第215話







 少女が言い放った事をレインはすぐに理解出来なかった。やはり寝ていないのが駄目だったようだ。いや元気いっぱいだったとしても同じ反応をしただろう。


「初めまして…レイン・エタニア……私はみんなが魔神と呼ぶ存在だ。とりあえず名前も魔神さんって事にしよう!そしておめでとう!君は継承の儀式に私が組み込んだ裏の試練をクリアしたのさ!」


「………………そうか」


 とりあえずレインは返事をする。状況が本当に分からない時ってこんな感じの返事しか出来ない。


「あ、あれ?……私の予想を超えるあっさりした反応だね。肝が据わってるって事なのかな?今なら少し時間もあるし……疑問があるなら答えられるだけ答えるけど?」


「…………うーん」


 レインは腕を組んで考え込む。とりあえず疑問は大量にある。ただそれが一気に押し寄せたせいでこんな感じになっているだけだ。


「え?嘘でしょ?ど、どうしようか?」


 黒い少女改め魔神さんは勝手に焦り始める。


「あー……じゃあ……」


「お!何でも聞いてくれたまえー?」


「継承の儀式って何ですか?」


 さっき魔神が言っていた事だ。そんな儀式を始めた覚えはない。聞いた事もない。


「それは答えられない」


 魔神さんは即答する。


「はい?」


 ふざけてるのかと少しイラッとした。何でも聞けと言うから聞いたのに答えられないと即答するのはどうなんだろうか。


「と言うのは冗談さ!……まあ最初に言っちゃおうかな。…………では行こうか」


 魔神の雰囲気が変わった。口調とヘラヘラした表情を変えただけだ。それだけなのに空気が振動しているような気さえする。アルティと初めて対面した時と同じ衝撃、心臓を鷲掴みにされたように呼吸が苦しくなる。


「君は今さっき皇帝を殺したと思うけど、それが記念すべき1万人目だったんだ。まあ正確には10,004人目だけど、皇帝殺した時にした方がキリがいいよね?

 あー……傀儡に殺させたではなく自分の手で奪った命が1万に達したって事ね。その結果を称え、私から4つの褒美を与えよう」


 魔神さんはニコニコと笑いながらレインを指差す。そしてそのまま近付いて来る。


「…………どうも」


「反応薄いよー」


 魔神さんはそのまま人差し指でレインの頬をグリグリしてくる。痛い。割と痛い。


「お前……ふざけてないで……」


「ふざけてないよー」


 レインは魔神の腕を掴んで退かそうとする。しかしここで驚愕する。全く動かない。本気で掴み、全力で離そうとするが腕の位置が全く変わらない。アルティにだって全く敵わないとはいえ抵抗くらいは出来る。なのにこの魔神には全く抵抗できない。


「何だ……この力……」


「そりゃ私は魔神さんだからね。いくら君が人の力を超えた存在だとしても私は神と魔王を超える存在だからね。抗おうとする事すら無意味だね」


 もう抵抗するのも無駄だと理解したレインは諦めた。


「……で、その報酬って何?」


 とりあえず話を進めないとこの指を離してくれなさそうだ。すごいヒリヒリして来ている。なんで痛覚があるのだろうか。


「じゃあ行こう。1つ目は『答え』だ。君は今、アルス……ああ、今はアルティと名乗っていたね。彼女によって魔王継承の儀式を受けているんだ。なんか黒い箱とか出てきただろ?」


 アルス?魔王継承?初めて聞くものが並ぶ。そう言えばあのダンジョンからアルティは一言も話していない。魔神が出てきた事と関係があるのだろうか。


 でもここで追加の質問として聞くとまた話が逸れそうだ。一旦聞き流す。


「黒い箱?……あー出てきた」


「あの子は……アルティは私が創造した中でも最高傑作だからね。有り余る時間とやる気と根性の全てを掛けて創り上げたんだ。他の魔王たちは所々適当なところもあるけどあの子は完璧な存在だ」


「…………へ、へえ」


 魔神はアルティについて力説する。要は物凄く強いという事だろう。そんなの嫌というほど知っている。何であんな感じの性格にしたのだろうか。


「そしてあの子は頭もいい。人間なんかを魔王にするなんて普通はできない。人間なんてもんは魔王の強い魔力に身体も精神も耐えられないからね。でも君という特異体質の化け物みたいなのが出てきた」


「言い方。…………でも最初にアルティが俺には適性があるって言ってたな。あれってどういう意味なんだろ」


「そりゃ君は『エタニアの民』だし、現在いるエタニアの中でも1番か2番目かの特異体質だからね。そんな常識的な事を今更言っても仕方ない!

 で、あの子は継承の儀式を3つに分けて、段階的にクリアさせる事で全ての強さを魔王級に引き上げる方法を取ったんだ。

 で、君はその内の2つをクリアしたんだけど、残りの1つはなかなか分からないと思う。継承の儀式の答えをアルティは教えられないから大変なんだよねぇ。

 今は……少し前に色々無理して疲れちゃって寝ているから私が出て来られたんだけどね。ここまで来たってのに……あの子ももどかしい思いをしてるだろうね」


「…………待ってくれ」


「どうしたの?」


 得意気に力説する魔神にレインは割って入る。アルティが話さないのは寝ているだけという単純な理由だった。が、今後の話の内容の全てがどうでも良くなるくらいの事を魔神は言った。


「エタニアの民って……何?初めて聞いたぞ」


「お?!えー…あー……知らないのか……やべ……レイン…〈今の言葉は忘れろ〉」


 魔神はレインの頭に手を翳して魔力を放つ。レインには何をされていたのかすら分からなかった。


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る