番外編3-9







「ああ………………ノスターか!」


「覚えていただけて光栄です」


 ノスター――ハイレンで行われた決闘の時に護衛として来てくれた兵士だ。何とかギリギリで思い出せたレインは胸を撫で下ろす。今の間はアウトな気もするが、ちゃんと思い出せたとする。


「それでシャーロットさんはいる?」


「はい、現在は執務室にいらっしゃると思います。私が案内致しますので、こちらへどうぞ」


「ありがとう」


 レインは前を歩くノスターについていく。既に見慣れつつある王城の中へと入っていった。


 ノスターは道を間違うことなくまっすぐ進んでいく。もちろんレインは王城の造りなんて知らない。何度も来ているはずなのに毎回迷う。見慣れるのと道を理解するのは違う。どうしてここで働いている使用人たちはそんな簡単に道が出てくるんだろう。


 レインは自分の屋敷の内部すらたまに迷う時がある。大抵どこかにアメリアたちがいるから叫べば助けてもらえるが、毎回……またですか?みたいな目で見られるのが辛くて仕方ない。


 そんな事を考えていると王女の執務室の前まで辿り着いた。そしてすぐにノスターが部屋をノックする。


 しかし返事がない。ノスターはもう一度、少し強めに扉をノックする。


「シャーロット様!いらっしゃいませんか?お客様がお見えです!」


 しかしそれでも返事がない。中にいないのか?本来であれば戻るまで待機するか、機会を改める。

 ただ今回の来客は神覚者レインだ。全てにおいて優先される御方の為、ノスターは許可なく扉を開けて中を覗き込む。


「失礼致します!!シャーロット様!」


 バサッ!――ノスターが入ろうとした時、その入ろうとした扉の横に複数の書類が投げつけられた。ノスターは全く動じない。後ろのレインの方が驚いていた。


「シャーロット様、いらっしゃったのなら返事をしていただかないと我々も動けません」


「今!私は!とても忙しいのです!!お兄様が王都の自室に閉じ籠もってしまったせいで書類整理がこちらにまで来ているんです!レイン様がいらっしゃる残りの2日はここで徹夜なのに、約束もしていない来客なんて対応していられません!」


 見た事のないシャーロットの怒号にレインは引く。ノスターもレインの方をチラリと見てから再度続ける。


「し、しかしながら……お客様というが……」


 バンッ!――と強く扉が開いた。レインと最後に会ったのは昨日だ。なのにシャーロットの目の下にはクマが出来ている。

 本当に寝ないで書類作業をやっていたようだ。丸一日徹夜するくらいレインには簡単だが、王女様にとってはかなりキツイのだろう


 いつも綺麗に整えられているはずの金色の髪もどこかボサボサだ。廊下に差し込む光が眩しいのか睨むように目を細めてノスターを見る。しかしその後ろにいるレインと目が合った。


「レ、レレ、レイン様っ?!」


「…………えーと…いきなり来てしまってすいません。少し相談したいことがあったのですが……忙しいようでしたら出直します。すいません」


 レインはノスターの肩に触れて帰ろうとする。これほどまでに疲れてイライラしているシャーロットを目にするのは初めてだった。


 レインは振り返り帰ろうとする。いくら神覚者で優先的に会ってもらえるといっても相手の都合を無視して良いわけじゃない。それくらいの常識は備えているつもりだ。


「全っ然!忙しくないです!暇すぎて頭がおかしくなりそうでした!!」


 帰ろうとするレインの服をシャーロットが掴む。そして全力で引っ張る。


「いやいや……無理しないで下さい。俺だってそれくらいの気は使えますから。という少し寝た方がいいですよ?顔色が……」


「こ、これは……お見苦しいところを……。で、でしたらどう言った相談かだけでもここで教えていただけませんか?レイン様の望みは可能な限り叶えると王家として私個人として約束したではありませんか!」


 "そんな約束……したっけ?"


「じゃあ言ったら寝ますか?」


「ね、寝ます!ちゃんと寝ますから」


「わかりました。……実は使用人を新しく雇おうと思いまして。ただ何処で探せばいいのか分からないんです。誰でもいいっていうのも駄目ですし」


「そうですか。ではここの王城に務めている者の中で良いと思える人がいれば声をかけていただいて大丈夫ですよ?」


「良いんですか?ここの人が減りませんか?」


「減りますが、全員を連れていく訳ではないんでしょう?それに王城に勤めるとは王家に仕えるということです。希望する者は非常に多くいますので、問題ありません。……それはレイン様も同じかもしれませんが」


「……え?」


「レイン様……神覚者様の使用人とは国王直属の上級使用人に匹敵するほど地位であり、使用人たちにとって最高峰の名誉となりますから。……ただ無理強いはしないで下さいね?いくら使用人とはいえ相手の意思は尊重して下さい」

 

「分かりました。……でもありがとうございます。実は1人探している人がいるんです。シャーロットさんは分かりますか?」


 レインは既に決めている人がいる。あの時、とてもお世話になった人だ。シャーロットからの命令でレインに付き従った人だからここにいるはずだと考えてここに来た……というのもある。

 

「申し訳ありません。使用人全員の名前と顔は覚えきれていないんです。執事長のギリアムに案内させましょう。ギリアムは……ノスター、あなたが探しなさい」


 何処にいるか分からないんだな。とはいえレインもアメリアが何処にいるのか分からず叫んで呼んだら買い物行ってたなんて事もあった。これが普通なんだろう。


「承知しました。ではレイン様、とりあえず使用人用の食堂へ行きましょう。そこへ行けば使用人の居場所は分かるはずです」


「了解した」


 こうしてあくびをし始めたシャーロットを置いてノスターと共に執事長を探す旅が始まった。王城内はあまりにも広いので、もはや旅同然だ。

 

 

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