第171話
「…………ふぇ?」
「………………もう寝るぞ!もうしないからな!」
「………………………………」
レインは寝転んで目を閉じた……がカトレアがピクリとも動かない。完全に固まって動かなくなった。ずっと壁の方を見ている。
それを細目を開けて確認したレインはもう一度起き上がってカトレアの顔を覗き込む。
「………………カトレア?」
「カッ……」
そんな人間の何処から出たのか分からない空気が抜ける音を発してカトレアは後ろに倒れた。後ろといってもそこには枕しかないからただ横になっただけだ。
カトレアは完全に気絶していた。息をしているから大丈夫だとは思う。ここに来る前、屋敷で軽くハグをしたら鼻血を出していた。そして額に軽くキスしたら気絶してしまった。
「………………やっぱり恥ずかしい。で、明日が怖いな。…………俺も寝よ」
こうして気絶したカトレアを背にしてレインも目を閉じた。
◇◇◇
「レイン様……もう、もう私……」
「んん…………何?」
窓から差し込む陽の光と謎の声に起こされる。かなり早く寝たつもりだったが一瞬で朝になってしまった。毎日快眠で自分でも凄いと思う。
「私……死んじゃいます」
「え?!なんで?!」
レインがガバッと起き上がるとカトレアも付いてきた。アメリアの時と同じ、いやそれ以上にしっかり抱きしめていた。自分の悪い癖なのか近くの物を誰彼構わず抱きしめる癖でもあるみたいだ。
これまで1人で寝ていたし、エリスの時は意図的にこうしていた。その時にこの癖が付いたか。
「うおおお!!ごめん!」
レインはカトレアを離す。カトレアは力なくベッドの上に崩れ落ちる。身体を震わせて俯き、口を手で押さえている。
"ヤバい……俺に好意を持ってくれてるとはいえ昨日は気絶してたし今はこうなってる……どうしよう"
「カトレア……大丈夫か?」
レインはカトレアの肩に触れる。カトレアはそれに身体をビクつかせて反応する。レインは慌てて手を離した。
「……カトレア」
「大丈夫です……ちょっと治癒魔法が追いつかないくらい嬉しさと興奮で……鼻血が……」
「そっちか……心配かけさせるなよ」
カトレアが顔を上げる。口というより鼻を押さえている事がそれでようやく分かった。鼻の周りが僅かに光っている。鼻血を止めるために治癒魔法を発動させていた。
とりあえずレインの心配した事にはなっていなかった。それに安堵した直後だった。
レインは勢いよくベッドから降りてある方向を見た。雰囲気が変わったことはカトレアにも察知できた。
「どうされましたか?」
「傀儡がやられた」
傀儡は夜通し活動していた為、既にレインよりもかなり離れた地点にいる。傀儡たちは遭遇したモンスターを全て殺害していた。最低でもCランク以上の強さを持つ傀儡の集団がやられたという事はそれ以上のモンスターがいるという証明になる。
しかし離れ過ぎているせいで正確な位置までは分からない。ダンジョンの中のせいで魔力の見え方もおかしい。
「外に出てくる。カトレアは落ち着いたら来てくれ」
レインは急いで着替える。カトレアがいるとかそんなのはもう気にしない。元々見られたくなかった訳じゃない。
「か、かしこまりました」
レインは外に飛び出してその方向を見る。そこには森が広がるばかりでよく分からない。傀儡はやられたが、すぐに復活しているはず。そしてその後は特に何も起きていない。
「…………たまたまか?……いや一応追加で送ろうか」
といっても残りは巨人兵と水龍くらいで数を用意できるのは番犬くらいだ。
「いないよりは……マシだよな?先行してる他の傀儡の援護をしろ。行け」
レインは追加で番犬を100体召喚する。そして傀儡がやられた方向へ向けて扇状に展開しながら向かわせる。番犬はかなりの速度で散って行った。
「本当は俺が行った方がいいんだろうけど……遠いしなんか嫌だな。虫とか多そうだし。全部焼き払っていいならそうするけど……それはそれで……なんか申し訳なくなる」
レインはこんなだだっ広いダンジョンを駆け回るのは嫌だった。走ってる時に顔に虫とか当たったらその日1日は動けなくなりそうだ。そんな時後ろから近付く気配があった。
「問題は解決できそうですか?あなた」
落ち着いたカトレアがレインの腕に自分の身体を密着させ指を絡ませた。もう抵抗するのも疲れたレインは気にしなくなってきた。これら全てがカトレアの計画通りなんじゃないかと思うと完全に乗せられている気がする。
「あなたって何?すごいゾワってするからやめてくれる?」
「そうですか。……ではレインさんとお呼びしてもいいですか?もう普通の関係ではありませんし……いつまでも様という敬称は他人行儀な感じもしますしね」
「まあ別に良いけど。それで?今日はどうするんだ?」
「特に何も予定はありません。昨日の最後にかなりの広範囲に探知魔法を展開しております。モンスターが接近すれば私が察知する魔法なのですが……全く反応がありません。
反応がなければ何処からモンスターが来るのかも分からず対処のしようがありません。
闇雲に探し回るのは愚策ですからね。とりあえずはここに留まるしかありません」
「でも向こうから来る感じもしないよな?気付いてないとか?」
「うーん」
カトレアはレインに引っ付いたまま考える。今更だが離れてほしい。ベタベタされる経験がないから分からなかったが、あまり好きじゃなかった。
「離れてくれない?」
「嫌です。特殊ダンジョンはほとんど出現しないので記録もそこまで多くある訳ではないんです。なので普通のダンジョンと並べていいのか……と言った形ですね。
向こうが気付いてないのであれば無差別に破壊魔法を連発するしかありませんが……それは極力したくないですね」
離れてくれというお願いを即答で拒否されてしまった。その衝撃でその後の話が全然頭に入ってこなかった。
「分かったから離れてくれない?」
「嫌ですね。そのレインさん…………うふふ!なんか良いですねぇ……レインさんが召喚した駒に何かあるまでは待機しておくのが良いでしょう。さ!部屋に入ってイチャイチャしましょう!」
そう言ってカトレアはレインの腕をグイグイと引っ張る。レインは思った、早く終わらせないと自分の身も危なくなると。
「巨人兵……全部出てこい。家は踏むなよ」
レインの声に呼応するように10体の巨人が少し距離をあけて出現する。そしてレインはすぐに命令を出す。
「お前たちも他の傀儡と同じように全方位に拡散。俺たちから十分離れたら大袈裟に暴れながら前に進め。モンスターは全部殺していい。行け」
レインの言葉を受けて巨人たちは各々の方向へ歩き出す。こんなデカいのが暴れ回れば流石にこのダンジョンのボスも気付くはず。気付いてくれないと困る。
「前より巨人が増えましたね。これもSランクダンジョンで獲得したのですか?……というかレインさん……ふふふ…やっぱり良いですわぁ。レインさんのスキルって召喚スキルというより倒したモンスターを使役する……みたいなものですか?」
「そうだよ」
別に隠していないから普通に答える。覚醒者にはスキルを聞くのは御法度という暗黙の了解があるが、別にレインは気にしない。こちらから自己紹介するかのように言いふらす必要はないが、聞かれれば返事くらいはする。
この間にもカトレアに引っ張られて部屋の方へと連れ込まれている。
「普通に教えてくださるのね」
「別に隠してないからね。装備外そう……これ本当に窮屈だな」
「それが装備ですからね。外すの手伝います。……何かお話でもしましょうか」
カトレアにベッドへ誘導される。椅子もないからこうするしかない。先は長くなりそうだ。
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