番外編2-4
◇◇◇
「良かったな。すぐに用意してくれるってさ」
「うん!」
レインとリサは門番が用意した椅子に腰掛けて待っている。西門へ到着すると門番が駆け寄ってきた。馬車の事を伝えるとすぐに用意するとの事だ。物凄い速さで走って行ったからすぐに来てくれそうだ。
「リサの家って何処にあるの?なんていう町?」
「サーレスっていう村だよ。ここみたいに大きな家もないし、人もそんなにいないけどみんな友達で家族みたいなんだぁ」
リサは嬉しそうに足をパタパタさせながら話す。その光景だけでも癒される。
「そうか」
「でもね!みんな酷いんだよ?!私がここに来て覚醒者様を連れてくるって言っても、みんな無理だって言うの!ママの病気はすぐには治らないからちゃんと看病しろって……。でも苦しそうなママを見たら……どうしても我慢できなくて……」
さっきまでの笑顔が嘘のように曇り、泣きそうになる。レインは慌てて頭を撫でる。エリスならこれで何とかなっていた。
「大丈夫だ。そのお母さんの病気はどんな病気なんだ?その治癒薬草で治るのか?」
「うん……そう村長さんが言ってた。でも危ない所にあるから村のみんなは誰も近付けないんだって。……たまに来てくれる商人さんが持ってるかもしれないから、その時に買ったらいいって村長さんは言ったけど……でも……」
表情はどんどん暗くなる。何とかしないと泣いてしまいそうだ。レインの心も泣きそうだ。レインが出来ることは傀儡を召喚する事だけ。……トドメになりそうだ。
「大丈夫だよ。俺が行くんだから。リサは神覚者って何か知ってる?」
レインも神覚者というのはよく知らない。レインが出会った神覚者は割と変なのが多かった。まともだと感じたのは『万雷』のシリウスくらいだろうか。
「えーと……みんなは凄く強くて怖い人って言ってた」
「怖いって……どこが?」
「うーん……分からない。でもお兄ちゃんの事はみんな知ってたよ。すごい人が出てきた!って!」
「そ、そうか」
これで顔が怖いとか言われたらどうしようかと思った。顔なんて生まれつきなんだからどうしようもない。もし顔が怖いって広めた奴がその村にいるなら話し合わないといけない。拳で。
「お待たせしました」
そんな話をしていると西門の奥から兵士が走ってきた。どうやら外に馬車を回してくれたようだ。本当に数分で用意してくれた。後日ちゃんとお礼をしないといけない。
レインはリサと手を繋ぎ、西門から外へ出た。
「…………え?」
「すっごぉぉい!!」
レインは驚き、リサは感嘆の声を上げる。それもそのはず、レインたちの眼前に用意された馬車は豪華絢爛を体現したような物だった。
シャーロットとかの王族が乗りそうな金色の装飾がされた馬車だ。4頭の馬に馭者、その横には馭者を護衛する為の兵士がいる。
その護衛されている馭者も武器を携帯している。さらに馬車の前後を挟むように完全武装の軍馬と兵士が3人ずつ計6人が待機していた。
「…………馭者以外全員帰れ」
「それは出来かねます」
馬車を用意してくれた兵士が即答する。神覚者の指示に対して即答する。これにはレインも驚きだった。
「……え?俺が言っても?」
「はい、申し訳ありません。……もし神覚者様がそう言った場合は拒否するようにシャーロット様から仰せつかっております。もし無理やり突破された際は国内である限り追いかけよ……とも言われております」
「……そうですか」
シャーロットは先回りしていた。レインは神覚者であるが、地位的には国王の下、王族と同じ、公爵の上にあるらしい。基本的に人間関係のトラブルに巻き込まれやすいレインにとって兵士の付き添いは必須だと思われていた。間違ってはいない。
まあここで説得する事も出来るが、時間を無駄に浪費してしまうだろう。リサを前にしてそんな事はしたくない。仕方なく了承するしかなかった。
「じゃあ……お願いします。リサも乗って。行き先はサーレスという村です。分かりますか?」
レインはこちらを見る馭者に問いかける。
「サーレス村ですね。もちろん分かります。この馬車なら……5時間ほどでしょうか。すぐに出発されますか?」
リサが乗った馬車は半日かかったが、これだと半分以下で着くらしい。馬車の性能が違うのだろう。もちろん準備は必要ないからこのまま行く。
「このまま向かうよ」
「かしこまりました」
レインたちは馬車に乗り込み出発した。
◇◇◇
「うわぁ……速いねぇ!椅子もふかふかだぁ」
リサは窓の外を眺めながらぴょんぴょんを跳ねている。まさかメイドが1人馬車の中にいるとも思わなかった。あの数分間でどれだけ準備をしたんだろうか。もしくはシャーロット辺りが、それ用の人員を常に用意していたのだろうか。そうだとしたら申し訳ないからやめてほしい。
「危ないから跳ねてはいけませんよ」
若いメイドは跳ねるリサをそっと抑える。歳はセラに近いと思うが、セラとは正反対の印象で優しく仕事が出来そうで物静かな雰囲気だ。いやセラも仕事はできるはずだ。男泣きの印象が強すぎるだけで。
「はい……ごめんなさい」
「ちゃんと謝れてえらいですね」
メイドは少し落ち込んだリサの頭を優しく撫でる。そのおかげで暗い雰囲気になることもなくリサとメイドの会話は続く。こうした対応もレインにはなかなか出来ないから勉強になる。どこで実践すればいいのかは分からない。
◇◇◇
「あ!サーレスだ!もう着いたの?!」
リサは驚く。その声で起きた。
「神覚者様……もう間も無く到着致します」
リサの横に座るメイドも変わらぬ口調でレインに報告する。時間帯はお昼過ぎくらいだろうか、陽の光は真上にあった。多分5時間もかかっていない。
「……もう着いたのか?」
「はい、道中にある全ての兵士詰所を手続きなしで通過しましたので、予想よりも早く到着しました。本来であれば目的や運んでいる物を兵士に確認してもらわねばなりませんが、神覚者様に関してはこれら全てが免除されているようです」
イグニス国内には王族や貴族を狙う者が侵入しないように各地の街道に兵士が配置され検問所として機能しているらしい。通過するのに時間はかかるし、通過したい人の列でなかなか前に進めない。しかし神覚者に関してはそうした事は一切ないようだ。
「……よし、ここで停めてくれ」
メイドは即座に馭者がいる方の窓をコンコンコンと3回叩いた。すると馬車と前後を挟む護衛の兵士たちが停まる。レインは村に着く前に馬車を停めた。
小さな村にこんな一団がいきなり行ったら迷惑どころではない。ここから先は歩いて行く。連れて行くのはメイドだけだ。兵士たちはここで休んでてもらう。周囲はのどかな平原だ。天気もいいしゆっくり休めるだろう。
「……という事だ。いいな?」
「かしこまりました」
レインの命令を受けて兵士たちは馬や馬車を街道から離し移動させる。それらを確認してリサの手を引き、後ろにメイドを連れて村へと向かう。
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