第216話
◇◇◇
「ふぅー!危ねぇー!何とか封印できた。で、〈君が魔王となった時、全てを思い出せ〉…よし!これで大丈夫だね。まさかスキルを2つも新しく創らないといけなくなるとは」
そして魔神はパチンと指を鳴らす。
「……………あれ?」
そこで立ったまま意識を失っていたレインは目を覚ます。何かされた気がするが、何をされたのかも分からない。何故か何もされていないと納得しようとしている自分がいる。
「さて、どこまで話したかな?」
「え?えーと……継承の儀式を2つまでクリアしたって。……あと何かしたのか?なんか変な感じがするんだけど」
ただ自分の中の違和感を無視することは出来ない。一応魔神に問いかけてみる。
「何もしてないよ。じゃあまずは1つ目から行こう。最後の儀式の答えは『覚悟』だ。魔王となる覚悟を示す事で君は魔王としてもう一度覚醒する」
「……覚悟?」
「そう、魔王になるって言えばそれでいい。でも生半可な気持ちで覚悟を語らない事だ。
魔王とは全ての悪の原点であり、全ての負の先にいる存在。老い、病、寿命の概念がかなり乏しい存在だ。それらを完全に無くすのは無理だが、何もしなければ永遠に近い命を得られる。
君が大切にしている存在は確実に自分より先に死ぬ。やがて自分が人間だった頃を知っている存在はみんな居なくなる……魔王が住む世界はそんな世界だ」
「……そうか」
レインはイメージが持てなかった。ほぼ不死の世界。やがて孤独になる世界。でも今いるみんなを確実に守れる力を得られる。それらを天秤に掛ける必要がある。すぐには答えを出せなかった。
「その辺はゆっくり考えな。ただゆっくりと言った手前申し訳ないが……君たち人間にはそこまで時間が残されていないかもしれないね。
じゃあ2つ目の褒美だ。それは『改変』。まあこれは後になれば分かるよ。もう済ませてあるからね。
そして3つ目は『助言』だ。君が魔王になろうとした時、必ず出来ないをさせられる。でも魔神の私が言っておく。
「………………えーと」
魔神がいう言葉のほとんどが理解出来ていない。多分全て自分にとって良いことだとは思う。でもその言葉の意味が理解できずに混乱した。
「今は分からなくていいよ。だけど必ず分かる時が来る。そして最後の褒美……それは『在処』だ」
「……在処?」
「そうだ。これも君が魔王になった時の為だ。君の力である〈傀儡〉の強さはもう理解しているだろう。だが君のその力には弱点がある」
「弱点?」
レインの傀儡の弱点。レインより強い敵には何の抵抗も出来ずに破壊される、身体の大きい奴は室内で出せない、強い奴は軒並み身体がデカいくらいだろうか。それしか思い付かない。
「それは時間だ。君は既にそこそこの傀儡を持っているがどれもパッとしない何の取り柄もない雑兵だ。雑兵にしたって数が少なすぎる」
酷い言われようだ。レインだって落ち込む心はある。これまで結構頑張って集めてきた傀儡も魔神を前にすれば雑魚だし、数も足りないと言われた。2,000体くらいいるんだけど?傀儡の剣豪や聖騎士だって結構強い部類に入ると思っていた。
「そうか?……結構頑張って集めたけど?」
「集めたって2,000体くらいでしょ?魔王軍の下っ端の下っ端だってそれぐらいの規模で行動するんだよ?神軍ならもうちょっと少ないけどアイツらは個体の強さが違うからね。とりあえず君の傀儡は雑魚なの!分かる?!雑魚過ぎるのよ!」
「…………そう…ですか」
そんなに言葉のナイフで心を滅多刺さなくたっていいじゃないか。俺だって傀儡だって……みんな頑張ってるんだぞ?それに色々大変なんだぞ?大変なんだからな?!
「まあまあ!そんなに落ち込むでないぞー。だから君の傀儡を強くする存在が君も知っているある場所にいる。その場所を教えてあげよう」
「はあ……ありがとうございます」
「だいぶ疲れてるね。早く自分の家に帰って休みなさい。みんなが待っているよ。……あの子は……確かアメリアと言ったかな?彼女も君を待っている。
さあ最後の褒美だ。魔王になったら私の城へおいで。たまたま君の近くにあるよ。君たちが『魔王城』と呼ぶ場所だ。人間たちもいいセンスの名前を付けるね。君は魔王だけじゃない、魔神の加護も付いている。自信を持ちなさい」
魔神は最後に優しく微笑む。その笑顔はアルティそっくりだった。この人……魔神は敵じゃないと理解できた。
「……なんでここまでしてくれるんだ?魔神って…………殺されたんじゃ」
「そうだね。あの時の……もう数千年前になるのかな?あの時の私は本当に愚かだったよ。自分の退屈を紛らわせる為に自分の子供達を利用した。
創造者が被造物に殺されるなんて間抜けだよね。私はね……本当は……君が魔王になった後に、君を利用して肉体を得て完全に復活するつもりだったんだ」
「………………おい」
「でも気が変わった。私はね……君が家族や使用人とお喋りしながら食事をしている所が好きなんだ。今日あった他愛のない出来事を話して笑う。
そんな事でも私にとっては楽しいんだ。会話に参加できなくても、私の声が届かなくても、ただ聞けるだけで楽しいんだよ。もし私が復活すれば神々は黙っていないだろう」
「そうなのか?」
魔神は寂しそうに話す。ようやく心からの感情を表した。
「もうすぐ私が創った魔王たちの再侵攻が始まるだろう。神の軍はまだ準備が出来ていない。私は君たちの日常を守りたいと思ったんだ。だから力を付けなよ?」
「元からそのつもりだ」
「そう?……でももっと強くなりな。まだまだ成長できるよ。さて……そろそろ向こうに戻りな。ではまたあの城で会おう」
魔神は手を払った。すると背中を何かに掴まれたように引っ張られる。レインは一切抵抗出来ずに奥へと移動させられた。
そして……。
「……………………戻ったな」
レインはあの倉庫に立っていた。そしてすぐにその場を去る。もうここにいる必要はない。さっさと帰るだけだ。レインは倉庫の階段を降りていく。
"帝都の中にいる傀儡はすぐにここに集まれ。帝都の外にいる傀儡は……俺が入って来た正門に移動しろ。もう戦いは終わりだ"
傀儡に指示を出して倉庫を出た。外には既に傀儡たちが集合し始めている。全ての傀儡を回収したら帰るつもりだ。だが、そう簡単にはいかない。
「…………なんか来てるか?」
レインは別の方向を見る。いきなりかなりの人数が帝都内に入ってきた。真っ直ぐこちらに向かって来ている。別の地域にいた兵士が駆け付けたのか?傀儡がここに集結しているからレインもここにいると判断したのだろうか。そうレインは思った。
「…………レイン様!」
しかしその声を聞いた瞬間、敵ではないと分かった。駆け付けたのはエルセナ王国軍だ。
「……アイラさん?どうしてここに?」
「どうしてって……レイン様が1人で帝国と戦っているて聞いたから!生き残りを集めて助けに来たんです!……でも……もう終わったの……ですか?」
アイラは周囲を見渡して判断する。ここに到着する前に中央平原も通過してきた。だからもう帝国軍は壊滅しているとは思っていた。
「終わったよ。皇帝も死んだし、帝国軍もほぼ全員死んだと思う。……あとはアイラさんに任せます。この国をどうするのか……好きにして下さい。イグニスのシャーロットさんに相談してもいいと思います」
「…………え?……えっと…」
いきなりの提案でアイラは混乱する。突然、1つの国を好きにしろと言われてすぐに行動できるほどアイラは経験豊富じゃない。
「傀儡も集まったので俺は帰ります。……疲れたので家に帰って休みます」
「レイン様!待ってッ」
周囲にいた大量の傀儡が消えると同時にレインも消えた。一度の跳躍で帝都の外壁まで移動する。そして巨人兵や水龍を回収してテルセロヘ向けて移動を開始した。
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