番外編1-4
「カトラさーん……居ませんかー?カトラさーん。カットラさーん!」
「…………幻聴って初めて聞いたけど…結構はっきり聞こえるのね。それにしても……声に知性を感じないわね。……怯える私が私自身を安心させようと無意識に作り出した幻聴なのかしら」
自分の名前を呼ぶバカっぽい声はどんどん大きくなる。
「カトラさんっていう人はいますかー?アッシュから依頼されて助けに来ましたー。おーい……ゴホゴホッ……声張りすぎた……ゴホッ…オェ……」
「……………………幻聴じゃない?」
流石に幻聴は声を張りすぎたと言って咳き込まないし、えずきもしないはず。カトラは〈潜伏〉を解いて岩の間から身を乗り出した。
◇◇◇
「割と進んだけど……見つからないな」
レインは薄暗い洞窟を進む。モンスターのバラバラ死体は沢山あるが、カトラは見つからない。傀儡たちが派手に暴れたせいで土も舞ってて余計に視界が悪くなる。
「…………ただ死んでもいないな。ここから奥に進んだ魔力が見える」
レインはカトレア戦で身につけた〈真・魔色視〉を常に発動している。そこまで時間が経っていないのであれば、最後に何がここを通ったのか分かるようになっていた。もちろん魔力を放つものに限定されるし、大勢が通っていると誰かまでは特定できない。
しかしレインの視界には薄らと奥へと伸びる白い魔力の線が見えた。これはレインの家へ来たアッシュのパーティーメンバーのどれとも色が少し違う。
そしてこれが残っているという事はまだ生きている。魔法やスキルによって放たれた魔力は発動した本人が死ぬと消滅する。カトレアを殺した瞬間に水晶でできた要塞が崩壊して消滅したのもそれが理由だ。
ダンジョンの中央くらいまで来て一切魔力の色を見つけられなかったら生存は絶望的だったかもしれない。
「……見つけた」
レインはその魔力の線を辿って歩く。しかしすぐに立ち止まった。
「……ボヤけてるな。〈潜伏〉スキルか」
レインが辿っていた白い魔力線が水で溶かしたようにさらに薄く広がっていた。カトレア線より前のレインだったら気付かなかったかもしれない。
「ここまで来ると分からないな。スキルが発動し続けているなら意識もあるだろうし。…………叫ぶか」
レインはカトラの名前を叫ぼうとする。ただ叫ぶ前に考える。
"カトラって呼び捨てにしたり、出てこいとか言うと罠だと思われるかな。俺とカトラは初対面だし、丁寧な感じで行こうか。でも取り繕ったローフェンみたいな感じだと余計に警戒させてしまうか?
「…………カトラさーん!この辺に居ませんかー?」
そもそもレインは取り繕った敬語なんて知らなかった。なのでこんな感じで話すしかなかった。
何度か叫びながら奥へと歩く。さらに奥の方から聞こえていたモンスターの唸り声とか戦闘の音は聞こえなくなった。多分ボスの部屋までは殲滅し終えたんだろう。
「カトラさんっていう人はいますかー?アッシュから依頼されて助けに来ましたー。おーい……ゴホゴホッ……声張りすぎた……ゴホッ…オェ……」
叫ぶ前に息を少し強く吸った。その時に舞っている土煙を吸い込んで咽せた。その咽せ方が良くなかったのか吐きそうにもなった。
そしてその言葉で白く濁っていた魔力が消えた。それと同時にすぐに右前に気配が出現した。
"そこか。……でも本当に凄いな。この辺にいるって事しか分からなかった。これが外なら分からないぞ"
「………………誰…ですか?」
「カトラさんですか?……俺はレインです。レイン・エタニア。あなたを助けにきました」
「………レイン?レインって……あの神覚者の?!?!」
"そんな叫ぶなよ。ビックリしたじゃんか"
「えーと……はい、一応神覚者です」
「ど、どうして?彼……アッシュには神覚者様を雇うお金なんて……」
"やっぱり神覚者を雇うってそれだけ金がかかるんだな。相場なんてちゃんと知らないし"
「お金は必要ないです。俺とアッシュは昔からの知り合いですし、こうなる前は何度も助けてもらいましたから」
「………………本当だったんだ。……アッシュはずっと言ってたんです。アイツは凄い奴だって、ランクが低かった時からずっと諦めずに戦ってたって。私は……知り合いだって事は信じてなかったんですけど……」
「………………そうですか。それは嬉しいですね。その辺の話はまた今度にしましょう。歩けますか?怪我は?」
その言葉にカトラは我に返った。今はここで話すよりも重要な事がある。みんなに無事を伝えないといけない。
「す、すいません!……えーと脚を……あのモンスターに爪で……」
カトラは傷の方を見る。レインもそれで傷の存在に気付いた。薄暗いのは変わらないから見えていなかった。
「分かりました。じゃあこれを飲んで下さい」
レインは中級の回復ポーションを取り出す。そこまで深くない裂傷だと中級で大丈夫なはずだ。これがダメなら上級を飲ませたらいい。
レインは阿頼耶のように治癒系の知識はない。とりあえず持っている物を渡せば何とかなるでしょう、という考えだった。
「でも……ポーションのお金が……」
"ここにきても金か。もう仕方ないよな。俺だって昔はそうだった"
レインもお金に苦しんだ身だ。何をするにもお金は必要で、特に魔法の武具や傷を癒すという覚醒者の力に関係する物は本当にお金がかかる。
だから無償の提供には誰だって警戒する。あとでとんでもない要求をふっかけて来る奴もいるらしい。
「もう一度言いますが……お金は必要ありません。いいからこれを飲んで下さい」
「…………分かりました。ありがとうございます」
カトラは納得してポーションの小瓶を開けて飲んだ。すぐに脚の部分に緑色の光が優しく灯る。その光が消えるとカトラは立ち上がった。
「…………そのポーションでいけたみたいですね。良かった。カトラさんのメンバーもダンジョンの入り口で待ってます。とりあえず一緒に戻りましょう」
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