番外編1-5
「カトラー!!」
レインがカトラを連れて入り口まで戻った。ダンジョンの入り口ではアッシュたちが傀儡と共に待っていた。
レインとカトラが視界に入った時、真っ先に叫んで飛び出した。それを見たカトラも同じように走る。そして抱きしめ合う。感動の再会だ。
ただ昔からの友人が女性と抱きしめ合っているのを見るのも何とかなく気不味い。レインは振り返ってダンジョンの奥へと戻ろうとする。まだボスは倒していない。魔法石も回収していない。これらを全て片付けるまでがダンジョン攻略だ。
「傀儡召喚……海魔出てこい」
レインの背後に並ぶように中級海魔が出現する。頭を中心に巻かれた黒い布から赤い瞳だけが発光する。薄暗いダンジョン内で見るとやはり怖い。普通に怖い。
「レイン!……いやレインさん?」
「普通に呼んでくれ。悲しくなってくる」
唯一の友人であるアッシュにさん付けなんてされたら本当に友達のいない奴になる。
「じゃあ……レイン、どこに行くんだ?」
「どこって……ダンジョンのボス倒さないと終わらないだろ?あと魔法石も回収しないと。組合のミスでこうなったんだろ?ならBランクダンジョン分は稼がないとな。これからお金も必要になってくるだろ?」
「で、でも……」
「なに遠慮してんの?Bランクなら数千万くらいになるだろ。俺は要らないからみんなで分けたらいい」
「いや!それは流石にダメだろ!俺たちが倒したモンスターなんて1匹、2匹程度だ。それ以外のモンスターもボスもレインが倒すのに報酬は全部俺たちって……おかしいだろ!」
アッシュのパーティーメンバーも激しく頷いている。目の前にいる神覚者に緊張して、ちゃんと声をかけられないようだ。リーダーであるアッシュだけが普通に話している。
「じゃあ俺からの結婚祝いって事で。それならいいだろ?」
「いや!それでもッ」
「もし断るなら100億くらい勝手にお前の自宅に届けるぞ?シャーロットさんに言えば普通にやってくれるからな?神覚者なめんなよ?」
「何だよ……意味分かんない威張り方すんなよ。…………分かったよ。意味分からない100億貰うよりはいいかな」
「分かればいいんだ。さっさと終わらせようか」
レインは海魔をさらに追加で召喚する。そしてすぐに命令を出す。
「とりあえずボスは殺さない程度に痛めつけとけ。こっちまで来られても面倒だ。あと他の海魔は魔法石の回収をしてろ。傷付けないように注意して採掘しろ。動け!」
海魔たちはその命令を遂行するまでに移動を開始した。かなりの速度で一気に奥へと消えていった。
「なあ……レインって何で『傀儡の神覚者』なんだ?王様の家来みたいで嫌じゃないか?」
アッシュが聞く。他のメンバーも食い入るようにこちらを見ている。多分、国民全員が何故なのかと気になっているんだろう。でもそんな事なかなか聞けない。それを普通に聞いたアッシュは他のメンバーからは英雄に見えているかもしれない。
「国王がそう決めたんだから仕方ないだろ?多分、このスキルを見て傀儡って言葉が出てきたんだろうよ」
レインは追加で鬼兵を数体召喚する。鬼兵は膝をついた状態でレインの前に並ぶ。
「何だコイツら……すげぇ強そうだな」
「そうだな。Aランクくらいはあるかもな」
「すげぇじゃん!やっぱりお前はすごいやつだよ!」
アッシュはレインの肩に手を置いて揺すりながら話す。お互いがそこまで気を使う事のない会話は本当に久しぶりだ。神覚者になってから友人のように、家族のように気軽に接してくれる人はエリス以外にはいなくなった。元々いなかったけど。だからアッシュの存在はレインにとってこの上なく大きいものとなった。
「……なあ、街で噂になってたけどさ」
「どうした?」
「あの神速姫と金色の姫……どっちと付き合ってるんだ?」
「コラ!!アッシュ!何聞いてんの!!……申し訳ありません…神覚者様。このバカにはちゃんと言っておきますから」
カトラがアッシュの頭を叩きながら怒る。そしてすぐにレインに頭を下げた。
「どっちとも付き合ってないけど?……この際だから聞きたいんだけどさ。オルガ……あー、メルクーアの神覚者にも聞かれたんだよ。誰と結婚するのかとか、オルガに関しては私にしない?とか言われてさ」
「だ、大胆な人なんですね。……でも気になるのは当然だと思いますよ?」
カトラがさも当然のように答える。
「どういう事?」
「え?……だって神覚者様はあの決闘で優勝されましたし、Sランクダンジョンもクリアしましたよね?それって世界でも最強クラス……あの超越者たちに並ぶレベルって事ですよね?
それに……アッシュの前で言うのは少し心苦しいですが、顔も体格もその全てを見通すような視線も……とても女性に好まれる……と言いますか……」
……全てを見通す視線?ただ何も考えておらずボーッとしているだけなのに?勝手に誤解しないでもらいたいな。
「そんな事ないだろ。別に普通の顔じゃないか?なあアッシュ」
「普通だな」
「だよな?」
「おう!普通!ふつッ」
バコンッ――ともう一度カトラがアッシュの頭を叩いた。
「神覚者様に無礼なこと言わない!!あの!容姿がいいって言うのは本当ですから!強くて、財力もあって、顔も良くて、性格も丁寧って噂なんですよ?それで気にならない女性はいないですよ!」
「…………性格が……丁寧?」
どういう意味なのかさっぱり分からなかった。レインには難しい話のようだ。
「神覚者様は相当な力を得たはずなのに威張らないじゃないですか?周囲に力を誇示したり、他の人を見下したり、暴力を振るったりもしない。
買い物に行ってもみんなに敬語を使ってて雰囲気も穏やかだから神覚者様って気付かないってみんな言ってましたよ」
「そうなの?」
「はい……あと神覚者様はお酒は飲みますか?飲んで暴れてたりした事はありますか?」
「飲むと背中が赤くなって痒くなるから飲まない」
「な、なるほど……」
「レインって煙草吸ってたか?」
「一回だけ吸ったけど、内臓全部出るかと思うくらい咳き込んだからその時以来吸ってない」
「なるほど……さっきの事に加えてお酒も飲まないし……ああ、お酒が悪って事じゃないですよ?あと煙草も吸わない。誰に対しても敬語で優しい性格…人気が出ない理由はないですよね?」
「そう……ですか。俺って人気あるんですか?」
「人気だと思いますよ?この国で初めての神覚者様ですし」
「という事だ。つまりお前はイグニス中の女性から求められてんだよ。良かったな!」
アッシュが親指を立ててウインクをかましながら言い放つ。その親指をへし折ってやりたいと思った。
「別に嬉しくない。…………もうこの話はいいや。海魔全員出てこい」
話すのも飽きてきたレインは250体近くの海魔を召喚する。アッシュたちの周りは一瞬にして不気味な黒い化け物だらけになった。
「うわッ」
「大丈夫だ。全員で魔法石を回収してここまでもってこい。俺が良いと言えばそのままボスも殺せ。さっさと行け」
その言葉を言い切った直後に海魔たちは一斉に洞窟の奥へと走り去った。馬よりも早い速度で高速に走っていく。若干気持ち悪いがあれでも1体1体がAランク相当だ。
見た目がもう少し良ければ重宝するんだがな……とレインは海魔にとって失礼なことを思い浮かべながら任せた仕事が完了するのを黙って見ていた。
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