第179話
そう言いながらカトレアはレインの頬にキスをした。レインは少し眉を顰めて顔を逸らそうとするだけで抵抗する事なく受け入れた。あのダンジョンで何回もされたせいで慣れた。
「「なあああああ!!!!!」」
2人は絶叫する。今、目の前で起きた事に自分の目を疑った。
「ふふん……見ての通り私とレインさんはお付き合いしております。つまり正妻の座は私の物です。貴方たちは第2夫人の座でも争っていればいいのですわ!おーほっほっほ!」
カトレアは渾身のドヤ顔を2人に見せつける。そして自分でも忘れていたお嬢様という感じを前面に押し出したような笑い方をする。
「…………カトレア」
前に座る女性2人に勝ち誇って高笑いしていたカトレアにレインが話しかける。
「はい!何でしょう!あ、な、た!」
「…………うるさい、揺らすな、読めないだろうが」
レインと腕を組んでいたカトレアがレインを左右に揺らしていた。最初は我慢していたが、こうした場だし仕事の依頼みたいなものだ。神覚者になって依頼される側になったが、それだけで横柄な態度は良くない。
「…………すいません」
カトレアは意外にも素直に謝った。でも手を握るのはやめない。読んでいる紙がペラペラするから両手で持ちたいが……今手を離すと泣きそうだからそこまではしない。
「レ、レインさん?」
シャーロットが声をかける。
「何でしょう?」
レインは資料から視線を外しシャーロットに目を向ける。シャーロットの視線がレインに突き刺さる。
「……ほ、ほほ、本当にお付き合いを?」
「え?……まあ…はい、すごい好き好き言ってくれましたから。……エリスの事も落ち着いて来たので自分の事も考えていかないとなぁってなりまして」
「……そうですか。あの……まさか結婚もこのまま?」
シャーロットが続ける。
「はい!」
「そこまでは…………いや勝手に決めるな」
「……というかニーナさんは大丈夫ですか?さっきから遠くを見ていますけど」
レインの言葉にシャーロットが反応する。シャーロットはニーナの顔を覗き込み、顔の前で手をヒラヒラと振る。
「…………これはお亡くなりになってますね。復活にはかなりの時間がかかりそうです」
「そうですか……お大事にと伝えてください。で、この仕事の件ですが」
もう何がしたいのか分からないニーナに構っていられない。レインがシャーロットに仕事を受けるという返事をしようとした時だった。
突然部屋の扉が、バンッ――と勢いよく開き、兵士が慌てた様子で駆け込んできた。今ここには王女と神覚者、それも超越者と呼ばれる覚醒者が2人、死んでいるがSランク覚醒者の4人がいる。
ふざけた会話もしていたが、戦争や仕事の話でもあった。そんな場に一介の兵士が飛び込んでくる。これは相当な問題が起きたとこの場の3人が察知した。
「ご、ご報告申し上げます。今ここにエルセナ王国第2王女レイナ・ルカイ・エルセナ様が来ております。至急シャーロット様と……神覚者レイン、エタニア様にお会いしたいとの事です」
「……来ましたか。分かりました。この部屋にお連れして下さい。護衛の方がいるのであれば2人まで同行を許しましょう」
「ハッ!」
シャーロットの命を受けて兵士は走って行った。タイミングよく来たとレインは思ったが、シャーロットやカトレアは少し怪訝そうな顔をする。
「なぜ第2王女なのでしょうか。王国の第2王女はまだ10代後半になったばかりだったはず。援軍の要請には幼すぎます。第1王女か、王国の宰相クラスが来ると思っていましたが……」
「普通は違うんですか?」
王女なんだから相応の地位の人だろう。何で駄目なのかレインには理解できなかった。
「レインさん、同盟でない他国への援軍要請というのはその国家の最後の手段です。何故かと言いますと、援軍を要請する国は要請を受ける国に対して立場が完全に劣っている状態となります。もはや交渉の余地などないレベルです。
ただ援軍を派遣してもらった後も国を存続させねばなりません。なので国家の中でもある程度の裁量権を持つ者や交渉を可能にする者を派遣するのが普通なのです」
「……なるほど、ここに来た王女様は若すぎるってこと?」
カトレアは頷く。
「そうです。例えばイグニスから援軍を派遣した見返りとしてエルセナ全土を併合するという無茶な条件をこちらが出したとします。普通なら交渉は決裂します。
しかし万が一エルセナ王国第2王女レイナ様が今の状況だけを解決したいと契約に王印やサインなどをしてしまうと国家間の約束となり、反故にすれば戦争となります。このレベルの交渉にレイナ様はあまりにも不向きです」
「……そうか、とりあえず俺とシャーロットさんが話しましょう。こちらからは何も要求しないで下さい。どうせ行くのは俺なんです。報酬も俺が決める……でいいですか?」
レインの言葉にシャーロットは少しだけ考える。他国の戦争に自国の神覚者を派遣する。もし解決に導けたなら、これから先、圧倒的に有利な立場でその国に対して接する事が出来る。
だがレインは報酬を受け取らない、仕事を断らない神覚者となりつつある。それが自国の民に対してであれば何の問題もない。ただ他国の戦争に派遣されているのにも関わらず報酬を受け取らないというのは駄目だ。
心優しき神覚者を利用しようとする輩は数え切れない。今は知られていないだけだ。
「……分かりました。ただ報酬に関しては私も考えます。なので向こうが提示してきた報酬にはすぐに返答しないで下さい」
「……分かりました。あと……えー、そこの死んでいる人はどうしたらいいですか?流石に瞬き一つしない遠くを見つめる人は怖すぎるんですが……」
レインはニーナを見る。そのあと他の2人もニーナを見る。そしてカトレアがため息を吐いてレインの方を見る。
「本当は嫌なんですよ?でもこのままにしておくのも良くありません。なのでレインさん……ニーナさんの手を握って話しかけてあげて下さい。そうすれば起きるでしょう」
「…………え?」
「早く!」
「はい!」
なぜか怒ってるカトレアに急かされてレインはニーナの前まで行く。そして片手で手を握り、もう片方の手をニーナの頬に添えた。カトレアにやられてたからその真似をする。
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