番外編4-4






◇◇◇


 レイン達は市街地を抜けて学園へと向かう。王城へ向かうよりは遠いが、それでも徒歩で30〜40分ほどだろうか。エリスにとってはいい運動になるだろう。


 そしてレインは何処にいても注目される。特に今回はカトレアもいる。

 すれ違う人は全員が立ち止まり、人集りはレインに道を作るように散っていく。中には手を振る女性もいた。ただレインはどうしていいか分からない為、返事もしないから無視するみたいになる。


 手を振られる度に返事をしていたら常に振り続けないといけないし、そんなのは嫌だし、面倒だ。自分でも愛想は良くないと自負している。


 そんな事もありながら1時間ほどゆっくり時間をかけて学園の正門へと辿り着いた。レインの屋敷よりも遥かに大きく王城に匹敵する門が聳え立つ。


 歩いて到着したレイン達だったが、その横を大型の馬車が複数連続で走り抜けていく。平民たちは徒歩だが、貴族にもなると馬車で通学するようだ。


 レイン達が学園の正門を通過すると1人の女性が駆け寄ってきた。


「レイン・エタニア様、エリス・エタニア様、お待ちしておりました。私は当学園の教師をしております、リゼ・ウォルベールと申します。本日は私が皆さんをご案内させていただきま…………す?」


 リゼと名乗る教師はレインの横にいる人を見た。予想外の人がニコニコしながら立っている。見間違うはずがない。


「こ、こんにちは!!」


 エリスが真っ先に大きな声で挨拶をする。


「どうも、レイン・エタニアです。よろしくお願いします。……こっちは従者のステラです。で、ついでについてきたカトレアです」


「…………ついで?」


「間違ってないだろ?」

 

「え……えーと…こ、こちらこそよろしくお願いします。あの……カトレア様とは……もしかして『魔道の神覚者』様でしょうか?」


「はい、『魔道の神覚者』カトレア・イスカ・アッセンディアですわ。以後お見知り置きを」


「やっぱりお前って有名人なんだな」


「……エスパーダでは私が他国の式典やダンジョン攻略に1番参加していますからね。まあさせられているんですけどね。顔は知られていると思います。……何でレインさんは知らなかったんでしょうね?」


 カトレアは目を細めてじーっとレインを見つめる。

 

「俺、自分の国のSランクも知らなかったからな。まあいいや。えーと……中に入っても良いんですか?」

 

「もちろんです。それでは……ここから先はレイン様とカトレア様、従者の方のみ同行が許されます。護衛の兵士の方々は外でお待ち下さい」


 兵士は学園の中には入れないようだ。神覚者相手でも規則が変わらないのは安心だ。相手の身分によって対応を変えていたら信用なんて出来ない。

 

「ここまでで大丈夫だ。もう屋敷に帰っててくれ。帰りにこれで何か食べてくれ。……あー命令だ」


 レインは数十万ほどの紙幣を兵士に渡した。収納している紙幣を数えず雑に引っ張り出した。

 

 ハイレンの時のノスターはかなり渋ったが、この2人はすぐに受け取った。隠しきれない笑顔を何とか誤魔化しながら深々と頭を下げて小走りで帰っていった。


 "あんな感じだと次も何かしてあげたくなるな。兵士だからって何もかも遠慮して我慢する必要はないよな"


 そしてレイン達はリゼという教師に連れられて学園内へと入っていった。


 

◇◇◇


 

「それでは順番にご案内していきますね」


 リゼはレインの方を向いて話す。しかしレインはすぐにエリスの背中を手を添えて前に押し出した。


「エリスに言ってやってくれ。あとステラも聞いててくれ。俺は覚えられないし、従者としてここに来るのはステラだ。頼むよ?」


「承知しました」


「かしこまりました。ではエリスさん、こちらです。質問があれば何でも言ってください」


「は、はい!」


 エリス達はレインよりも先に歩く。それを追いかけるようにしてレインとカトレアも歩く。エリスは病気が治ってから瞬く間に成長した。その背中を見るだけでも嬉しくなる。


 カトレアも今日はあまりグイグイ来ない。いつもなら手を握ってきたり、頬にキスしてきたり、抱きついてきたり、押し倒してきたり等をいきなりやってくるが落ち着いている。流石に学園ではやらないようだ。


 

「…………大きくなったな」


 そう思いレインも歩き出そうとした時だった。学園校舎の廊下の角から誰かが飛び出して来た。その者はそこをちょうど通りかかったレインとぶつかる。そしてその者は弾き飛ばされてしまった。


「キャッ!」


 可愛らしい小さな悲鳴が聞こえる。〈魔王躯〉を発動させているレインにぶつかるというのは何の防具も付けず、ただ鋼鉄の壁に体当たりするようなものだ。覚醒者でなければ吹っ飛ばされる。

 

「おっと……」


 レインはその子供が倒れる前に手を引いて引き寄せる。その子がバランスを取り戻して立つまで支えた。


「す、すいません!私……ちゃんと前見てなくて」 


「大丈夫だよ、怪我はない?」


 その子供はおそらく貴族の子供だろう。そう思える綺麗なドレス、そして金色の髪に緑色の引き込まれるような瞳をしている。


 "歳もエリスに近いかな?"

 

「は、はい!大丈夫です!」


 その少女は酷く緊張している様子だった。もしかして自分の顔が怖いのだろうか?と、レインが不安に思っていると、その少女の後ろから別の人物が近付いてきた。


「これはこれはレイン様、お久しぶりでございます。こんな所で奇遇ですわね」


 そこにいるのは同じく金色の髪を持ち、豪勢なドレスを着た女性だ。何処かで見た事があるような気がする。


 "誰だ?……何処かで会ったような気がしなくもないが……思い出せない"


「えーと……どうも……こんにちは」


 とりあえず挨拶はだけはしておく。無視するのも良くない。もしかするとエリスと同じクラスになるかもしれない。


「覚えてらっしゃいませんか?エレノアです。エレノア・エルン・セレスティアです。以前、任命式の際にご挨拶させていただきました」


 

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