番外編2-2




◇◇◇




「ダンジョン攻略…………なんかもう飽きた。行きたくない」


 メルクーアから帰還して3日目。レインが朝食を食べている最中に言った言葉にアメリアたちは固まる。


 既にエリスとステラは学園への入学を控えた最後の追い込みという事で部屋にこもって勉強している。阿頼耶はその付き添いだ。最近、レインよりもエリスと一緒にいる事の方が多い。


 あと入学する為の試験は免除だが、勉強しなくていいという訳じゃないらしい。


 メルクーアの『海魔城』を攻略した後のことだ。エリスは毎日楽しそうに勉強している。授業内容を想定した話や歴史の話はレインにとってサッパリなので分からない。アメリアやクレアは分かるから盛り上がる。疎外感が尋常じゃなかった。


 アッシュたちと会った次の日、暇つぶしに高ランクダンジョンを組合支部に行って契約し、何ヶ所か回ったが退屈だった。


 ニーナさん……というか『黒龍』ギルドはしばらく休業との事で本部に行っても閉まっていた。

 

 だから1人寂しく行ったが、もはや今のレインの傀儡であればAランクダンジョンすら生ぬるい。レインに至ってはダンジョンの外で寝ててもクリアできる。


 しかしレインは神覚者だ。国内唯一で世界最強クラスの神覚者である為、ダンジョンを攻略するのが主な仕事だった。


 だがレインが言えばその職務を放棄することもできるが国家の損失は計り知れない。


 それを理解しているアメリアとクレアの2人は何とかしなければと行動する。ちなみにセラは既に起きていて雇う事も伝えてあるが、体調が回復するまではもう少し寝ててもらう事にした。


「ど、どうされたのですか?」


「いや……ダンジョンって面倒だなって。常に薄暗いし、魔法石の光で目がチカチカするし。無駄に広いしボスも弱いし」


「ボスが弱いって……そう言えるのはレインさんだけですねぇ」


「アメリア……組合の依頼ってダンジョン攻略しかないの?」


 昨日、夕方まで爆睡して仕事を放棄してしまったと落ち込んでしまい、みんなで必死に励まして元気にさせた何でも知ってるアメリアに聞いてみる。覚醒者に関することはステラが詳しいがアメリアも把握してそうだ。

 

「いえ……そんな事はないはずです。確か護衛の仕事や魔法を使っての建築支援などがあったはずです。……申し訳ありません。覚醒者に関する事はステラの方が詳しいんです」


 とアメリアは言うがレインが求めた答えの全てを答えてくれた。何を謝る必要があるのだろうか。


「護衛か。これまでにない経験だな。早速行ってくる」


 アメリアが作った朝食を食べ終え準備をする。毎回毎回アメリアが着替えを手伝おうとしてくる。そこまで何もできない人だと思われるのかな?と落ち込む時がある。

 


◇◇◇

 

「じゃあ行ってくるよ。今日中に帰らないかもしれないからエリスには上手く言っておいてくれ」

 


 もうエリスはレインがずっと側に居なくても大丈夫だ。ずっと離れているのはレインの気が狂うため数日が限界である。もしエリスに、私は平気と言われたら世界を滅ぼす事になるだろう。…………冗談だ。


「かしこまりました。いってらっしゃいませ」


 物騒な事を考えているレインをアメリアは笑顔で見送る。アメリアに見送られたレインは門番でもある兵士にも見送られ1番近い覚醒者組合支部へと向かった。


 

◇◇◇

 


「……うーん」


 覚醒者組合支部へと到着したレインは依頼が貼られた掲示板を眺めていた。掲示板には買い手が付かないCランク以下のダンジョン攻略の依頼、長期間の町の警護任務、どこにいるのかも分からない盗賊の抹殺任務などだった。


 レインは真面目な顔をすると怖いらしく誰も近寄ろうとも声をかけようともしない。ただそこに神覚者がいるという事は全員が把握していた。


「…………なんか……違うなぁ」


 どれもこれも長期任務ばかりだ。ダンジョン攻略は論外とする。あと何年も屋敷から離れるのも論外だ。


「……もう職員に聞くか。その方が早いよなぁ。はあ……あんまり聞きたくないなぁ」


 基本的に店員に話しかけられないレイン。それは神覚者になったからといって変わらない。


 ただここに突っ立っていても何も変わらないので、レインは意を決して受付へと行く。受付嬢は何人かいるし、全員が何かしらの対応をしていた。しかしレインが近付くと受付嬢を残して全員が離れて行った。


 こういうのも地味に傷つく。ひとに注目されるようになってから自分の繊細さに気付いて嫌になる。


「い、いらっしゃいませ……神覚者様。ほ、ほほ、本日は……どういった……ご用件でしょうか」


 ここ覚醒者組合はこれまでレインに対して酷い仕打ちをしていた。そんなレインが神覚者になり、世界最強のと噂される覚醒者になってしまい、会長をボコボコにしたものだから対応に苦慮していた。


 ちなみにレインはその事を覚えているが、その仕打ちがあったからアルティに出会えた。だから感謝はしていないが何かするつもりはなかった。


「護衛の依頼ってあそこにあるだけですか?」


「え、ええ……申し訳ありませんが、神覚者様にご依頼できるようなものはありません」


 今はAランクダンジョンすら無いようだ。確かに何個か一気に適当に攻略した。全ての高ランクダンジョンを独り占めにする訳にはいかない。休業はしているが『黒龍』だってダンジョン攻略しないといけない。


「そう……ですか」


 レインが残念そうに帰ろうとした時だった。別に無いからと言って文句は言わない。仕事がないのは誰が悪いわけでもない。タイミングが悪いだけだ。


「どうしてですか?!」


 突然少女の大きな声が響き渡る。レインはその方向を見る。

 

 

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