番外編3-2




◇◇◇


 レインはそこから移動して応接室へ行く。アッシュたちともここで話をした。というかそれ以外でちゃんと使った記憶がない。


「……阿頼耶、入るぞ?」

 

 応接室なので別にいう必要はないが、ナイフが飛んで来ても嫌だから一応言う。


「おはようございます」


 窓際に阿頼耶が立っていた。外を眺めていたようだ。黒髪が陽の光に照らされて輝いているように見える。


 "俺って……すぐに髪を見る癖あるな。そういうのがやっぱり好きなのか?ニーナさんにも言われたし……"


「どうされましたか?」


「……え?」


 阿頼耶は窓際から離れ、レインの元まで来ていた。アルティによく似た顔つき、落ち着いた雰囲気、最近誰が好きとかそんなのばかり聞かれてきたせいで阿頼耶すらそんな目で見てしまうようになってきた。


「いや……最近あまり話してなかったなって……。ステラはどう?強くなったか?」


 覚醒者はランクが全てだ。そのランクは魔力量で決まる。だからBランクのステラがランクを覆すほど強くなる事はない。ただ武器を極める、スキルの習熟度を上げるなどすれば同じランクの中でも強者になれる。

 ちなみにランクを超越した強さを突然得ることが出来るのが神覚者だ。


「はい……直向きに努力できる子なので以前よりは強くなってると思います。昨日はDランクですが、1人で攻略していました」


「それはすごいな。阿頼耶が鍛えたおかげだ」


 ステラが強くなってくれればそれだけこの屋敷の安全にも繋がる。傀儡だけじゃ不十分だから。


「そんな事はありません」


「そうか?……でも人が増えたよな。最初は俺と阿頼耶だけだったのにさ」


 若干変なのもいるけど。

 

「これもレインさんの人望あっての事です」

 

「…………そう?あー……阿頼耶って俺に何かして欲しいことある?Sランクダンジョンでも頑張ってくれたのに何のお礼もしてなかったよな?」


「不要です」


「寂しい事言わないでよ」


 何かお礼をしたいと言って、間髪入れずに要らないと言われたら普通に落ち込む。自分の存在価値すら消し飛ぶくらい落ち込む。


「…………じゃ、じゃあ!……じゃあ、じゃない…では!」


◇◇◇


「本当にこんなのでいいのか?」


「はい」


 レインがソファに座り、阿頼耶がレインの膝を枕にして寝ている。片方の手で頭を撫でて、もう片方の手で阿頼耶の手を握る。こうしてくれって言われたからやっている。


「………………何これ?」


「Sランクダンジョン攻略時に2回ほどさせていただきました。逆はどうなんだろうと思いましたのでお願いしてみました」


「そう」


 その時、バンッ!――と勢いよく扉が開く。

 

「ご主人様!!」


「……セラ?」


 応接室でレインと阿頼耶がくつろいでいた所にセラが飛び込んできた。その後ろには息を切らしたアメリアがいた。


「コラ!部屋に入る時はノックして、名乗って、許可をいただきなさい!……あなた本当に王女様お付きのメイドだったんですか?」


「す、すいません!……あ、あの時は周囲の人がとても厳しくて本当に無理していたというか……。でもここはご主人様もみんなもとても優しく……気が抜けてしまうというか……」


「別にいいんじゃない?俺は気にしないよ?」


 失礼なのは問題だが、そこまで畏まる必要もないとレインは考えていた。だって疲れるし。


「いけません!神覚者の使用人が礼節も弁えていないとなるとご主人様の評価に繋がります!あと……何してるのですか?」


「これ?膝枕だけど……それより何か用でもあったか?」


 この部屋にはレインと阿頼耶の2人しかいない。ただお礼の膝枕をしながらこの後どうするかを考えていた。

 セラが部屋に飛び込んできたって事は急用なんじゃないのか?


「あー!そうでした!シャーロット様とニーナ様がお見えになってます。どうされますか?」


「お前……王女様とSランク覚醒者が来てるのを忘れたのか?……まあいいや。ここに通してくれ」


「かしこまりました」


 そう言ってセラはバンッ――と大きな音を立てて扉を閉めた。その扉の奥からはダダダダッ――と走り去る音も響く。


 レインは黙ってアメリアを見た。阿頼耶はレインの膝の上で目を閉じている。


「申し訳ございません。彼女は私が教育致します」 


「うん……まあそんなに厳しくしてやるなよ?……あとなんか腹減ったな。朝食ってもう少しかかる?」


「もうすぐ出来ますが……王女様やニーナ様もいらっしゃってるとの事なのでお2人の分もご用意しましょうか?」


「そうだなぁ。確認するから、やっぱりみんなが揃ってからにしよう。……用意はできるのか?」


 時間帯はまだ昼前になったくらいだ。昼ご飯にはまだ少し早い。アメリアがレインの分だけ準備つもりだったら予定を狂わせてしまう。そうなったら我慢だな。


「はい。簡単な物でしたら基本的にはいつでも用意出来るようにしております」


「流石だな。じゃあみんなが来るまで待とうか」

 

「かしこまりました」


◇◇◇


 バンッ――!!!

 

「お待たせしましたー!!」


 その音と声にビクッとする。こっちに走って来てるのは知っていたから構えていた。しかしそれが予想を超えていた。阿頼耶はナイフをそっとしまった。


「あなたは……本当に……」


 アメリアも呆れ返っていた。部屋に突入して来たセラに遅れる事、数十秒後にニーナたちが来た。


「はぁ……はぁ……セラ、あなた走るの速すぎです。あなた、城ではもっと大人しかったのではなくて?」


 ニーナは普通だったが王女様は息切れしていた。王女様は至って普通の人間だ。覚醒者のように身体能力が魔力によって補完されているわけでもないし、普段から鍛えているわけでもない。


「すいません!本当はこんな感じなんです!でもご主人様はそれでも良いって仰ってますので、私は幸せ者です!」


 流石に想定外だとは言えない空気だ。ただこの屋敷に賑やかに騒げる人はそんなにいない。少しくらい賑やかになっても良いとは思う。


「まあとりあえず座って下さい。何か用ですか?」


 この2人が用もなくレインを訪ねて来るはずがない。この2人はこの国でもトップクラスに忙しいからだ。レインだってそれくらいは分かる。

 この2人が入ってくる少し前に阿頼耶は起き上がり横に座っている。この光景は2人にとって衝撃的すぎるとの事だ。意味がわからん。


「わ、私は……えーと……あのですね。メルクーアの件が終わってから長めの休みを頂いたんですけど……流石に休みすぎかなぁと思いまして。レインさんも……もし!もしですよ?!暇なんであれば一緒にダンジョンでも回りたいなぁ……って思いまして……」


 とニーナは答えた。要するに暇なんだ。レインもアッシュの件が終わって、その後も色々あったがこの後は暇だ。あと4日後には王城に行くが、それまで予定もなかった。

 

「私はレイン様に会いたかったから来ました!」


 とシャーロットは答えた。なんか恥ずかしいな。


「なッ!あなた卑怯ですよ!」


 …………何が?


「私は自分に正直に生きているのです!貴方のようにダンジョン攻略に誘う口実で会いに来た人とは違います!」


「ちょっと!何を言い出すんですか!」


 ニーナは顔を真っ赤にしてレインを見る。ただ女心といったありとあらゆる女性耐性の無さがレインにその状況を理解させなかった。


「別に……予定がなければ前持って言ってもらえれば会うくらい出来ますよ?」


「「はぁー……」」


 2人がため息をつく。ため息の理由もレインには分からなかった。


 "何なんだよこの2人は……。言いたい事があるならハッキリ言ってくれ。……俺みたいに大して顔も良くない、話も面白くない奴の事を好きだとかはあり得ないだろうし……。もうサッパリ分からん!"


 ニーナも世界で最も綺麗なSランク覚醒者で本か何かで紹介されてたってエリスが言っていた。シャーロットはその金色の綺麗な髪と微笑みを絶やさない美しく優しい姿から『黄金の女神』とか呼ばれてるんだよな?


 そんな2人が自分の事を好きだとか特別な感情を持っているとは全く思えなかった。そうなら嬉しいとは思うが、期待して違った時のダメージで死んでしまうだろう。だから期待もしないと決めた。


「とりあえずご飯でもどうですか?ちょうどアメリアにお願いしようとしてて」 


「まあ!そうなんですか?!私、アメリアさんの料理が本当に好きなんです!」


 シャーロットが満面の笑みで答える。


「王女様なのにですか?もっと良い物食べてると思うんですが?アメリアが作るのは家庭料理ですよ?」


 おそらく王族などが食べるような料理もアメリアなら作れるだろう。アメリアが家庭料理を作るのはレインやエリスの好みの問題だ。安くて量が多ければいいし、味もいいなら尚更良い。

 

 アメリアの料理はその全てが詰まっている。バリエーションも大量にあるから本当に飽きない。


「私たちが食べる物って味が薄いんですよねぇ。見た目だけ豪華になってるだけなんです。変な色のソースとか絵画みたいに散りばめちゃって何の意味があるんでしょうね!」


 その言葉を王城の料理人が聞いたら泣くんじゃないだろうか。あの人たちもあの人たちで頑張ってると思う。


「テーブルマナーも多くて覚えるのも大変なんですよ。食事の時くらい好きにさせてほしいものですわ。

 私はアメリアさんのような暖かく安心する味が本当に好きなんです」


「…………あ、ありがとう……ございます」


 アメリアは赤面している。王女にまで手放しで褒められるのは流石に恥ずかしいようだ。

 

「俺もそう思ってるよ。じゃあアメリア食べたい物ってある?俺は料理は出来ないから自分で作ってもらう事になっちゃうけど、それをみんなで食べよう」


「……ご主人様、ありがとうございます。すぐに作ってお待ちします。少しお待ちください!お嬢様もお呼びしないといけませんね」


「……それは私が行ってきます」


 阿頼耶が手を上げて部屋を出た。すぐに来てくれるだろう。アメリアたちが揃うまではここでお喋りだな。

 

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