第158話
「レイン様」
その者がレインを呼ぶ。レインの中で決闘の時の記憶が怒りと共に一気に込み上げる。
「カトレアァ!!!」
レインはシャーロットを背に庇うような位置を取る。ここにはシャーロットがいる。守りながらではどの程度まで戦えるか分からない。
とにかくシャーロットをここから逃す事を優先しながら撃退する。忘れていたが、やはり復讐のためにここへ来た。神覚者という地位を利用して堂々とここまで来やがった。
「傀儡召喚!ヴァルゼル!海魔!!いけ!!」
レインの指示でレインの足元から傀儡たちが一斉に飛び出す。外やダンジョンと違ってここは王城の室内だ。沢山出せないし、デカい奴も出せない。阿頼耶も屋敷にいるから援護も望めない。
なら傀儡の中で単騎最強のヴァルゼルとそれ以外で強い部類に入る中級海魔を10体ほど召喚する。これ以上召喚すると傀儡同士がぶつかってしまう。
「奴を殺せ!!」
傀儡たちはレインの命令を遂行する為に武器を持ってカトレアへ急接近する。だが、レインは知っている。傀儡だけではカトレアに勝てない。レインと並ぶほどの強者を相手にした時の傀儡の役目はあくまで援護だ。
レインはすぐに後ろにいるシャーロットを力を込めないように突き飛ばす。方向を計算して兵士が受け止められるように優しく押す。
「レイン様!お待ちッ……レイン様ッ!」
すぐにレインは自分とシャーロットたちの間に騎士を並べて壁を作る。もしカトレアが見境なく攻撃を開始したら本当に守りきれない。シャーロットだけじゃない。ここに勤めている使用人たちにも死傷者が出る。それでも関係の深いシャーロットだけでも守る為に護衛兼足止め要員として上位騎士を配置した。
"騎士はシャーロットさんに追従し、彼女の指示に従え。彼女が王城の外に出るまで護衛しろ。"
それだけ言い残してレインは目の前の敵に集中する。レインが視線を戻すと傀儡たちがカトレアへ斬りかかる直前だった。そしてぶつかる。
バキンッ!――と傀儡たちの武器はカトレアの魔法障壁によって弾かれる。やはり傀儡たちではカトレアの障壁を突破できない。水龍や上位巨人兵クラスでないとダメージを与えられない。
レインも刀剣を両手に持って攻撃に参加する。Sランクダンジョンでさらに力を付けた。あの時よりは苦戦しないはずだ。殺せなくても撃退する。そして2度とこの国に足を踏み入らせない。
しかし……突如として上位騎士がレインとカトレアの間に入り込んだ。
「なッ?!」
レインの振るう剣は、間に入った騎士を大盾もろとも容易に両断する。しかし気にするのはそんな事ではない。絶対服従のはずの傀儡がレインの命令を無視してカトレアを守った。そんな事があり得るのか?
「レイン様!!お待ち下さい!!」
後ろからシャーロットが叫ぶ。逃げていなかった。ここでレインは気付いた。先程の騎士はレインを裏切った訳じゃない。騎士に下した命令はシャーロットの指示に従い、退却させる事だ。
そのシャーロットがカトレアを守れと言えば従わざるを得ない。レインを攻撃するといった命令ではないから傀儡は従ったんだろう。
シャーロットは騎士を避けてレインの横まで走ってくる。そしてレインの腕を引っ張りながら続ける。
「レイン様!どうか!どうかお待ち下さい!」
「待て?何を待てと言うんだ?コイツは敵だ。コイツがエリスに言い放った言葉は一回殺したくらいじゃ許されない事だ」
「お気持ちはお察しします。しかしながら、彼女は約束通りダンジョン15ヶ所を攻略し、そこで得た全ての魔法石も王家へ献上しました。
そればかりか街道沿いで立ち往生した商人の手助けや野生化したモンスターから村人を守ったりと我が国と国民に対して多大な貢献をしていただいたのです」
「………………………」
"シャーロットさんが言うならそうなんだろう。コイツは約束を守った。なのに俺が会って話すという約束を守ってない。…………いや、でももし俺を殺すつもりなら屋敷を襲うよな。何故こんな面倒な事をしてまで俺に会いたいんだ?"
ふと冷静さを取り戻したレインは考える。カトレアがしている事はほとんど意味がない。もしレインに復讐するつもりだったなら夜に屋敷を魔法で爆破すればいい。
昨日だって8時間しっかり寝てて1回も起きなかった。離れた所から一気に魔法を放たれると対応できない。屋敷にもそんな傀儡は配置していない。
本当にただ会って話がしたいだけ……なのか?8人目の『超越者』という肩書きを得た。だから同じ『超越者』であるカトレアを挨拶要員兼勧誘係として派遣したのか?
「……………分かった。話を聞こう」
レインは武器をしまい傀儡の召喚を解除した。そして近くにあったソファに腰をかける。その光景を見ていたカトレアは少しだけ微笑み頭を下げた。……え?頭を下げた?
「レイン様」
「…………様?!」
あのカトレアが自分に敬称をつけた。それだけで背筋がゾワっとする。
「先日の決闘の件です。謝って許される事ではありませんが……謝罪をさせていただきたいのです。本当に申し訳ありませんでした。……あとSランクダンジョンの攻略完了……本当におめでとうございます」
「………………どうも」
カトレアはテーブルを挟んだ向かい側のソファに腰掛けて話す。あの時と印象が違いすぎて気色悪いとすら感じる。
「あの……それでですね。ここには謝罪ともう一つお伝えしたい事があってきたんです」
「伝えたい事?」
もうこの態度や口調に違和感しかない。背中を無性に掻きむしりたくなっている。横に座って紅茶(使用人に持って来させた)を優雅に飲んでいるシャーロットに掻いてもらおうかと本気で考える。
「はい……レイン様!」
「………………はい?」
カトレアは意を決したように顔を上げた。その瞳は真っ直ぐレインを見ている。
「私と結婚を前提にしたお付き合いをしていただけませんか!もちろんレイン様がよろしければこのまま挙式でも良いです!私の生涯の伴侶となっていただきたいのです!」
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