してもらうといい。俺とステラは従者だからついていくけど邪魔しないようにするよ。いっぱいお話ししたらいいさ」
「うん」
「はい!」
エリスの少し不安そうな声とは裏腹にクラフィールは元気のいい返事だ。
「エリスちゃん!行きましょう!」
クラフィールはエリスの手を引く。少し離れた場所で待っていたリゼの元へと走っていく。ステラも2人を追いかけるようにしてついていく。
レインもエリス達を追いかけようとした時だった。レインはエレノアに腕を掴まれる。レインは少し驚いたが、カトレアは見た事ない顔でその手を睨んだ。この人がいると毎回こうなった時に揉めそうだ。
「…………何ですか?」
「あとはあの子達だけにしましょう。私たちがいては気になってお話できないかもしれません。
それに私たちがこの学園に入れるのは今日だけですからね。私たちがいないという環境にも慣れさせた方がよろしいかと思います」
エレノアの言うことは最もだ。いくら神覚者といえどこの学園には自由に出入りが出来ない。それほど警備面にも重きをおいている。ずっと家にいるから学園内くらいでは1人で行動できるようになった方がいいかもしれない。
「……そうですね。じゃあ正門で待…」
「よろしければお茶でもどうですか?可能であれば2人で……。それにこの学園の食堂にはとても優秀なシェフがいらっしゃるようですよ?大事なご家族が口にされる物ですから前もって知っておいても損はないでしょう?」
エレノアは食い気味にレインの言葉を遮る。2人という言葉にカトレアの魔力が大きく揺らぐ。
エレノアは覚醒者じゃないから分からないが、レインは振り返らなくても分かる。そこそこ怒ってる。この誘いを即答で了承すれば背後から攻撃魔法が飛んでくる。エリスが入学する前に学園が吹き飛んでしまう。
「……今は先約のカトレアがいますので、2人というのはちょっと……。あと何でそんなに学園に詳しいんですか?」
「私もここを卒業しておりますので。とても懐かしく思えます。…………であればカトレア様も一緒に3人で如何でしょう?お茶のついでにお話も出来ますし」
別に貴方と話す事は何もないと言いたい。話題がないのだから。ただ断っても後でいろいろ言われそうで嫌だ。
「分かりました。案内をお願いしても?」
「もちろんです!では行きましょう!」
一切言葉を話さなくなったカトレアに恐怖を覚えながらレインはエレノアの後をついていく。
◇◇◇
『セレスティア公爵家』
イグニス王家に次ぐ歴史と権力を持つ公爵家である。セレスティア家で産まれる男は覚醒者となり、女は絶世の美女となるという不思議な家系。
しかし現在、セレスティア家に男性は現公爵を除いていなかった。セレスティア公爵夫人は次女のクラフィールが産まれたとほぼ同時に亡くなってしまった。元々身体が弱かったという事もあっての事だ。
そしてその時からエノレアの人生を賭けた使命が始まった。公爵家の血筋を途絶えさせない為に、優秀な力を持つ覚醒者を婿として迎え入れなければならない。その為にありとあらゆる教養を叩き込まれた。
"私はセレスティアの人間として何としてでもこの人を迎え入れなければならない。普段ボーッとしてて何考えてるか分からないけど……あの任命式で発揮した力は物凄いものだった。
それに今やSランクダンジョンをクリアし、8人目の超越者とされている。噂でしかないけど、セダリオンを滅ぼしたのもこの人だ。
アルバス様も仰っていた、彼は単騎であれば既に世界最強の神覚者だと、そしていずれ世界の全てを敵に回しても勝てるだけの力を得ると。イグニスの男性は最大で4人の女性と結婚できる。何としてでもその4人に入らなければならない。だからは私は……"
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