番外編3 『イグニス』〜巨額の資産、新たに雇う使用人、そして新たな局面へ〜

番外編3-1





◇◇◇


 リサの依頼を無事に完了?して屋敷に戻った日から3日が経過した。この3日間は本当に何もしていない。ただ寝て、起きようとはして、また寝るの繰り返しだ。


 シャーロットに王城へ呼ばれている日まであと4日となった朝だった。バンッ!――と扉が勢いよく開く。


 

「おはようございます!!!」


 誰かがいきなりレインの部屋へ突撃してきた。普通に気持ちよく爆睡していたレインは飛び起きる。部屋に配置している傀儡すらざわつき始める。レインが咄嗟に止めなければ突撃してきた奴は床や家具から出現した傀儡に斬られていただろう。



「……うえッ?!……なに!なんだ?!」


 レインはとりあえず部屋の入り口を見る。そこには満面の笑みを浮かべたメイド服のセラが立っていた。


「おはようございます!!!」


 そして開口一番バカでかい声で挨拶してきた。 


「……………………おはよう」


「ちょうどお目覚めになったんですね!」


「お前のせいでな。…………何だよ、今日は休みの予定なんだよ。昼過ぎまで寝させてくれよ」


「私!今日から働かせていただくんです!」


「そう……頑張ってね。じゃあおやすみ」


 レインが布団に頭まで潜るとセラはその横で歩く。そして勢いよく布団を引き剥がした。


「おい!」


「なのでレイン様に私の働きっぷりを見てほしいんです!1つの失敗もなくやり遂げてみせますから!」


「じゃあもう無理じゃない?」


「そんな事ありません!というか折角の休みなのにお昼過ぎまで寝るなんて勿体無いですよ!最近ずっとこんな感じっていうのはエリスさんから聞いてます!

 どうせお昼過ぎに起きてもゴロゴロして夕方になって、動いてないからお腹も空かなくて、変な時間にご飯食べちゃって、目が覚めて夜更かしして明日の朝からの予定がグズグズになるんでしょ!」


「…………こいつ…急に分かったような事を。まあ……確かに寝過ぎたか。今日はちゃんと起きるか」


「では!こちらへ!」


「なあ?ハイレンに行った時はそんな感じじゃなかったよね?それが素なの?」


「そうですね。シャーロット様がうるさ……賑やかなのをあまり好まれないので、あんな感じになってました。でも……レインさんがここでは好きにして良いって仰ったので普段の感じ全開にしてます!」


「…………そうですか。他のみんなは?」


「知りません!」


「…………ありがとうございます。…………アメリアッ!!!」


 レインは叫ぶ。割と本気で。セラは突然のことで驚いたのか耳を塞いでいる。


「な、何ですか?!いきなり叫ぶなんて!」


「………………………………」


 レインが叫んだ数十秒後に走ってくる音が聞こえてきた。


「は、はい!ご主人様、お呼びでしょうか!」


「アメリア……ごめんな。いきなり呼び付けて」


「い、いえ……謝罪など不要です。呼ばれれば何処にでも行きますから。……ただ今日もお昼頃までお休みになると思っていたので、まだ朝食の準備が……」


「別にいいよ。……俺も昼まで寝るつもりだったけど……こいつが部屋に突撃してきたんだよ」


 レインは人差し指で前にいるセラの頭頂部をグリグリする。


「ぐッ……ぐえぇぇッ……い、いだい!神覚者様の指グリグリ凄く痛い!……イダダダッ!」


「まさか……あなた…アラヤさんにやったのをご主人様にもやったの?!」


「え?何?阿頼耶がどうした?」


 なぜこの会話の流れで阿頼耶が出てきた?最近はステラと一緒に出掛けていることが多い阿頼耶が出てきたのはすごく怖い。


「実はこの子……挨拶は元気よくを全力でやり過ぎてアラヤさんの部屋にノックなしで突撃したんです」


「あー俺の時と一緒だ」


 ドスッ!


「げぅッ!」


 アメリアの手刀がセラの脇腹を捉えた。セラは頭と脇腹を押さえながらその場に蹲る。結構良いのが入ったように見えた。


「アラヤさん……この子がドアを開けるまで気づかなかったみたいで……ナイフを投擲したんです。それがセラの髪を掠めて顔の横の壁に刺さったんです。

 ステラから聞きましたけど、アラヤさんはSランクに限りなく近いAランクですし、ご主人様は神覚者です。驚くなどして咄嗟に出た動きは手加減出来ていないから普通の人は大怪我するらしいですね」


「まあ否定はしない。一応……俺も多分…阿頼耶も普通の人が近付けば察知は出来ると思う。ただ寝てたり、ボーッとしてたりすると気付かない事もあるかな?普段はそうした事がないから咄嗟に反撃しちゃうのかも」

 

「かしこまりました。みんなにも注意するよう伝えておきます」


「……そうしてくれ。で、阿頼耶は今どこに?」


「おそらく応接室の方かと思います。あそこは屋敷の中でも角にありますので、この子のようなバ……慌ただしい子が突撃してきても事前に察知出来ますから」


「何でAランクを角の部屋まで追い込んでんだコイツは……?実は天才なのか?」


「ご主人様……調子に乗ってしまうのでやめてください。……このあとはどうされますか?食事の方も応接室まで運びましょうか?」


「…………そうだな。阿頼耶とも最近あまり話してないからそうするよ。お願いできる?」


「かしこまりました。すぐに用意しますね」


「よろしく。…………あとこの子も頼むよ?」


 レインは足元に蹲る変な子を指差す。


「………………………………はい」


 アメリアのこんなにも露骨に嫌な顔は初めて見た。こうなる事は予想していたと思うが、実際に言われると嫌なんだろう。返事の声もビックリするくらい小さかった。


 アメリアにもやっぱり嫌だと思う事もあるんだなと少し安心した。

 

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