第186話





◇◇◇


「あれが王都か。もう始まってるな」


 レインとアイラは王都のすぐ近くまで接近していた。目立たないように巨人兵の召喚は解除している。


 王都の正門らしき場所ではヴァルゼルたちが戦闘を開始していた。しかし苦戦しているようだ。


 やはり王都には帝国軍の精鋭と呼ばれる者たちがいた。ヴァルゼルの攻撃はまともに当たれば即死だ。だから一撃離脱を繰り返している。


 さらに堅牢な城壁の上から魔法攻撃による援護も相まってヴァルゼルの反撃を防いでいる。ヴァルゼルでそうなのだから鬼兵たちは何度も破壊されている。その都度復活するし、鬼兵程度であれば何万回復活させてもそこまで消耗しない。魔力が減る量より回復量の方が多いくらいだ。


「私たちの王都を……我が物顔で……許せない」


 アイラは茂みから飛び出そうとする。それをレインは制止する。


「ちょっと待って!……武器もないのに飛び出そうとしないで下さい。覚醒者ですよね?スキルは何が使えますか?」


「…………身体強化が使えます。あとは炎の攻撃魔法が申し訳程度に使えます」


「なら剣ですね。とりあえずこれを……」


 レインは刀剣を取り出してアイラに渡す。レインもよく使う剣だが、これくらいしかない。貸して無くなった分は別の武器を使う。


「……収納スキルまで。本当に何でも出来るんですね」


「まあそれしか出来ませんけどね。じゃあこれから王都を奪還します。確認ですが、王都の出入り口は何ヶ所ありますか?」


「……正門クラスの大きさはあそことちょうど反対側の2ヶ所です。あと一度に多くの人数は通れませんが、通用門が1ヶ所あります」


 "…………通用門?小さい出入り口みたいなもんか?知らないけど多分そうだろう"


「今から追加で100体くらい召喚します。あともうすぐ別の奴らも合流するので200体くらい来ます。全てCランク覚醒者以上の強さがあります。王都内の帝国兵も撃退出来ると思います。

 ただ問題もあります。とりあえず計画……なんて言えるもんじゃないですが、2つあります。で、相談ですが……」


「はい……私如きの知恵で良ければいくらでも……」


「相談……というかアイラさんがどうしたいかなんです。まずは俺の傀儡を全てそこの正門に突入させます。あそこならほぼ時間も掛からず突破し、内部にも入れるでしょう。しかしそうなると反対側から逃げられます。

 もう一つは傀儡たちを分けて全ての出入り口を塞ぐ方法です。これであれば内部の帝国兵を全滅させる事が出来ます。……が、追い詰められた帝国兵がエルセナの国民を人質にする可能性があります」


「……もし人質が取られたとして……レイン様の傀儡はどう動くのですか?国民ごと斬るのですか?」


 アイラは問う。本当は帝国兵を皆殺しにしたい。でも国民を犠牲にする訳にはいかない。その2つの望みの間で揺れている。


「帝国兵以外を斬る事はないです。ただ巻き添えになる可能性は十分にあります。傀儡に複雑な命令は理解できません。殺せ、守れ……みたいなやつです。

 だから国民を守る傀儡と帝国兵を撃退する傀儡に分ける必要がありますが、そもそも国民は良いとして、王国兵と帝国兵の見分けが付くかどうか」


 "俺は付かない。だって装備似てるし"


「見分け……ですか?」


 アイラは不思議そうな顔をする。どうやらそんな事で普通悩むか?みたいな事だったらしい。


 "国の兵士の装備なんてどれも一緒じゃないの?……いやイグニスと似てるよ?自己紹介しながら戦ってほしいよ"

 

「……えーと、帝国兵の装備は緑のマントにセダリオンの国旗が描かれています。鎧や剣にも蛇が描かれた国旗が彫られています。我が国は赤と黒を基調にした装備です。イグニスも赤と白ですよね?」


「……………………そうだよ?」


 "そうだっけ?"


 レインはノスターが着ていた服を思い出す。……思い出せない。ついでに名前以外……顔も思い出せない。


「とにかく!傀儡には見分けが付かない可能性もある!だから王都の奪還を優先すべきだと思う!」


 とりあえず少し大きな声で誤魔化す。イグニスに戻ったら確認してみよう。


「……は、はい!……本当は……本当は帝国兵を……皆殺しにしたい。でもこれ以上…民や兵士を犠牲には出来ません。……どうかよろしくお願いします」


「了解しました。……傀儡、上位騎士、海魔召喚」


 レインたちの背後に傀儡が召喚される。と、同時に別方向から騎士王と番犬たちが飛び出して来た。巨人兵を攻撃した帝国兵を皆殺しにしたようだ。


 騎士王たちはそのままヴァルゼルの方へ向かっていく。


「お前らも行け。帝国兵は全て殺せ」


 レインの命令を受けた騎士たちは正門へ向けて駆けていく。これで帝国兵は300体近くの傀儡を相手にする事になった。


「じゃあ俺も行きます。アイラさんは……」


「無論ついていきます。これでも覚醒者です。戦えます!」


「……でも」


 レインは心配だった。レインが来てからは戦っていないが疲労は蓄積しているはずだ。万が一にでもアイラが殺されるような事はあってはならない。


「足手纏いにはなりません!駄目だと思ったらそこで切り捨ててもらって大丈夫です!自分の身は自分で守ります!もし私に何かあってら……レイン様が王国を治めて下さい!」


「………………はい」


 死んでもアイラを守らなければと思った瞬間だった。


 

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