第4章 中小国『エルセナ』〜国家間紛争への介入、そして新たな魔王の降臨〜

第157話



 これより第4章となります。この章では暴力描写が多くなる予定です。稚拙な文章ではありますが、これからもよろしくお願いします。





◇◇◇



「……どうして!どうしてこうなったのだ!」


 1人の老人が呟く。薄く暗い倉庫の端っこで膝を抱えている。身につけている装飾が施された衣服から高貴な身分であると予想できる。しかしその衣服は泥で汚れ、所々が破れている。そして老人の顔もやつれ、ひどい状態になっている。


 ズドンッ!――外からは爆発音が響く。その音に掻き消されるように人々の断末魔も聞こえる。

 

「…………何故だ我が国の兵士は覚醒者も合わせて18万人もいた。なのに開戦してからたった10日で総兵力の7割を喪失しただと?!何なのだ!アイツは一体何なのだ!」


 老人はさらに震える。寒さからではない。先程から聞こえる爆発音が近付いてくる。こちらに真っ直ぐ向かって来ている。


「も、もうそこまで……来てるのか?本当にワシと娘を殺すまでこの虐殺を続けるつもりなのか……。様子を見に行った護衛は誰も戻らん。ワシを置いて逃げたのか?奴に殺されたのか?」


 老人は返事のない質問を空中へと投げ続ける。その声は誰もいない、何もない倉庫に虚しく響く。


「ワシはいつから間違えたのだ?あの国に戦争を仕掛けた時か?奴の使用人を襲い、怪我をさせたからか?奴の妹を殺そうとしたからか?

 何なのだ。奴の周囲の人間は誰も死んでおらん。少し脅した…それだけで我が国を滅ぼそうというのか?既にあの男1人に十数万人が殺されている」


 ドガァンッ!!!――突如、その老人が座り込んでいた倉庫の壁に大穴が開く。黒く巨大な何かが壁を突き破った。


 その黒い物はゆっくりと壁の外へと移動する。それは黒い鎧で武装した巨大な腕だった。そしてその穴から1人の男が入ってくる。


「ここにいたか。ほら……逃げないのか?前みたいに兵士を盾にして逃げたらどうだ?」


「何……なのだ」


「逃げないのか?なら出来るだけ苦しませてから殺してやるから頭を下げろ」


「レイン・エタニア!!お前は一体何なのだ!!!」

 


◇◇◇


――遡ること約70日前――

 

「ふわぁ……眠らなくていいって言っても覚悟して寝ると普通に8時間くらい寝れるな。……便利なもんだ」


 今日はシャーロットに呼ばれている日だ。メルクーアから戻ってもう10日も経った。結局色々やってはいたが、休みの10日と何かしら働いている10日は時間の流れが違う。絶対に違う。


 この事をちゃんと考えて文章にして発表したらすごい事になるんじゃないかと考えたが、そんな知能は元より持ち合わせていない。


 レインは自分の部屋を出て食堂へ行く。もうすぐエリスの入学だ。勉強の邪魔は出来ないと思って最近はこちらからは話しかけないようにしている。


「お兄ちゃん!おはよう!」


 既にエリスは食堂の椅子に座って本を読んでいた。本当に勉強熱心な子だ。誰かと違ってな。


「おはよう」


 短い挨拶だけ交わす。すぐにエリスは本に目を落とす。何の本を読んでいるのか聞いてもレインには分からない。こうして会話が少なくなっていき、いずれ自分の元からも離れていってしまうと思うと辛くなる。


 でもそれがエリスの望んだ事なのであれば応援したい。でも願うならばずっと一緒に……と矛盾した考えばかりが巡っていく。


「……お兄ちゃん?」


 エリスはレインのすぐ横まで来ていた。読んでいた本を閉じて脇に抱えている。考え事をしていたせいで気付かなかった。


「エリス?どうした?」


「お膝の上に座ってもいい?」


 エリスからの申し出が嬉しすぎて、掴んでいる椅子の肘置きを握り潰しかけたが何とか耐えた。

 

「もちろん、どうぞ」


 レインは椅子を引いてエリスが座りやすいようにする。エリスは本を机の上に置いてレインの膝に腰掛ける。エリスの背中がレインの胸の位置に、エリスの頭がレインの顎の横くらいなる。


 "少し前までもっと小さかったのに……大きくなったなぁ"


 レインはエリスの頭を優しく撫でる。黒く長い髪がサラリと揺れる。


「どうしたんだ?甘えたくなったか?」


「うん……我慢できなくなっちゃって。アメリアさんやクレアさんからは学園に通うとなかなかお兄ちゃんと会えなくなるって。だから今のうちにいっぱい甘えるか、我慢するかって言われてたの。だから我慢しようかなって」


「……何でまた?」


 いっぱい甘えてくれる方を選んでほしかったレインは問いかける。


「だって……甘えちゃうと学園が始まった後にとても寂しくなると思ったから。我慢して……ちょっとでも耐性を付けておけば大丈夫かなぁって。でも無理だったよ」


 そう言ってエリスはレインの頬に擦り寄る。寂しく感じていたのは自分だけではなかったと知った。それだけで周りがどうしようかと分からなくなるくらい号泣しそうになったが唇を噛んで我慢した。


◇◇◇


「じゃあ行ってくるよ。アメリアもセラとサーリーに優しくな?アマリア、イブ、カイラには必要な物を買ってやってくれ。家具とか服はあんな感じで良いと思うけど、他にも必要な物は沢山あるだろうからな。じゃあ留守を頼む」


「かしこまりました。お気をつけて」


 アメリアがレインを見送る。アメリアの顔色は変わらないように見える。とりあえず1人という事でサーリーに来てもらう予定だったが、サーリーと仲良しの3人にも来てもらうことになった。

 これで少しでもアメリアの負担が減ればいいのだが、聞いても大丈夫しか言わないから困ったものだ。いつかちゃんと聞かねばならない。だが今ではない。とりあえず王城へと向かう。


◇◇◇


「お待ちしておりました」


 王城の入り口には複数の兵士とシャーロットがいた。まさかシャーロット直々の出迎えとは。そして浮かない顔をしている。


 本当に誰なのか分からない。レインに会いたいという人があまりにも多く全員断っている。それを突破してきた奴だ。相当頭のおかしい奴だろうな。


 レインはそのままシャーロットに案内される形で王城内を歩く。そしてその場所へついた。いつもの応接室だ。


 シャーロットの合図で兵士が扉を開ける。そしてその奥にその人は立っていた。大きな両開きの窓から差し込む光に照らされて紺色の髪がキラキラと輝いている。


 レインと似たような黒色の服を着ている。逆光による目の眩みも治った時、それが誰なのか理解できた。


 

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