第164話






「…………俺の部屋に行こう」


 エリスの事となると聞かないわけにはいかない。それにカトレアが内密という事は王族でも知らない情報の可能性がある。超大国とされるエスパーダの超越者から伝えられる情報は有意義なもののはずだ。


◇◇◇


「それで話っていうのは?」


 2人は椅子に腰掛ける。レインの部屋にはベッドだけでなく色々な物がある。ほとんど使った事ないけど。


「エリスさんを誘拐しようとした者たちの雇い主です」


「分かるのか?」


 もし分かるのであれば今からぶっ殺しに行くのは確定だ。そしてそいつの手下も全て殺す。


「確証はございません。ただある程度の予想は可能です。レイン様はここイグニスの北側に位置する『エルセナ王国』と『セダリオン帝国』の件はご存知でしょうか?」


「……全く知らん」


 レインは即答する。知っていると嘘をつく必要はない。知らないものは知らない!

 

「即答される素直さも素敵ですわ。……と今は良いですね。この2カ国の国境にAランクダンジョンなどの高ランクダンジョンが10ヶ所以上同時に出現しました」


「そりゃ大変だ」


 でもそれくらいならレインだけでも攻略できそうだ。カトレアだって高ランクのダンジョンを時間はかかったが1人で攻略した。10ヶ所くらいなら楽勝じゃないか?とレインは思った。


「レイン様や我々神覚者……取り分け超越者と呼ばれる者たちを有する国家にとっては魔法石稼ぎだ!やったぜ!……程度の認識になるでしょう。

 しかしこの2カ国は違います。セダリオン帝国にはSランクが2人しかおらず、エルセナ王国には1人もおりません。

 そして両国は昔から仲が悪く協力しようという考えもございません。さらに言うならばエルセナ王国は財政的に、セダリオン帝国は統治する皇帝の非常に高いプライドが邪魔をして他国に援軍を要請する事もしません」


「じゃあどうやって攻略すんだよ。何もしなくてもダンジョンなんて放っておいたら崩壊するだろ?」


「仰る通りです。ですが、エルセナはイグニスの黒龍ギルドのマスターと仲が良いと聞くので対応は可能かもしれません。もしくはあえて崩壊させた所を罠にかけて覚醒者の攻撃魔法で殲滅……という手段もございます。

 セダリオンに関しても……彼の国は8大国、知恵の国『サージェス』に独立と安全を保障されているので何かあればサージェス共和国軍が動きます」


「へぇ……」


 共和国軍?あまり聞き覚えのない単語が出てきたけど質問もしない。だって理解できないから。


「しかし問題はこれではないんです。本来ダンジョン攻略するのは覚醒者の役目です。しかしそのダンジョンが確認された地点にセダリオン帝国軍が集結しているという情報があります」


「なるほど……それで何でその辺のよく分からない国の問題とエリスが関係してくるんだ?」


「それは……レイン様の持つスキルが大きく関係します」


「俺のスキル?」


 つまりはエリスが危険な目にあった理由はレイン自身という事だ。その事実に少し落胆する。ただ予想も出来ていた。レインの力を欲する国は多い。


「はい、レイン様のスキルは不死の軍団を召喚し、意のままに操るものだという認識が広まっております。死なず、恐れず、退かず、そして各個体が上位ランクの覚醒者に匹敵する強さを持つ……これほど戦争に向いたスキルはありません」


「えー……つまり?」


「つまり近いうちにどちらかの国が戦争を仕掛ける可能性があるという事です。この情報は8大国であればある程度は掴んでいるはずです。

 そしてここでレイン様のスキルが関係します。召喚士は戦えないという常識に当て嵌めればレイン様を直接襲うなりして拉致すればいいだけです。しかしレイン様は単騎でも最強格の強さを誇っています」


「なるほど……だからエリスを誘拐して俺に言う事を聞かせようって事か」


「はい……なのでこれからもエリスさんは狙われる可能性があります。この屋敷にいる間はレイン様もおりますし、僭越ながら私もお守りさせていただきます。

 しかし今後は学園に通われるとの事ですので、より一層の警護体制を敷かねばなりません」


「…………そうだよなぁ。ただ俺のスキルで召喚される奴らは見た目も悪いし、複雑な命令まで理解できないんだ。相手を見て手加減が出来ないから全員殺すくらいの勢いなんだよ。何かいい案はない?」


 レインの質問にカトレアは少し俯き考える。こうした事に強い人はレインの周囲にはいない。もちろんレイン本人にはそんな力もない。頭を使う事は出来ない。


「……そうですね」


「やっぱり難しいか?」


「いえ警護という意味であれば簡単なんです。例えば国に依頼して護衛隊を派遣してもらう、自分で護衛隊を創設して警護する、守護を専門とするギルドはどこの国にもありますので、そこに依頼して覚醒者を派遣してもらう……こうすれば向こうもなかなか手を出せません」


「…………うーん、でもなぁ」


「はい、それだと常にエリスさんの周辺には武器を携帯した者たちが複数人随伴する事となります。周辺に対する良いアピールにはなりますが……その状況でエリスさんが楽しめるかどうかは微妙な所ですね」


 カトレアの言うとおりだ。そんな会った事もない武器を持った人たちに囲まれて嬉しいわけがない。いくらエリスを守るためとはいえそれはしたくない。


「………………そうだなぁ」


「今すぐに決める必要はございません。学園の入学の時期はまだ先ですよね?それまでに決めれば良いのです。ただ……取り急ぎこの屋敷の門兵は最低でも今の倍の6人、あと3人1班で周辺の巡回警備は行った方がいいですね。超越者の力や財産を狙う者は多くいますから」


「…………カトレアも同じ目に遭ってるのか?」


 神覚者に喧嘩をする……というかその家に侵入する。もしバレれば確実に殺される。それほどの危険を犯してまで盗みに入ろうとするだろうか。


「私の家には設置型の爆発魔法陣に隠蔽魔法をかけた見えない爆発魔法を無数に設置しております。許可なく入った者がそれを踏めば……」


「木っ端微塵ってやつ?」


「それだと死んでしまうでしょ?そんな愚かな事をした者は見せしめにする必要があります。あえて威力を落として両脚だけを消し飛ばすんです。そうすれば素性も分かりますし、罰にもなるでしょう?一生まともな生活は送れなくなります」


 カトレアは微笑みながら話す。それが少し怖かった。そういえばカトレアは戦争も経験しているのだろうか?レインが経験していない事をカトレアはもう何年も前からやっているはず。要は場数が違う。


「カトレアってさ……いや他の超越者たちってみんな強いのか?どんな奴なんだ?やっぱり超越者ってよく分からない」


 

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