第166話
「似ている?」
レインの疑問にカトレアは黙って頷く。カトレアが言った特徴に心当たりはある。レインを鍛えたアルティという魔王だ。ダンジョンの中にある部屋という言葉も引っかかる。
しかしおかしい。アルティはあそこに何千年も居たと言っていた……気がする。だからエスパーダのダンジョン内にいるはずがない。もしアルティを探しているのだとしてもカトレアはアルティに似ている……という事もない。ただ髪色と髪の長さが近いだけだ。
「それで女性が私が立つ反対側の壁に手のひらを向けると通路が出現しました。そして私は誘導されるがままその通路を進みました。逆らえば死ぬと理解していたのでどうする事も出来ませんでした。
その後は……よく覚えていないんです。通路を進んだ先に光があったと思うんです。それに触れた?触れようとしたら……外に出ていました。周りには瀕死の覚醒者や怪我をした覚醒者たちしかいませんでした。それが今の超越者です。私だけが無傷で生き残ったんです」
「そうなのか。……大変だったな」
「……そんな事もありませんよ?多くの覚醒者が亡くなりましたが、それだけ国家は繁栄しました。神覚者になった事でこうしてレイン様にも会えましたしね」
カトレアは席を立ってレインの横にしゃがむ。そして手を握る。そのままレインを見つめる。カトレアの引き込まれるような瞳と美しい顔立ちにレインは魅了……
「そりゃどうも。……寝るか、難しい話は眠たくなるな」
されるとかはなかった。手を払いのけてジャンプしてベッドにダイブする。そしてすぐに目を閉じて眠りに落ちそうになる。横になってからこの速度で眠るのは気絶だろうな。そんなに睡眠時間が足りてないのか?
「お待ち下さい!!」
カトレアは浮遊魔法を使用してレインの上へ落下する。手加減なくそこそこの勢いをつけてドンッと落下した。
「ぐぇッ!」
流石のレインもダメージを負う。普通に痛い。人が膝から背中に落ちたら超越者とか関係なく痛い。カトレアはレインの背中の上に正座する。
「……お前!」
「一緒に寝るという約束です!」
「いや、そこで寝たらいいじゃん!早く降りろ」
「一緒に寝るとはそういう事じゃありません!同じ布団に入ってお互いの顔を見ながら、手を握って、お互いの体温を感じながら眠りに落ちるんです!そんな、その辺で動物みたいに寝とけみたいなのは違います!」
マジで面倒だなぁとレインは思ったが仕方ない。一緒に寝て、明日は出掛けると約束した。約束は守られねばならない。カトレアはちゃんとSランクダンジョンの事を話してくれた。なのにレインが面倒だという理由で無碍にする訳にはいかない。
眠たい目を擦りながらレインは起き上がる。カトレアはそれに合わせてフワフワと浮いている。ビックリするから浮かないでほしい。というか浮き方教えてほしい。
「ほら……」
レインは布団をめくって招く。カトレアはそれを確認してそこそこの勢いで落下してくる。カトレアが仰向けに寝たのを確認して布団を被せた。
「じゃあお休み」
「少しお話ししません?」
「いや……もう眠い」
「明日はどこに連れて行ってくれるのですか?この街は初めてなのでとても楽しみです」
カトレアはさりげなくレインの手を握る。しかしすぐに振り払われてしまった。が、身体をくねらせて近付きまた手を握る。レインはそこで諦めた。
「どこに行く……って言っても…俺もこの街詳しくないからなぁ」
「この街はあまり長くないのですか?」
「いや……多分生まれた時からずっとだと思うけど……」
「それなのにあまり詳しくないのですか?」
「そうだな。昔はそんな余裕もなかった。神覚者になってから余裕は出来たし、時間もあるけど……今更何をしたらいいか分からない。外で買い物するとかに楽しみが見出せないんだ。俺が外に出るとみんなに気を遣わせちゃうだろうし」
とは言うものの家でゴロゴロしてるのは好きだ。必要な物もアメリアたちが揃えてくれる。欲しい物もない。別の国に旅行……というのも惹かれない。出掛けるって楽しいのだろうか。
「…………そうでしたか。それでは!明日は私がレイン様を楽しませてみせます!」
カトレアは意気込みさらにレインへと接近する。レインは離れようとするがこれ以上後ろへ下がると落ちる。だからさりげなくカトレアを押し返す。
「え?……俺の事好きって言ってくれてたけど……何でそんなにまでしてくれるんだ?俺…お前に何もしてないだろ?」
強いて言うなら殺したぐらいだと思う。殺したら好きになるっておかしいよな?恋愛経験が皆無で察する能力も壊滅しているレインでもおかしいと思う。
「好きな人には何でもしてあげたいタイプの人なので。……あとレイン様はエリスさんを治すために充分働きました。
Sランクダンジョンを攻略し、神覚者として国家への責務も全うしました。その恩恵を受けた者は数え切れないでしょう。だから今度はレイン様が幸せになる番です。もうその資格を十分すぎるほど得ています」
「うーん」
別に今でも十分幸せだと感じているだからこれ以上を望むのはダメなんじゃないだろうか。
「もちろん、外に出る事が正しく、家に引き篭もる事が悪で間違いではありません。
ただ外に出て多くの事を見て、触れて、学ぶ事には大きな意義があります。レイン様は外が嫌いなのではなく楽しみ方が分からないだけだと思います。外には楽しい事がたくさんあります。それを一緒に探しましょう!」
カトレアはレインを真っ直ぐ見つめて話す。レインは天井を見上げながらに考える。
「……そうだな。じゃあ頼むよ」
レインは了承する。仕事もないし、やる事もない。まあ仕事に関しては王族から依頼されたのが一回だけでそれ以外は基本自分からだったが。
「はい!では明日を楽しみにしております。レイン様……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
こうして夜は更けて行った。レインは明日のことを考えながら、カトレアは自分の思惑通りになる事を願って目を閉じた。
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