番外編2-3







 そこには受付嬢とステラと同じブラウンの髪を持つ少女がいた。少女は自身にとって高すぎるカウンターに必死につま先を伸ばして頭を出している。それをカウンターの後ろで座る女性が見下ろしている。


 その少女は今にも泣きそうだ。どこかエリスの面影を重ねたレインは少女の元へ向かう。


「……どうしたんですか?」


「し、神覚者様?!」

 

 レインが問いかける。受付嬢はレインの出現にかなり驚いた顔をしているが、その少女はレインの事をよく分からないのか話を続ける。


「ママが病気なの!お金もちゃんとお小遣いを貯めて用意したのに……何で依頼を受けてもらえないの?!」


 そう言って少女は皮の袋をカウンターへ置いた。どうやら少女は組合へ依頼をしに来たようだ。一応お金もあるようだが何が駄目なのだろう。


「で、ですから……お客様の用意した金額は2万Zelです。掲示板への掲載料が護衛系は最低でも18,000Zelとなります。残った分が報酬となりますが、2,000Zelで依頼を受ける覚醒者はいません。

 それに依頼内容にある採取対象の治癒薬草といえば野生繁殖したモンスター出現する森林地帯で取れる物です。覚醒者の中でも高ランクの覚醒者が護衛に必要です。この金額では無理ですよ」


 今回に関しては受付嬢が言う事は間違っていない。2,000Zelだと肉も買えない……事はないが1日の食費くらいしかならないだろう。それで命をかけて薬草採集の護衛をしてくれと言うのは無理がある。


 まあ今回はここに経験した事のない新しい仕事を探している暇な神覚者がいるから安心だ。


「なら俺が依頼を受けよう」


「え?!」

「え?」


 まさかの返答に少女どころか受付嬢も驚いている。高ランクの覚醒者の中でも最高峰の覚醒者が名乗り出たからだ。


「神覚者様が受けられるような依頼では……」


「お前には関係ない。俺が受けると言ったんだからそれでいいだろ?他に何かあるか?」


「な、何もございません!失礼致しました!」


 受付嬢は立ち上がり頭を下げる。


「それじゃあ行こうか。とりあえずここを出よう」


「う、うん」


 戸惑う少女の手を握りレインは組合から出る。まだ正式な依頼を受けた事にはなっていないがこの際どうでもいい。組合を出て嫌な視線から逃れてから少女と詳しい話をする。


 とりあえず何処か食事が出来るところがいいとレインは辺りを見回す。その時、レインの手を少女が引く。


「……どうかした?……あ、俺はレイン。レイン・エタニア、よろしく。君は?」


「リ…リサです。し、神覚者……さま?は何で依頼を受けてくれたんですか?」


 リサは恐る恐る問いかける。依頼を受けたのはリサをエリスと重ねたからだ。

 リサは10歳にも満たない年齢だと思うが、何処となくエリスと似ているし、お金のせいで苦労する経験は痛いほど分かる。だがそれをこの子が痛感し、理解するのはもっと大人になってからでいいとレインは判断した。


「うん?……そうだな。助けたいと思ったからかな?俺の妹も少し前は病気だったんだ。俺が協力して君のお母さんが治るならそうするさ」


「あ、ありがとう……ございます。神覚者さま」


「……その神覚者様って言うのやめてくれない?その呼び方あんまり好きじゃないんだ」


「じゃあ……なんて呼べばいい?」


 神覚者呼びは嫌だが、何で呼ばせるかは考えていなかった。ここは任せるとしよう。


「好きに呼んでくれ。神覚者以外な?……あと何処でご飯食べようかな」


 そもそもレインは何処が美味しいのか分かっていない。リサの手を引いたまま棒立ちしている。


「じゃあ……お兄ちゃん…って呼んでいい?」


「……………いいよ」


 危うく血を吐くところだった。最近ちゃんとエリスと話せていない事もあってかその呼び方に飢えていたのだろう。突然のその呼び方にSランクダンジョンで受けた以上のダメージを心に受けた。良い意味で。



「あと……ご飯は大丈夫です。早くお家に行きたいです。ママの病気を治してあげたいんです」


「……分かった。リサの家はどこ?」


 レインの問いかけにリサは俯く。家の場所が分からないとか言われたらどうしようかとレインは思ったがそうではないようだ。


「少し遠いの。……あのね!私……ここまで…えーと…馬車に乗せてもらってきたの。昨日の夜に家を出て…着いたのがさっき……なの」


 つまりリサは半日近くかけてここまで来たようだ。こんな小さな子がそんな遠くまで来た?それだけで本当に心配になる。


「……でももうお家に帰る……馬車のお金がない…から、えーと、その……歩いて帰ろうと思って」


 馬車で半日なら歩いたら余裕で1日はかかる。計画性がないというか何というか。しかしそれをリサの年齢で考えろというもの難しいか。


「そうか。ここまで来るのに苦労したんだな。でももう大丈夫だよ。俺が連れて帰ってあげる」


「ホント?!」


 リサの顔は明るく花開く。眩しい。


「……ああ、馬車くらい言えば用意してくれるだろう。とりあえず門番に言えばいいかな。じゃあ行こう」


 一瞬……傀儡の騎兵を出せばいいと思ったが、リサの心に回復不能な傷を与えてしまうかもしれないと思いやめた。


 レインはリサの手を引いて『テルセロ』のリサが入ってきたという西門へと向かう。


 

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