番外編3-13
まず本当にベッドが3個、2列で合計6個並んでいるだけだ。そのベッドとベッドの間に小さな棚があってその上に本などが置かれている。天井も壁も元々は白色だったのだろうが薄汚れている。床は木で出来ているが踏むたびにギーギーと音を立てていて少し力を込めて踏めば抜けそうなくらい脆く感じる。
レインの屋敷の使用人用の部屋はまず全て1人部屋だ。広さもこの6人部屋と同じくらいある。家具などは無いが、それは揃えたらいい。
天井も壁も同じ白色だが、こっちよりは全然綺麗だし床もこんなにギーギー言わない。
ただレインが驚いたのはそんな事ではない。中には荷物を大きな鞄にまとめたサーリーがいたのだが、何故か自分のパンツを両手で広げて天井に掲げていた。
「サーリー?!何してるの?!」
「きゃああ!何でここに?!」
サーリーは大慌てで持っていたパンツを鞄に叩きつけた。そしてレインたちと一緒にいるアマリアたちを睨みつける。
「神覚者様に王城の使用人の部屋がどういったものかをお教えしようと思ったのよ。それなのに何でパンツ広げてんのよ?」
「い、言わないでよ!穴空いてないかなって何となく見てただけよ!」
「何で今確認してるのよ……それでどうでしょうか?神覚者様、私たちはこのような部屋でも充分楽しく生活出来ているんです」
「………そうか、分かった。じゃあ君たちも一緒に来てくれ」
「「「ありがとうございます!!」」」
3人のお礼の言葉が重なる。そして笑顔で部屋の片付けをサーリーたちと一緒に始めた。
「ギリアムさん……4人も連れて行ってしまって大丈夫でしたか?今更ですが」
「問題ありませんよ?追加で4人募集をかければ良いだけの話ですから。それよりもこの城から神覚者様の使用人が出たというだけでもおめでたい事です。今日の夕食は昨日よりも豪華にしないといけませんね」
「そんなにですか?」
「神覚者様の使用人は我々の界隈では最高峰の名誉な事ですからね」
「そうですか。彼女たちは俺が責任を持って面倒を見ます。まあ見てもらうって方が正しいかもしれませんが」
「心配はしておりませんよ?みんな良い子達です。きっと神覚者様の元でも十分に役立って家れると思います。……どうか彼女たちをよろしくお願いします。あとシャーロット様には私の方から報告しておきますので、もうこのまま4人を連れて行っていただいて問題ございませんよ?」
「何から何までありがとうございます。またお礼に伺います」
◇◇◇
「さて行こうか!」
レインたちは王城を出る。兵士たちもサーリーたち4人を手を振って見送った。やはりここでの待遇が悪かった訳じゃない。少しでも条件のいい場所、高みを目指せる場所に行くのは悪い事じゃない。チャンスがあればそれを掴みに行く事も必要だ。
「あの……神覚者様」
サーリーが立ち止まって話す。みんな大きなカバンを持っている。レインが代わりに持とうとしたがみんな頑なに離さない。収納するだけだから良いんだけど離さないのを無理やり奪う訳にもいかない。
「どうした?」
「あの……ありがとうございました。私たちみんなを雇っていただいて……感謝してます。王城での下級使用人なのは家族に言えてなかったんです。……でもこれからは神覚者様の使用人だって胸を張っていけます!」
「それは良かった。とりあえず家に行こうか。君たちの物を色々揃えないといけないから」
「ありがとう……ございます」
こうして新しく雇った4人を連れてレインは自分の屋敷へと帰る。
◇◇◇
「……と言うわけで4人雇ったからよろしくな。アメリアの仕事を教えてあげてくれ」
「かしこまりました」
とりあえず応接室に4人を連れて行く。そこにアメリアを呼んで初顔合わせだ。その内他のみんなにも紹介するが、今はこの4人の部屋を何とかしよう。何が必要かは本人たち次第だが、家具も何もないから最低限の物くらいは今すぐ用意したい。
「「「よろしくお願いします!」」」
「よろしくお願いします。私はアメリアといいます。一応ここのメイド長……とご主人様から言われております。仕事は明日からにしましょう。とりあえず今日は部屋の割り振りと必要な物を揃えましょうか」
「「「はい!」」」
みんなの返事はことごとく揃う。逆に凄いとすら思える。
「ご主人様も一緒に来てくださいね?」
「え?……了解」
◇◇◇
「…………あの本当にこの部屋ですか?」
とサーリーが呟く。本来与える予定だった部屋は無しにした。4人中2人だけって不公平すぎる。だったらみんな使用人用の部屋にしようという事になった。
部屋の扉を開けて真っ先にサーリーがそんな事を言い出した。
「やっぱりボロすぎたよな?どうしようか?相部屋って事ならもっと良い部屋を用意できるけど……」
「い、いえ!違います!豪華すぎるんです!本当にこの部屋を1人で使っていいんですか?王城だと執事長が使う部屋くらい豪華ですよ?!」
「それなら良かった。アマリア、イブ、カイラも同じ部屋だからな?でも見ての通りベッドしかないんだ。今から家具とか服を買いに行こう!アメリアもついてきてくれる?俺にはセンスがないからね」
「かしこまりました。ちょうど食材の買い出しに行こうと思っていたので良かったです。皆さんは一旦荷物を置いてきてください。もうこの部屋はサーリーさんの部屋なので自由に使ってください。10分後に玄関に集合という事にしましょう。3人の部屋はこっちです」
「「「は、はい!」」」
「じゃあまた後でな」
◇◇◇
「神覚者様?!い、いけません!こんな高価な物!」
またサーリーの大きな声が響き渡る。レインたちは家具一式を揃えるためにテルセロ最大の家具屋に来た。やはり物作りという分野ではイグニスは他の国よりも優秀なようで沢山の物があった。ただ昔のレインだったら倒れるくらいの金額の物ばかりだが……。
「長く使うんだからこんな感じでいいんだよ。気に入ったのがあれば言えよ」
「こ、これ……何これ?こんな小さな机が…………1,000万?!本広げられないじゃない。何を置くのよ」
「カイラ……そういう感想はせめてお店の人がいないところで言いな?」
神覚者が入店したという事でお店の総支配人みたいな偉い人が付きっきりで教えてくれる。そんな時にカイラが今みたいな事を言い放つ。レインは面白かったが、その支配人の顔は引き攣っていた。
「失礼致しました!申し訳ありません!」
「サーリー!そっちは良いのあったか?部屋の大きさもちゃんと考えて選べよー」
奥の方ではサーリーとアマリアが2人でクローゼットを見ていた。服もたくさん掛けられるし、靴も置ける便利な収納家具だ。レインは持ってない。
レインが声をかけても返事がない。不思議に思って2人へ近づく。
「…………何よこれ…覚醒者の一撃にも耐えられる防護性?何の用途があるのよ?こんなのに2,000万も払える訳ないじゃない」
「そんなに防護性に優れてるんですか?」
「「神覚者様?!」」
後ろにレインがいたことにかなり驚いたようだ。魔力を感じられないとそうなるか。そしてレインの質問に支配人がすぐに答える。
「はい!これは全ての素材に魔法石を用いております!大事な装飾品を用いたドレスなどを入れる際に防護性などは必要となりますので!」
「へぇ……試したいな」
と言ってレインは拳を握る。魔力を帯びる魔法石は覚醒者が放つ魔力に対してある程度反応する。レインが少しだけ力を込めただけでクローゼットが震え出した。
「お待ち下さい!!ここでいう覚醒者はCランクまでを想定しています!神覚者様の一撃にはとてもとても耐えられません!」
「そうなんですか。サーリー……これにするのか?」
「え?!い、いえ……これは流石に高すぎます」
「お金は俺が払うんだから遠慮するなよ?後から請求もしないから安心して選んでいいんだぞ?」
さっきから4人ともこんな感じだ。これが良いのかと聞いても高い、豪華過ぎ、要らないと全く決まらない。買い物にあまり長い時間をかけたくない派のレインには早く決めてくれとしか感じなかった。
レインがそもそも価格帯や店選びを間違えている事に気付く事はない。そしてそれを指摘できる人もいなかった。
◇◇◇
「もう俺が決める!お前ら全然決めないじゃん!」
「「「申し訳ありません!」」」
「……あの私たちには縁のない金額でして……何をどう選べば良いか分からないです」
「とりあえず機能性重視で行くぞ?支配人さん!」
「はい!」
「この辺の物って全部すぐに4つくらい用意できますか?」
1人1人別々の家具を選ぶのは面倒なので4人同じ物を買うことにした。
「勿論です!すぐなご用意致します」
「ありがとう。じゃあ…………」
こうしてレインの買い物は終了した。ベッドだけはあるから布団系一式、ソファやクローゼット、テーブル、ランプにカーテン、めちゃくちゃフカフカの絨毯も買った。ここでの支払い総額は1億くらいだった。その全てを収納スキルに突っ込む。本当に便利なスキルだ。
続いてアメリアだが、彼女は行動だ。4人の服のサイズと好みを確認して大量の衣服を買ってもらっている。
とりあえず着られれば何でもいい派のレインでも流石に下着なんかは一緒に選べない。アメリアがまとめて購入し、あとで欲しいと思った物を自分の部屋に持って帰ってもらう感じにした。じゃないと永遠に終わらない。
この衣服には4人だけじゃなく、セラやアメリアとその妹たち、エリスやレインの分も含まれている。どうせアメリアは自分の分は不要とか言って買わないだろうから命令しておいた。絶対に買えと。
荷物が多くなるからアメリアには3人の兵士が護衛兼荷物持ちとして随伴している。豪華な使い方だ。
アメリアがすぐを選び終える2人の兵士が衣服を持ち帰り、もう1人の兵士とそのまま食材の買い出しにも行ってもらう。
こうして1日で1億5000万Zelくらいを使用人たちの為に使った。別に後悔もない。だって1500億持ってるから。
こうしてやっとのことで買い物を終える。その後は家に帰って紹介した。阿頼耶たちも帰ってきていた。ステラと阿頼耶2人で攻略したダンジョンで得た魔法石の価値が2億だったらしい。今回の買い物の費用の全てを完璧賄えてしまった。
エリスも緊張していたが、いずれ慣れるだろう。4人の新しいの部屋に家具を配置して、衣服を持って行かせた。遠慮したらクビと心を鬼にして言ったらみんな慌てて選んでいた。
4人には明日から働いてもらう。少しでもアメリアたちの負担が減ればと思って雇ったんだ。是非とも頑張ってほしい。
◇◇◇
その夜、レインは使用人を応接室に集めた。また忘れかけていたが大事な話があった。
「とりあえず賑やかになったな。みんなこれからよろしく頼む」
「「「「よろしくお願い致します」」」」
アメリア、ステラ、クレア、セラにサーリー、アマリア、イブにカイラと使用人が増えた。みんなが声を合わせてレインに頭を下げる。
「じゃあ大事な話をするぞ。みんなの給金についてだ。休みとかはそっちで相談してくれたらいいけど、7日に1日は必ず休むこと!これを守らなかったら本気で怒るからな?」
「ご主人様……今朝も説明致しましたが私たち姉妹に給金は……」
「もう黙れ。それはそれ!これはこれ!使う使わないは自由だからとりあえず受け取れ!!」
「は、はい」
少し怒るとアメリアも納得した。
「じゃあまず新しく来た4人の給金な!えーと……兵士に聞いたら10日ごとに支払われるって言ってたな。じゃあサーリーたちは10日で500万……」
「「ちょっと待ったぁ!!!」」
「な、何だよ……何でそんなに叫ぶんだよ。びっくりするだろ?」
「使用人の相場を知らなさ過ぎです!下級使用人だったら10日で5万Zelくらいですよ?!」
「えぇ……でも相場の100倍って言ったし……」
「確かに言ってましたが……10日で500万は払い過ぎです!」
「じゃあ……いくらが良いんだよ?」
「私は別に要らな……」
「アメリアはしばらく口を開くな。妹たちもだ!」
「元々何も言ってません」
そんな感じの言い争いが止まる事はなかった。とりあえず必要な物は何でも買うという事で給金は相場を支払うという事で落ち着いた。まさか深夜まで続くことになるとは思わなかった。
そんなこんなでシャーロットに王城へ呼ばれた日まであと2日となった。明日は何もしないから実質あと1日だ。
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