番外編3-8







「はい、ご主人様からカードを頂いていますので必要な物はそれを使って買い揃えております」


 レインはアメリアたちにカードを渡している。それは国家だけが発行できるカードで、現金を持たなくても金庫内に資産があれば買い物が可能な物だ。


 レインの資産が尽きない限りそのカードがあれば国内であれば何でも買えるし、アメリアたちの場合は神覚者の使用人である証明書も兼ねていた。


「……いやそれは給金じゃないだろ?アメリアたちが……ただ遊ぶ為とか、趣味に使うとか用のお金って渡してた?…………渡してないよな?そんな話をした記憶がない」


「いえ私たちには必要ないので」


 そういう事が聞きたいのではない。やっぱり怒ってるのだろうか?聞いても怒ってないし、気にしてないし、大丈夫ですくらいしか言わない。


 そしてこれまでアメリアたちを無給で働かせていたと確信に近付いてきたレインはだんだん不安になってくる。


 あれほど金を払わなかった奴を恨んだFランク時代。今のレインはその恨んだ金を払わなかった奴に成り下がろうとしている。というか既になっている。

 

「そういう事じゃなくてね?…………ちょっと待って?アメリアたちって休みあった?ずっと働いてるよな?」


 レインもFランク時代は休みを取っていた。人間、丸一日何もしない日、要は休みがないとやっていけない。ポーションの費用が貯まればレインだって休んでいた。


 なのにアメリアたちを雇ってから彼女たちが休んだのを見た事がない気がしてきた。


 毎日、今日の晩御飯なに〜?みたいな会話をしている。という事は休んでないよな?

 

「私たちはご主人様に命を救われた身です。一生を掛けてお仕えする事でようやく返せるほどの大恩です。既に衣食住を十分過ぎるほどに保証されていますのに、これ以上何を望みましょう?給金も休みも必要ありま……」


「それはダメだ!」


 レインは椅子から立ち上がってアメリアの両肩を掴んだ。アメリアは目を丸くして瞬きする。そしてその後に俯く。


 "なんて事だ。自分とエリスの事ばかりでアメリアたちの生活を気にしていなかった。給金も休暇も許していないなんて……とんだクソ主人じゃないか!"


「アメリア!」


「は、はい!……あの近いです」


「金はいくらでも渡すからとりあえず姉妹3人で旅行にでも行ってこッ」


「行きません……あと近いです。少しだけでいいので離れて下さいませんか?」


「ちょっと……ごめん。最後まで言わせて?」


「私たちには必要ありません。……実はここに来た時に3人で相談したんです。休みも必要ないし、給金も受け取らないと。あと……心臓がもたないので離れて下さい」


 アメリアはレインを少し押す。普通なら全く動かないが、我に返ったレインはそれで退がる。


「それはごめん……それで何で必要ないの?」


「それほど私たちはご主人様に感謝しているからです。あのままだと私たち3人とも生きてはいられませんでした。

 せめて妹2人だけでもと思っていたのに……ご主人様は私たち3人を助けていただいたばかりか、同じ家で過ごす事もできて、広すぎる部屋まで用意していただいて、同じご飯も食べられる……これ以上を望むのは許されません」


 アメリアの意思はものすごく強い。強すぎて突破出来なさそうだが、アメリアに無理をさせて倒れてしまった方が本当に困る。

 レインは既に睡眠の必要ない身体になったがアメリアは違う。アメリアの料理がずっと食べられないなんてあり得ない。


「誰が許さないんだよ。俺が許すって言ってるんだから…………もしかして人が足りない?だから休みたくても休めないとか?」


「休みは必要ありませんが……そうですね。セラが来てから業務量という面では助かっております。慌ただしい子ですし、色々壊したり、勝手に寝たり、料理をぶち撒けたりしますが、優しく良い子なので任せられる事も沢山あります」


 それは……助かっているのか?セラはあれでも王女付きのメイドだった。要は上級使用人になる……らしい。アメリアは必死に勉強して今の知識を得たが、セラも同じような感じだろう。


「なら人を増やそう。誰でも良いって訳じゃないからシャーロットさんに相談してくるよ。人が増えて仕事が減れば休みも作れるし、給金も……」


「それは必要ありません。……ただ、ご主人様が信用された方なら問題ないと思います」


「……そうですか」


 アメリアを突破するのは不可能だった。


 "クレア辺りならいけそうだな。そのままステラをこちら側へ引き入れてアメリアを孤立させよう。じゃないと倒れてしまう。…………俺のせいだけど、そうなる前に気付けてよかった"


 レインは屋敷を飛び出して王城までの道を小走りで駆けた。


◇◇◇


「神覚者様!おはようございます!」


 王城の門へ辿り着くと複数の兵士が敬礼しながら迎えた。普通の人が王城へ入ろうと思ったら数日前からの約束と徹底的な身体検査がされるはず。なのにレインは顔パスだ。こういう所は楽で良い。


「おはよう。いつもご苦労様です。……今日ってシャーロットさんはいますか?」


 昨日昼前に帰ったからいるはずだと期待を込める。いなかったら悲しい。


「確認致します。少々お待ちください」

 

 レインは1番近くにいた兵士に問いかける。その兵士はすぐに別の兵士と確認し合う。現在何をしているかの予定はある程度把握しているのだろう。


 すると王城の正門横に置かれた詰所から別の兵士が出てきた。入り口だけでかなりの人数を配置しているようだ。最近物騒だから仕方ないのかもしれない。


「レイン様!お久しぶりです」


 その詰所から出てきた兵士がレインへ駆け寄る。「久しぶり」という単語にレインは戦慄する。少し遠出をするだけで複数名の護衛とメイドが国家(主にシャーロットの独断で)から派遣されるレインにとってこの兵士がいつ、何処で、何をした時の護衛なのかすぐに思い出せない。


 兵士はレインの前まで行き、深く被った兵士用の帽子を脱いだ。


 

 

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