番外編3-12






◇◇◇


「さて……お待たせしました」


「い、いえ……だ、大丈夫…です」


 レインは着替えを借りて戻った。なぜレインにサイズが完璧に合う服が何種類もシャーロットの部屋にあったのかはこの際聞かない。


 シャーロットがニコニコしながら着替えを手伝おうとして来るし、脱いだシチュー塗れの服をレインから強奪し、洗って来ると言ってどこかに走って行った時は引いた。


 レインが食堂に戻ると既に綺麗に掃除されていた。メイドたちもギリアムがここにいるよう指示しているのか全員が座って待機していた。


 そのままレインは奥に座るサーリーのところまで行って座る。近くにはさっきまでサーリーたちとお喋りしていたメイドたちもいる。


「えーと……じゃあ本題なんですけど……」


「……あ、あの…わ、私はどんな処罰も甘んじて受け入れ……ます。だから家族は……家族だけはお許しくださいませんか」


「とりあえず勘違いしているようだから言っておく。まず処罰はしない。何でそんな事しないといけないんだよ。くだらん」


「で、では……本題…というのは……」


「そんなに怯えないでくれ。俺は……提案?勧誘?に来たんだ」


「……勧誘…でございますか?」


「そうそう、今うちには使用人というか色々お世話してくれる人が4人いるんだけどやっぱり少なくてね。俺って人を雇った事もないし馬鹿だからさ。給金も休みもちゃんとしてなかったんだ。

 給金はまあとりあえず使用人の相場の100倍くらいを払うとして休みのためには人を増やさないと思ったんだ」


「さ、左様でございますか。……では、私はその新しい使用人を探すお手伝いをすればよろしいですか?」


「…………え?いや違う違う。君だ。サーリーさん、君を勧誘に来たんだ」


「………………へ?」


「……どうだろう?もちろん強制じゃない。断ってくれても大丈夫だ。シャーロットさんには一応許可は得ている」


「い、いえ……断るはずがありません!でも…どうして私なんでしょうか?私は下級使用人ですよ?他にもっと優秀な人は沢山いるのに……」


「下級とか上級とか俺には関係ない。ここでは下級かもしれないけど、俺にとっては優秀な人だと思ったんだ。それで来てもらえる……って事でいいのかな?」


「……沢山失敗するかもしれません。さっきみたいにシチューをかけるような事をしでかすかもしれません」


「別に気にするなよ。セラだってうちで色々やらかしてるぞ」


 アメリアの料理を床にぶち撒けたり、掃除している部屋で爆睡したり、何故か知らないけど窓ガラス粉砕したりだ。


「セラさん?王女様お付きのメイドだった御方ですよね?!いきなり辞めたって聞きましたけど……神覚者様の所に行ってたんですか?」


「そうだよ?あの子の村を救った恩返しをしたいって倒れるまで俺の家の前で待ってたんだ。だから雇う事にした。あと他に3人……姉妹なんだけど一緒に働いている。その長女のアメリアっていう人が一応責任者って感じなんだ」


「………………分かりました!私では足りない部分も多いかと思いますが!精一杯神覚者様のお世話をさせていただきます!」


 サーリーは立ち上がってレインを真っ直ぐ見て言い切った。今回はテーブルにはぶつからなかった。ぶつかったら紅茶がレインに降りかかる所だった。


「よろしく。うちの使用人と兵士には伝えておくから準備が終わったら来てくれ。俺は先に帰る…………いやここで待ってようか?」


「荷物は全然ないのですぐに終わります!30分ほどお待ちいただけませんか?」


「分かった。ゆっくりでいいからな。これからよろしく」


 レインは手を差し出した。それを確認したサーリーは自分が着用していたエプロンで何回も手を拭いてからレインの手を両手で握った。


◇◇◇


「えーと……ギリアムさん?」


「神覚者様……私のことはどうぞギリアムとお呼び下さい。神覚者様に敬称を付けていただくような者ではありません」


「…………それでギリアムさん!他のメイドさんたちまで引き止めなくて大丈夫ですよ?サーリーさんが来たら俺も帰るので……」


「かしこまりました。ほら皆さん!仕事に戻りますよ!」


 ギリアムが手を叩く。するとみんな立ち上がってゾロゾロと部屋を出ていく。部屋を出る時に、全員が振り返ってレインへ向けて礼をする。そのせいで渋滞が発生していた。


 しかしサーリーと話していた3人のメイドだけがその場に残っていた。



「あなた達?何をしているんです?あなた達も早く仕事に戻りなさい」


「あの……神覚者様……」


「何でしょう?」


 3人のメイドの1人が口を開く。かなり言いづらい事のようだ。


「大丈夫ですよ?言いたい事を言ってください。俺は何を言われても気にしないですから」


 これくらい言っておけば言えるだろう。これが普通なのかもしれないが、みんな神覚者に怯えすぎだ。他の国の神覚者は知らないがレインは大丈夫だと安心させたいがやはり難しい。


「あの……あの!!神覚者様!いやレイン様!」


 "……何で言い直したんだろう?"


「私たちも雇っていただけませんか!」


「……えーと…君たちは?」


「私はアマリアといいます」

 真っ先にレインに声をかけた栗色の癖毛の女性が名乗る。誰とは敢えて言わないが絶対に間違えて呼ぶ自信がレインにはあった。


「私はカイラです」

 アマリアと同じ栗色の髪で長い髪を後ろで一つにまとめている女性が続けて話す。アッシュの嫁の名前と似ている。アッシュの嫁の名前が思い出せない。カトレアみたいな名前だったはず。でもアイツの事は思い出したくない。


「わ、私はイブと申します」

 イブは他の2人とは違って金色の髪だ。大人しそうで声も小さい。レインにとっては賑やかより物静かな人の方が好きだからイブの評価は勝手に上がる。


「私たち同じ村の出身なんです!みんなで頑張って村のみんなに誇れる人になりたいって勉強も仕事も精一杯やってきました!私たちも精一杯お仕えします。部屋も物置に3人入れてもらっていいです!だから神覚者様の元で働かせてください!」


 とアマリアが話す。そしてレインは悩む。1人のつもりだったし、部屋が足りない。使用人用の部屋はあるが、あれはお世辞にも良い部屋じゃない。レインたちが前に住んでいたボロ屋と良い勝負だ。


 そんな所に使用人とはいえお世話をしてくれる人を住まわせるわけにはいかない。レインたちと同じような部屋は残り2部屋しかない。1人の時間も欲しいだろうから1人1部屋は絶対だ。レインが知らない人と同じ部屋で生活するというのは絶対に死んでも嫌だ。それを他の人に強要するつもりはない。


「…………うーん」 


 レインは腕組みしながら天井を仰ぐ。一気に4人増やすのは問題ない。アメリアもその方が助かるだろう。それに王城の使用人というだけで身元の保証も出来ているだろうし、仕事もしっかりしてくれるはずだ。


「お願いします!何でもします!」


 とアマリアはダメ押しする。が、レインが悩んでいるところはそこではないから響かない。


「いや……別に雇うのは問題ないんだ」


「え?……そ、そうなのですか?」


「うん……ただ部屋がボロ屋みたいな所しかなくてね。うちにいる使用人には俺と同じような部屋を使ってもらってるんだ。でも君たちを雇うとなるとそれと同じ部屋を用意できないんだ。ここの部屋よりもきっと劣悪な部屋だと思う。

 人間は働く事も大事だけど休む事の方が大事だって思ってる。それなのに休むための部屋がボロボロって論外だろう?うちに来ても君たちには余計な苦労をかけてしまうかもしれない」


「「「……………………」」」


 レインは自分の思いを正直に話す。断る為の方便ではない。それに同じ使用人が豪華な部屋を使っているのに自分たちだけはボロ屋みたいな部屋だと不公平だ。それはいずれ争いを生む可能性だってある。そんな事を自分の屋敷で起こしたくはなかった。


「あ、あの……口を挟むようで申し訳ありません」


「ギリアムさん?」


「……これを執事長である私が言うのはおかしいかもしれませんが……神覚者様は下級使用人の部屋がどのような作りなのかご存知ですか?」


「いえ……知りませんが…王城の使用人って事は普通の宿くらいの部屋なんじゃ……」


「いえ……全く違います。……一応見せておいた方がいいかもしれませんね。ちょうどサーリーが今片付けをしているはずです。みんなで行きましょう」


「「「はい」」」


「……分かりました」


 ギリアムに連れられて使用人たちが生活する部屋へと向かう。どんな部屋なんだろうとレインは少しだけ楽しみだった。


◇◇◇


「こちらです」


 と、ギリアムが部屋を開ける。向かう途中に聞いたのだが、使用人は6人部屋らしい。サーリー、アマリア、イブ、カイラは同じ部屋らしい。本当はもう2人いたのだが辞めてしまって空いているとの事だ。


「失礼します」


 レインが部屋に入る。その先の光景に驚いた。

 

 

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