第165話








 そんな疑問をぶつけてみる。神覚者の情報は国家機密みたいなもので他の国の者に話す事は基本的に禁止されている。だからカトレアが言えないと言えばそれまでだが。


「そうですねぇ……まあ…まともなのは私と6位くらいじゃないですか?他は好戦的な人か、何してるのか分からない人とか、普通に会話もできない人ばかりですから」


「……6位?」


「……ああ、申し訳ありません。超越者には順位が付けられているんです。1位から7位までです。それは強さではなく国家への貢献度で決まりますが……国民には強さの順位になっていますね」


「へぇ……カトレアって何位?」


「私は3位となってますね。ただ今は無期限の休暇中なのでこのままだと4位くらいに落ちちゃいそうですけど」


 カトレアは笑う。順位が落ちるってダメなんじゃないか?


「それっていいのか?」


「大丈夫ですよ?順位に応じた報奨金が毎年支払われるのです。それが減るだけですから何も困りません。私は年1回、上位ランクのダンジョンを攻略していて且つエスパーダに住んでいれば年間1000億Zelまで好きに使っていいとなってます。

 おそらく4位だとダンジョンを2ヶ所攻略で800億とかじゃないですかね?1位と2位は何年も順位がそのままなので分かりません」


「1位ってやっぱりすごいの?俺より強い?」


 カトレアで3位。つまり貢献度とはいえカトレアよりも上の人が2人もいる。今はどうか分からないが、最初に戦った時はギリギリ勝てた。それよりも強いんだったら苦戦は確実だろうな。


「レイン様の方が強いです……と即答したい所ですが、正直に申し上げると分かりません。1位は自分が所有する広大な森の中に閉じこもってモンスターの研究ばかりしているという噂です。私は彼が戦っているところを見た事がありません」


「え?でもSランクダンジョンはみんなでクリアしたんだろ?」


「いえ……あそこは……あー、これ以上は国家機密となりますね。申し訳ありません」


 そういえばSランクダンジョンの内部は国家機密となっていて外部に漏らせば罰せられるんだっけか?そんな重要な事をカトレアが言うわけがない。


「そうか……変な事を聞いたな。気にしないで……」


「キスしてくれたら全部教えます!」


「却下で」


「じゃあ明日一緒にデートして下さい。そのデート中ずっとを手を繋いでてくれるなら教えます!」


「うーん……却下で」


「なら手を繋がなくていいのでデートして下さい!あと今日だけでいいので一緒に寝てください!私からは絶対に何もしないので!OKしてくれたら教えます!」


「うーん……えー…あー……それなら…まあいいかな」


 レインは了承する。最初に比べたらかなり譲歩してくれた。Sランクダンジョンの事は聞いておきたい。教えてくれるならこっちだって譲歩しないといけない。


「ありがとうございます!」


 レインの譲歩とは裏腹にカトレアは不敵に微笑む。


 "ふふふ……これが交渉というものですよ?レイン様。最初に無理難題を要望し、徐々に下げていく事で本来の要望を通りやすくするものです。……まあキスが第1志望でしたけどね?

 ただ私はエリスさんとお風呂に入った時に情報を得ています!その情報を得るための交換条件として何故か20分ほど胸を揉まれ続けて若干ヒリヒリしますが、そんな事はどうでもいい!

 その情報とは、レインさんは寒がりのため寝ている時に近くにある熱を持つ物を引き寄せ、抱きしめる癖があるそうです!つまり一緒に寝れば必然的に抱き合う事になる。あとは成り行きでぶっ放すだけです!"


「…………お前…何か企んでないか?」


 心の中で勝ち誇り饒舌となっていたカトレアは固まる。恋愛系に関しては鈍感の極致にいるくせにこうした事には勘付く。


「ベツニ?…………ナニモ…アリマセンケド?」


「…………え?なに?言葉忘れた?」


「んんッ!別に企む事なんてありません!Sランクダンジョンの事を話すので聞いてもらえますか?!あと約束は守って下さいね?」

 

「……まあ、いいけど。よろしく」


「はい、といってもそこまで言えることは多くありません。私はあのダンジョンで戦闘をしておりませんので……」


「はい?」


 カトレアの言った事をすぐに理解できない。Sランクダンジョン内で戦闘していない?そんな事があり得るのか?メルクーアでも全員が戦っていた。


 ……いや中央指揮所で治癒にあたっていた覚醒者はモンスターとは戦っていない。そういう意味では戦闘していないと言えるがカトレアは別だ。カトレアは魔道士ウィザードで治癒士じゃない。だから戦闘に参加しないなんて事はあり得ない。

 


「あのダンジョンに入った際、私たちは全員が組合にある訓練所のような個室へと飛ばされました。周りには誰もおらず完全に孤立し、出入り口も何もない部屋にいる状態でした」


「何だ……それ?本当にダンジョンか?」


「はい、ただ私はすぐに違和感に気付きました。私が飛ばされた部屋は広さもなく、とても戦えるような場所ではありませんでした。訓練所というのは生き残った他の覚醒者……今の超越者たちがみんなそう言っていたからです」


「カトレアは違ったのか?」


「はい、私は白い壁に囲まれた部屋、部屋の中央には3人がけのソファが置いてありました。そしてそのソファには女性が1人座っていたんです」


「…………女性?」


「はい、私はその人を攻撃しようとしました。何故なら人ではないと分かったからです。黒く長い髪、真紅の瞳、内臓が握りつぶされそうな圧迫感、そしてとてつもない魔力……私は攻撃しようとはしましたが、殺されると思いました。絶対に勝てないと。

 ただ彼女は私に言ったんです。――「貴方は似ているけど、違う。でも似ているから殺さない。運が良かったね。通っていいよ」――と」


 

 

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