番外編3-7






 レインは左腕をアメリアの枕の下に入れる。もう片方の手をアメリアの後頭部に当てた。アメリアの頭がレインの胸の少し上くらいの位置に来る。


「……レインさん?」


「大丈夫だ。俺がみんなを守るよ。だから安心して……今は眠れ。俺も眠い」


「はい……今はこのまま……」


 こうして2人は眠りつく。


 

◇◇◇


 そして次の日の朝。いつも以上に爆睡を決め込むレインは起きる気配がない。

 多少暴れれば起きてくれるだろうが、ずっと働いていて疲れているのは分かっているから起こしたくない気持ちと葛藤する。


 ただ今のこの状況を見られると非常にまずい人が2人もいる。どちらもこの国を代表する人だから余計に怖い。


「ご…ご主人様……」


 先に起きたアメリアは動けない。小さな声で囁くようにレインを呼ぶしか出来ない。


 "自分から雰囲気に流されてこのままとか言ったくせに……朝になって冷静になると恥ずかしい!"


 いつの間にかアメリアの枕は端の方へとズレていて完全にレインの腕を枕代わりにしている。背中に手を回されて抱きしめられている形となりレインと密着している。


 "朝食の準備をしないと……でも力が強くて離れられない。ご主人様……枕とか抱きしめるタイプの人なんだ。どうしよう。あの2人のどちらかが部屋に入ってきたら問い詰められる"


「……ご主人様……あの……」


「うぅん………大丈夫だから…寝てろ。……腹減った…洗濯攻略したい」


 "ああッ……意味不明なことを仰っしゃってる。この感じだと全然起きないだろうなぁ。…………まつ毛長い"


 アメリアがレインの顔を覗き込んだ時だった。バンッ!――と扉が勢いよく開く。



「おはようございます!!!」

「おはようございます……あなた、せめてノックくらいしなさいよ」

「お、おはようございます。いや、私は早く目が覚めたので朝の運動でも一緒にどうかなとお誘いに来た限りです。決して寝顔を見ようとかそんな事は……」



 "あのセラバカ……本当になんてタイミングで……。でもこれでご主人様も起きて下さるはず。すぐに離れれば弁明の余地も……"


 アメリアが少し顔を上げるとレインは寝息を立てている。まさかの起きない。むしろこのうるさい環境から逃れる為にさらにアメリアに密着する。


「おや?あー!抱きしめ合って寝てるぅー!」

「…………レインさん…何をしているんです?」

「…………………………」

「シャーロット様?何をしているんですか?」

「え?……ここに空きがあるのでお邪魔しようかと…」

「ちょっと!レインさん寝てるんですから邪魔しちゃダメですよ」

「私だってアメリアさんみたいに抱きしめられて寝たいですから!王女なんですからこれくらいしてもいいでしょ!」

「まあシャーロット様を罰することが出来るのって国王陛下くらいですからねぇ」

「あなた!セラさんでしたっけ?あなたの主人はレインさんなんですから守ろうとして下さいよ!」


 レインは起き上がる。レインはアメリアを抱いている状態だから自動的にアメリアも引っ張られるように起き上がる。


「お前ら!!人が寝てる前でうるっせぇんだよ!!出てけ!貴様ら!!バーカ!」


「…………ご主人様?」


「「「……………………はい」」」


 レインの聞いた事ない怒鳴り声と寝起きのせいで頭がちゃんと働いてない知能の足りなさそうな罵声に全員が絶句する。アメリア以外は肩を落として部屋を出て行った。


「…………………」


「ご主人様?起きてますか?」


「…………ん?……ああ、アメリカおはよう。近いな」


「そ、そうです…ね。あの……朝食の準備をしたいので……あの…離してくれませんか?」


「…………え?」


 レインはようやく頭が冴えてきた。普段はここまで寝起きが悪い訳じゃない。起き方が良くなかったせいだ。


 レインは気付いた。お互いの顔が物凄く近い。もう少し前に進めば鼻が当たるくらいの距離だ。レインが肩を抱いて密着している。


「……うぉぉッ!!ごめん!」


 レインはアメリアを離して一瞬で部屋の端へ移動する。神覚者としての動きが咄嗟に出た。前にも阿頼耶にやった事があって反省し、2度とやらないと誓ったはずなのに、今度はアメリアにやった。


 突然の来客のせいでやむを得ず一緒のベッドで寝る事ことになったが、こうなる事は想定していない。


「……い、いえ……大丈夫です。わ、私……準備してきますね?」


 そう言ってアメリアは小走りで部屋を出て行った。その場には壁を背にしたレインだけが取り残される形となった。


「……はぁー…これは……嫌われたか?……やっちまったぁ」


 実際にレインを嫌った人はこの屋敷では皆無だが、レインは相当落ち込む。不可抗力とはいえ好きでもない奴に抱きしめられて嬉しい奴なんていない。


「はぁ……風呂行こ」


 レインはとりあえず部屋を出た。

 


――次の日の朝から昼の間ぐらい――

 

 

「そういや……」


「はい、どうされました?」 


 レインは徐ろに口を開く。何もないレインの部屋の掃除をしていたアメリアが返事をする。


 あの後は特にみんな変わらなかった。謝罪はされたけどよく覚えていないから変な空気が流れたくらいだ。シャーロットもニーナもその日の昼前には帰って行った。


 結局、昨日も外に出る事なく1日が終わってしまった。本当に何もしていない。あと2日後には王城へ行かないといけない。そこで休暇も終わりの予定だ。


 せめて何か外出しないといけないという気持ちがレインを焦らせる。とりあえず買い物に行くか……友人……とかはいないから1人で行くことになる。


 お金持たなくていいカードってどこにあったっけ?そもそも財布にお金入ってたっけ?などお金のことを考えた時にふと思った。


「俺って……アメリアたちに給金渡してたっけ?」


 メルクーアから帰ってきて約束の報酬が支払われた。勝手に増額されて、使い道がほとんど分からないけどちゃんと貰えたのは良かった。昔は働いてもまともに貰えなかった事もあったなぁ……と懐かしんだ。とか今はどうでもいい。


 アメリアたちを雇ってから給金の話をした覚えがない。セラにもした覚えもない。だから恐る恐る聞いてみた。



 

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