第180話
「……ニーナさん?起きてください?」
「ふぇ?!……はい!おはようございます!!」
ニーナは目を覚ました。見た事ない顔してたから復活してくれて良かった。
レインはそのままの態勢でニーナを見ていた。ニーナは自分の頬に添えられたレインの手に自分の手を重ねようとした。がその前にレインの襟を誰かが掴んで引き離した。その手の正体はもちろんカトレアだ。
「レインさん?誰もそこまでやれとは言ってませんよ?」
笑っているが笑っていないカトレアがそこにいた。シャーロットもそうだったが、その顔本当に怖いからやめてほしい。
「…………ごめんなさい」
「この続きは家でしましょう。……こちらに来る足音が聞こえますね。かなり焦っているようです」
カトレアが扉の方を見る。レインにも聞こえていた。5人ほどの足音がバタバタとこちらへ向かって来る。そしてすぐ部屋がノックされる。コンコン――なんて音ではなくドンドン――と叩かれる。
「失礼します!」
そしてこちらの返事を聞く前に入ってきた。先頭を女性……いや女の子と呼べるような幼さが残る女性が歩いている。その後ろには薄汚れた鎧を着て疲弊した兵士が2人だ。明らかに疲れている。
「こちらへどうぞ。お2人は……ここに居てもいいですし、自由にして下さい」
カトレアとニーナは頷く。シャーロットは立ち上がりレインに目配せする。それを察したレインも立ち上がり、同じ部屋にあった別のソファに座る。
エルセナ側の王女レイナも足早にレインたちの向かい側のソファへ腰掛けた。シャーロットと同じ金色の長い髪を後ろで1つに結んでいる。王女とは思えない軽装の服で顔にも汚れが付いている。
「突然、来てしまい申し訳ありません。ただ緊急事態のためやむを得ず」
レイナは深く頭を下げた。それに合わせて後ろで並び立つ兵士も頭を下げる。
「構いませんよ?では要件をお伺いします」
「……はい、単刀直入に言います。傀儡の神覚者レイン・エタニア様にお会いしたいのです。……ご存知かもしれませんが……我が国は隣国であるセダリオン帝国による侵攻を受けております。
既に王都は陥落し……姉さ……姉を筆頭にした生き残りの兵士たちが最後の城塞都市で抵抗している状態です」
「そうですか。……では我が国の神覚者に会って何を依頼するのですか?」
シャーロットは淡々と話す。これも交渉なのだろうか?というかその求めている人はここにいるが、名乗っては駄目なのか?
「……我が国に侵攻している帝国軍を撃退して欲しいのです。もう私たちだけでは帝国軍を退ける事ができません」
「そうですか。現在の状況はどうなっていますか?」
エルセナ王国レイナは必死に話す。なのにシャーロットは表情を変えず淡々と変わらない口調で話す。
「帝国軍はダンジョン
そしてあろう事かそのまま帝国軍を差し向けて来ました。必死に抵抗しましたが……4日と持たず王都は……陥落しました」
レイナは少しだけ俯く。悔しそうに下唇を噛んでいるのが分かる。
「…………そうですか。国王ローランド様はどうされたのですか?彼は国王としても指揮官としても優秀な御方だったはず。なぜレイナさんの姉君が抵抗を?」
「………………そ、それは」
レイナは言いづらそうに俯いた。もう少し優しくしてもいいんじゃないか?
「正直に話して下さい。貴方たちの要求はSランクダンジョンを攻略した功績を持つ神覚者を派遣してほしいというものです。こちらの質問には全て答えて下さい」
シャーロットは丁寧な口調を維持しつつも常に淡々としている。同情せず、譲歩もしない。レインが話すという話は何処かへ行ってしまった。
でも今の状況でレインが話した所で何も分からない。話を理解できない奴は黙っているのが混乱を防ぐいい手段だ。
"話す時が来れば話すさ"
「父上……いや国王は殺されました。母である王妃も……私たちの目の前で……殺されました。帝国軍は謁見の間に突撃し、その場にいた私たちを拘束しました。
そして……そのあと……母は皆が見ている前で服を剥ぎ取られ数十人の帝国兵の……慰み者になりました。事が終わると……帝国兵は母を……お母さんを…棒でめった打ちにして民衆が集められた王城前の……広場に向かって投げ捨てました」
「………………………………」
その言葉にその場の全員が口を閉ざす。何も言えない。何を言えばいいのか分からない。
「父上は……母がそうなった後に……即席で作られた斬首台に乗せられました。手足を縛られて……紐を咥えさせられました。その紐を離すと……刃が落ちて首が落ちるようになっていました。
帝国兵は言いました。刃が落ちれば私たち姉妹をその場で殺すと。父上は耐え続けました。そんな父上を見て暇を持て余した……帝国兵は父上の脚を焼きました。
最期は涙を流して……私たちの方を見て……紐を……口から離しました」
「………………そうでしたか」
シャーロットもそれしか言えない。
「私たちも殺されると思いました。でも帝国兵が言ったんです。私たちは帝国軍全員の慰み者になり……全員が飽きたら殺してやるって……。
別の部屋に連れていかれそうになった時、両手を縛られていた宰相さんや謁見の間を守護していた兵士たちが立ち上がり帝国兵に体当たりしました。同時に暖炉の裏にあった隠し通路から兵士が数人飛び出してきて私たちだけを……逃がしてくれました。
姉は……Cランク覚醒者だったので……最後の都市に残って今も戦っています。……だから私もみんなを助けるために」
レイナは涙を流す。悔しさからか、噛んでいた下唇からは血が流れている。これは聞いてはいけないことを聞いてしまったのでないか?ただ殺されてしまったで良かったと思う。どうやって殺されたのかまで言わせる必要はなかった。
「……………………」
シャーロットは何も言えなくなってしまった。今、目の前に座る少女が嘘をついているようには見えない。嘘をついている者がする表情ではない。
レインはこれ以上黙っていることは出来ない。目の前で家族が惨殺された。唯一の家族も今まさに戦っている。いつ死ぬか分からない状況でもこうやって話してくれた。
「シャーロットさん……もう大丈夫です」
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