第197話







「ぎゃああああッ!!!!」


 その将校は椅子から転げ落ちて暴れ回る。失った計8本の指を探しながら床をのたうち回る。


「貴様!何をしている!こちらが提示した条件の何が不満なんだ!」


 今度は別の将校が立ち上がる。威勢がいい事は良いことだ。恐怖で心が壊れて何も話さず、反応しなくなったら拷問の効果がなくなってしまう。それじゃつまらない。

 

「皇帝とその家族の居場所を言え」


「我々もそれは知らん!知らない事をどうやって言えばいいのだ?」


「鬼兵……全員を取り押さえろ……ああ、そこの兵士はまだギリギリ生きてるな。あとそこのうるさい奴も一緒に殺しとけ」


 部屋に入ってきた8体の鬼兵がそれぞれの将校を取り押さえる。覚醒者でない将校たちは鬼兵の前に成す術なく組み伏せられる。

 そのついでに最初に弾き飛ばれた兵士と指を失った将校の頭を鬼兵が踏み潰した。


「おいおい……その殺し方だと汚れるだろうが……。次からは首を折れ。それが1番綺麗だ」


 ヴァルゼルの指示に鬼兵たちは無言で頷く。そして将校の腕を捻り上げ、首を掴んで机に突っ伏させる。


「じゃあ聞くが……皇帝とその家族の居場所を言え。言えば解放する、言わないならそこで転がってる奴らと肩を組んであの世行きだ。黙るのと知らないっていう言葉は禁止だ」


 ヴァルゼルは肩に担いでいた大剣を床に突き刺す。そして頭を失った兵士が身につけていた小さなナイフを奪う。


「…………わ、私は何も知らん!」


「だからそれ禁止だって。歳いってんだから理解しろよ」


 ヴァルゼルはその将校の人差し指の爪と肉の間にナイフを思い切り差し込んだ。ナイフは爪と肉を裂いて第二関節の所まで一気に進む。


「う……うわぁ……うわぁぁぁぁッ!!!!」


「うるせえな……これ以上知らないって言うならお前から殺すぞ?」

 

「ほ、本当に知らないんだ!金ならいくらでも払う!た、助けてくれ!」


「知らないなら死ね」


「ま、待って……」 


 ヴァルゼルの拳がその将校の顔面をとらえた。グチャリと嫌な音を立てて将校の頭は大きく歪んだ。そして力無く椅子ごと後ろへ倒れた。


「……汚ねぇ…首折れば良かった……じゃあ次」


 ヴァルゼルが言うと別の鬼兵が将校を立たせてヴァルゼルの横に座らせた。


「お前らが1番詳しそうだから聞いてるんだ。知ってる奴が出てくるまで村だろうが、街だろうが、帝都だろうが蹂躙する。お前らに民を想う心があるならさっさと吐け」


「し、知らないんだ!私はここの指揮を゛ッッ!!!」


 ヴァルゼルの裏拳がその将校の顎を砕く。そしてヴァルゼルは手を払って鬼兵に指示を出す。まだ何とか生きていた将校は壁に叩きつけられた後、原形が無くなるまで殴られた。今のところ首を折られて死んだ将校はいない。


「はぁー……お前ら言葉は分かるか?何も話さない、知らないと言えばこうなるんだ。なのに何故全員が口を揃えて知らない知らないって……」


 ヴァルゼルは呆れ返る。少しでも有益な情報を届けないといけないのに司令官ですら役に立たない。

 

「こ、皇帝の居場所を知っているのは一部の近衛騎士だけなのだ!我々はこの戦場の指揮を任されているだけに過ぎない!

 ここを指揮するように伝えにきた者も皇帝からの手紙をただ渡しに来た兵士だった!皇帝の居場所は厳重に!巧妙に!隠されている!我々にはどうする事もできん!」


「……んだよ、それを先に言えっての。……お前らもう殺していいぞー」


「な?!待ってくれ!私たちはッ――」


 鬼兵たちは命令を受けると将校たちを掴んでいた手に全力の力を込めた。残っていた将校の首はへし折れおかしな方向へ曲がる。死んだ事を確認した鬼兵たちは、もう興味がないと言わんばかりに壁の方へ亡骸を放り投げた。


「大将クラスなら知ってると思ったんだがなぁ。どいつもこいつも役に立たん。……とりあえず敵の指揮系統はこれで壊滅。旦那が前線指揮所も吹っ飛ばしていたからあとは掃除だけだな」


 ヴァルゼルは近くの壁を殴って破壊して外へ出る。それに鬼兵たちも続く。


「さて……この後の命令は……この辺の覚醒者は殺したし、司令官も殺した。あとは……逃げる奴から殺せだったな。外堀埋めていくか」


 ヴァルゼルは鬼兵たちを並べて後方へ続く道に陣取った。撤退しようと逃げて来た敵はヴァルゼルを倒さなければ逃げられない状況になった。



◇◇◇



「…………ぐあぁ…」


 兵士は最期の声を絞り出して生き絶えた。レインはその兵士の背中に刺さった剣を勢いよく引き抜く。赤黒い血が平原を染めていく。


「ここら辺も全滅したな。まだ奥の方でやってるな。まあそのうち向こうも全滅するだろ。…………次はあそこか」


 次の目的地を決めてレインは姿を消す。普通の兵士では反応すら出来ない速度で戦場を突き進む。移動中にすれ違う敵兵士は全て斬り伏せた。


 レインが目指す先は平原の端、森林地帯が広がる場所の近くだ。森に入られると流石に探すのが面倒だ。逃げ込まれる前に殺してしまいたい……そう思っていた矢先の事だった。


 4人くらいの敵兵士が森の方へと走っていくのが見えた。数百メートル以上離れているがレインには見える。


「指揮する奴はほぼ死んだからな。独断で逃げるつもりなんだろ。……ただ絶対に逃さない。お前らがいつか俺の大切な人たちを襲うかもしれないからな」


 誰に言うでもない独り言を呟いてレインは跳躍する。背後から追いかけるより前方に着地した方が効率よく殺せる。


 4人の兵士は脇目も振らずに真っ直ぐ森へ向かって走っている。レインはそのちょうど真上にいる。

 レインは足元に盾を召喚して、それを強く蹴る。一気に地上へと近付き先頭を走っていた兵士を右肩から左脇腹にかけて両断した。そしてその兵士の亡骸の上にレインは立った。


「レ、レイン……エタニア……」


 兵士の1人が呟く。何故ここに居るのか?と言いたげな表情をしている。


「誰1人として生かして帰さん。抵抗しないなら楽に殺してやる」


 レインは剣を残りの3人へ向ける。普通の兵士の力ではレインに傷をつけるどころか剣を抜く前に斬り殺される。


「……うわぁぁ!!」


 兵士の1人が剣を抜きながらレインへと駆ける。一拍置いてレインはその兵士の頭を斬り飛ばす。


「あああああッ!!!」


 その兵士の横から別の兵士が飛び出した。先に飛び出した兵士の影に隠れてレインに近付こうとする。レインはその兵士に回し蹴りを放つ。


 その兵士は何も出来ずに吹き飛び、地面を何回か跳ねたあと、少し離れた場所にあった岩に激突した。その衝撃で兵士と岩は粉々になった。


「…………さて」


 残る兵士は1人だが、レインは別の方を見る。傀儡たちが何体か破壊された。まだ中央にはAランク覚醒者が何人か残っているようだ。騎士や普通の海魔だと連携するAランク覚醒者にはまだ勝てない。ただ疲れず、死なず、恐れない傀儡を相手にどれだけ保つか見てみたい。


「お前……何でこんなことをするんだ!」


 残った兵士の1人がレインに向かって叫んだ。


「俺たちはお前に何もしてないだろ!何で……何でそんな簡単に人が殺せるんだ!」


「…………………………」


 レインは答えない。

 

 「………お前が今踏んでいる奴はこの前子供が産まれたばかりだ!……お前が蹴飛ばした奴も結婚を控えてた!………俺も…家に彼女を……」


「………………………………」


 レインは兵士の叫びに何も答えない。


「なあ?頼むよ!俺だけでもいい!見逃してくれ!2度とお前の前に姿を現さないと誓う!セダリオンからも出て別の国に行く!だから……だから……俺をこのまッ」


 兵士は途中で話すのをやめた。自分の身体に起きた異変を確認する為だ。レインは前に立っている。今は戦場の中央辺りを見ている。ならこの自分の腹を貫通した剣は何だ?



 

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