第169話







◇◇◇


「こんな感じ?」


「ありがとうございます」


 レインは周辺の木を伐採していく。伐採といっても剣で根本から切断しているだけだ。

 これをいい感じに組み立ててお風呂小屋を作るようだ。お湯はカトレアの水と炎の魔法で作れる。石鹸などもカトレアの小さな手提げ鞄に入っていた。

 この鞄は収納魔法が付与されていて見た目より多く物が入るようになっている。


 当然、レインのスキルには遠く及ばないし、鞄の入り口より大きい物も入らない。カトレアは急遽遠出する事になったり数日間、家に帰る事が出来ないという事が多々あるため常に持ち歩いてるそうだ。


「…………俺もなんかあるかな?……なんか服入ってた。カトレアが選んだのと違うやつだな」 


 レインは収納されている物を確認する。何が入っているかは意識を向けたらおおよそは理解できる。いつ入れたのか覚えていないがカトレアが選んだ服以外の衣服が複数入っていた。


 多分だが、少し前にアメリアと服を買いに行った事がある。あの時、言われるがままにたくさん買ったが、その後どこにやったか覚えてない。持つのが面倒で収納スキルにぶち込んだまま忘れてた可能性が有効だ。


 カトレアは黙々と木材を風魔法で加工し、強度を強化して、結合魔法というもので積み上げていく。設計図も頭の中で考えながら物凄い速さで家が造られていく。


 "これは……俺も何かしないといけないな。モンスターの気配も魔力も感じられない。魔力に関してはカトレアの魔力がデカすぎてよく分からない。とりあえず周囲に傀儡を放つか"


「……傀儡召喚」


 カトレアが作業する後ろでレインは傀儡を大量に召喚する。上位剣士50体、上位騎士30体、鬼兵100体、海魔、中級海魔合わせて300体、騎兵30体の合計500体以上の黒い傀儡だ。

 


「レイン様?何をなさっているのですか?」


 

「何って……ボスを探すんだよ。ボスを倒せば出られるんだろ?コイツらの居場所は常に分かるし、倒された場所にボスがいるって事だろ?ボスの場所さえ分かれば俺の最大戦力を送り込んで殲滅すれば……」


「そんな効率のいい事したらすぐにダンジョンが終わっちゃうじゃないですか!!」


「お前それが本音か……おい……」


 レインは片手でカトレアの頬を摘む。というか掴む。


「レ…レインしゃま……い、痛いでしゅ……」


「そう思うように掴んでるからな」


「でも……そんなところも…はぁはぁ……もっと」


「お前……マジか……」 


 レインは思わず手を離した。カトレアは頬をさすりながらニヤニヤしている。そんなカトレアにドン引きのレインは確信した。早くここを終わらせないといつかモンスターよりも厄介で凶悪な敵がすぐ横に出現することになると。


「……傀儡に命ずる。ここを中心に広がってモンスターのボスを探し出せ。道中に遭遇したモンスターは全て殺せ。行け!マジで頼むぞ!本当に!俺の為に本当に頑張ってくれよ!マジで!!」


 傀儡たちは全方向へ一斉に散っていった。

 

「…………なぜ自分が召喚した駒に懇願しているのですか?そんなに必死になって……また拗ねてもいいんですよ?」


「えぇ……それはやめてほしいな」


 こんな所じゃなければ何を言ってるんだ?で済ませる事もできた。ただここはレインにとっては未知のダンジョンであり、何があるか分からない。カトレアはそうした事にも精通しており行動を共にした方が絶対にいい。


 そんなカトレアが拗ねた時の面倒さは知り合いの魔王との修行中に嫌というほど経験した。


「冗談です。私だってレイン様を困らせたいわけじゃありませんから。ただお慕いする方と少しでも長く一緒にいたいという気持ち故です。少しでも理解していただければと思います」


 カトレアはレインの目を見ながら話す。その間も片手間で木材を組み立て続けている。


「そんな正面から言ってくるんだな。まあ考えとく。というか魔法って便利だな。戦闘くらいにしか使えないと思ってたよ」


「……まあ確かにそう言う方がほとんどですね。まあ私もそれには賛同します。ただ破壊だけが魔法ではありません。我々覚醒者は覚醒していない者をモンスターや他国から防衛する義務があります。破壊と殲滅を極める事は非常に理に適っている。

 ですが、破壊だけでは何も生みません。戦争で使う物ではありますが、それだけにしか使えないわけじゃない。

 例えば魔道具やポーションです。あれらも魔法によって作られます。敵を倒すだけではなく、守るべき者たちに幸福を届ける手段であってもいいと思っています。なかなか難しいですけどね」


「………………カトレア」


「はい」


「お前なんでそんな良い事言えるのに決闘の時はあんな感じだったんだよ。本当に損してるぞ?」


「…………あれから私も変わったという事です。やはり恋は人を変えるんですねぇ」


 カトレアはレインに顔を近付ける。そして近付きながら目を閉じた。


「…………いだだだ!」


 これが何を意味するのかはレインにも理解できる。そしてそれをするつもりなど毛頭ないレインはカトレアの頭を鷲掴みにして力をガンガンに込める。カトレアの勢いが止まった所を確認して突き放した。


「はぁー……こんな事をしないんだったらいい友人って感じなんだけどなぁ」


「わ、私は……友人止まりにはなりませんよ!絶対にお付き合いしてもらいます!」


「はぁー……なんか最近ため息が増えたな。今まで仄めかすみたいな素ぶりの人は何人かいたけどお前みたいに直球なのは初めてだな」


「だってレイン様はそうした駆け引きが苦手……というか出来ませんでしょう?」 


 そんな言い切らなくてもいいんじゃない?否定はしないけど。


「まあ……そうですね…はい」


「ならば駆け引きなど時間の無駄です。私たち人間の寿命は60〜70年ほどしかありません。私たちはすでにその約3割を消費しています。

 それに私たちの職務は常に危険が伴います。力を持つ者はより危険な地へ赴かねばなりません。なので私たちはあとどれだけ一緒にいられるか分からないんです。

 自分の臆病さや断られる恐怖を味わいたくないからと、思わせぶりな態度で気を引いたりするような事は、そういう事が得意な者同士が勝手にやればいい。それが苦手な人に無理強いする話ではありません」


「…………カトレア…お前、常にそのままでいてくれる?」


「はい、なので結婚しましょう」


 カトレアはレインを再度力強く見つめて話す。

 

「聞いてる?」


「はい、聞いた上で申し込んでいます。どうですか?」


 カトレアは変わらず新しい家を建て続けている。片手間でやる事じゃない。


「にしても……結婚かぁ……」


「おや?いつもと違う反応ですね?レイン様もついに興味が出てきましたか?」


「…………いや全く」


 レインが思ったのはエリスのことだ。いつかエリスにも好きな人が出来てレインから離れて行くのだろうか。


 "お兄ちゃん!私この人の事がお兄ちゃんより好きだから結婚するの!これからはこの人の家で一緒に暮らすから!じゃあね!"


「…………………………」


「………………レイン……様?」


 その時、キュアアアッ!――と鳴き声をあげてレインたちの上空に大きめの鳥が出てきた。ここにきて初めてのモンスターだ。他のダンジョンでは見ない金色の翼と赤く光る目を持っている。


 モンスターは魔法を使っているカトレアではなく、ボーッとしていて動かないレインに狙いを定める。上空から滑空して鋭利な爪をレインへ向ける。


「レイン様!」

 

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