第195話
騎馬兵を先頭にした兵士たち数百人が突撃を開始する。それに続くように数千人も声をあげて動き出す。
さらに平原の奥の方からは火の球が上空へ向かって発射されていた。それはレインの方へと向かってくる。
騎馬兵がレインの元へと到達しようとした時、それに合わせるように帝国軍の覚醒者が放った
「……弾けろ」
レインが呟き、ドンッ!――という爆発音が何度も何度もレインの周囲で起こる。それを見た帝国軍の騎兵たちは槍を前に構えて突撃した。舞い上がる土煙の先にいるであろうレインに向けて槍を突き立てる。
「神覚者!覚悟ぉぉ……ゴボッ……」
槍を向けた先にレインはいなかった。その代わりに剣だけが1列に並び、宙に浮いて騎馬兵たちを待っていた。
当然すぐに停まれるはずのない騎馬兵たちの首は空高く飛んでいき、血飛沫を上げる集団がレインがいた場所の後方へと駆けて行った。
レインはただ少し飛んだだけだ。複数の剣を召喚し、〈支配〉によって空中に固定、あとは兵士たちが無様に突っ込んできて自滅する。ただそれだけだ。
「怯むな!!行けー!!!」
何が起きたのかいまいち理解できなかった兵士たちは勢い変わらず突撃する。流石にこの数の兵士を一気に相手にするのは面倒だと感じたレインはすぐに使う。温存の必要性は皆無だ。最初から全力で敵を殲滅する。
「傀儡召喚…………番犬も含めて全部だ。全部出てきて敵を殺せ。剣豪は俺の近くの兵士を殺していけ」
突撃する兵士たちを地面から斬り上げるようにして傀儡たちが姿を現す。地面に着地したレインを中心に扇状に広がって展開される。そして近くにいた兵士たちを一斉に斬り捨て、踏み潰し、噛み砕いた。
それを確認した中央に陣取る帝国軍の将校がさらに合図を送る。
「来たぞ!不死の軍団だ!右翼!左翼!そして覚醒者部隊も突撃開始!不死の軍団が再生できなくなるまで殺し続けよ!!」
指揮官は装飾だけ無駄に豪華な光り輝く剣を空高く掲げて前へと振る。それが突撃の合図だ。
「「「「うおおおおお!!!」」」」
さらに数万単位の兵士と数百人の覚醒者たちが突撃を開始する。先頭集団は既に傀儡と戦闘状態に入っているが、勝ち目はない。先頭集団は剣の腕もない捨て駒という役割だ。あくまでレインに傀儡を召喚させる為の捨て石だ。
そしてここからが帝国軍正規兵の出陣となる。セダリオン帝国軍はレインの力を調べていた。
あの不死の軍団には再生出来る回数と同時に展開できる数に限りがある。そして多くの数を召喚し過ぎると各個体が弱体化するという調査結果を受けていた。
そうでなければハイレンの『決闘』決勝戦の時に場内をあの軍団で埋め尽くさなかった理由の説明が出来ない。制限なく召喚できるなら少数精鋭と呼べるような100体程度の駒だけで戦うはずがない。
場内全てを駒で埋め尽くせば、いくら魔道の神覚者といえ対応できずもっと簡単に倒せたはず。片腕を失ってまで接近戦に固執する必要はなかった。
故に不死の軍団には数を揃えると弱体化するという弱点があると考えた。だからこそここに総兵力の6割を配置していた。駒を数多く展開すれば覚醒者が倒せるし、少数精鋭で召喚すれば何処かが突破できる。
いくら神覚者といえど全方向から常に迫る数百人の兵士を相手に戦えるはずがない。セダリオン帝国軍はこういった作戦を立案していた。数万人の死者を想定した最低最悪の突撃作戦だった。
そう予想した帝国軍は致命的なミスを犯している。それはレインが帝国軍の予想を遥かに上回るほど、その辺をちゃんと考えていないという事だ。
沢山召喚しないのは邪魔なだけだし、自分が必死で戦っていたのは成長する見込みがあるのは肉体だけだからだった。傀儡は数こそ増えるが、各個体が成長する事はないし、レインの頭脳も成長することはない。本人が諦めている。
それを帝国軍はスキルによる制限のせいでレイン本人が戦っていると誤認した。それを信じて突っ込んでいく兵士たちの結果は明らかだった。
「…………何だ……あれ?」
突撃していった兵士たちの速度は全速力から徐々に徒歩に変わる。それは先陣を切った捨て駒たちの死に方を見たからだ。死ぬはいい、分かっていた事だから。
ただなんで遥か上空に数十人のバラバラになった死体が飛び上がっているのか分からなかった。正確には理解したくなかった。
「何だよ!あれは!!」
重装甲の鎧を着用し、大木のような大剣を振り上げる巨人が10体近く前線で暴れ回っている。その足元では黒い集団が蠢いている。
捨て駒だろうと正規兵であろうと関係ない。レインの傀儡、その中でも兵士長クラスにとって普通の兵士はそこまで差がない。レベル1とレベル2の違いはレベル100に相当する巨人兵には分からない。
大剣が振り下ろされる。ズドンッ!――と平原が十数メートルにわたって両断される。生き残っていた捨て駒も突撃していた正規兵もまとめて挽肉になった。
「ま、魔法攻撃をあの巨人に集中させろ!!不死の軍団と正面からやり合うな!レイン・エタニアを左右から挟撃せよ!急ッ」
スドォォンッ!!――その煌びやかな剣を振り回して兵士を動かす将校が立っていた場所から突然巨大な黒い龍が出現した。その将校と周辺にいた数十人は龍の腹の中に入る事となった。
傀儡の精鋭である水龍は翼を持たないから空を飛ぶ事はできない。地面を蛇のように這う事でしか移動出来ないが、相手が人間であればそれで充分だった。
上体を起こして地面に叩きつければ数百人が肉塊になった。巨大な尻尾を振れば衝撃と風で兵士だった者たちは数百メートル先まで吹き飛ばされる。地面に着く頃にはバラバラだ。大地を這う水龍に近付けば龍の鱗と地面の間ですり潰される。
黒い龍の出現により前線の指揮所は完全に壊滅した。そして指揮伝達が麻痺する事によりさらに混乱が生じた。が、傀儡たちはそんな事など関係なく全てを叩き潰していった。
「……ヴァルゼル」
「何なりとご命令を」
ヴァルゼルはレインの前に膝をつく。いつもの調子良さげな態度は見えない。
今のレインに冗談が通じる事はない。あの時のレインの本気の怒りに恐怖したヴァルゼルが出来る事は、ただ伏して命令を遂行し、ただ伏して主人の敵を斬り倒すのみ。
「鬼兵を14、5体くらい付けてやる。後ろの方からポンポン撃ってくる鬱陶しい覚醒者たちを殲滅して来い。終わったらそのまま敵の大将を拷問して皇帝の場所とか重要そうな事を聞き出してから殺してこい。司令部的なのとかあんだろ。それ潰したらあとは逃げる奴を優先的に殺していけ」
「承知しました」
レインの命令が終わる頃にヴァルゼルの後ろには鬼兵が15体膝をついて待機していた。命令を受けたヴァルゼルは立ち上がり鬼兵たちを率いて平原の奥の方へと駆けて行った。
「…………俺も行くか。1人も生かして返さんぞ」
レインが両手に剣を召喚する。そして脚に力を込めて傀儡たちが暴れる前線へと向かった。
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