第155話
◇◇◇
レインたちが屋敷へ到着する。到着前から察していたが、やはり屋敷の前には人集りが出来ていた。
国民も多くいるが、屋敷の前にいるのはほとんどが護衛の兵士たちだ。多分シャーロットでも来ているし、レインたちに国民が近付くのを防ぐ為の措置だ。
『テルセロ』に入った時には傀儡は消した。あんなのが10体近くも街中を走ったら混乱の極みだ。馬車の数が減れば進みも速くなる。
屋敷の前に到着するとすぐに兵士たちが馬車を取り囲み屋敷への道を作った。
既にSランクダンジョン攻略完了の知らせが来ているのだろう。この街に入った時も祭りでもあるのかと思った。
兵士によって馬車の扉が開けられる。するとすぐに見知った顔が見えた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ただいま、アメリア。この感じだと報告も終わってるみたいだね。ご苦労様」
「ありがとうございます。シャーロット様も既に応接室でご主人様をお待ちしております。…………ただその前にご判断いただきたい事があります。よろしいでしょうか?」
アメリアは少し深刻そうな顔をする。
「判断?」
「……はい、実は私がここに帰って来ると屋敷の前に使用人希望の者がおりまして。兵士の方々も帰るように警告したらしいのですが、全く聞き入れず、剣に手を掛けて帰るように強制すらしましたが、通じなかったようです。
私たちが帰ってくるまでここで待つと言って聞かず、並大抵の覚悟ではないと感じた兵士が監視をつけてそのままにした模様です。
私が先に帰って来る間も飲まず食わずで、さすがに兵士が不憫に思い簡単な食事を渡してはいたそうです。ただそれにもほぼ手を付けずにここにいたようで……私の到着とほぼ同時に倒れてしまって……」
アメリアに連れられて屋敷の中へ入る。エリスたちは風呂や食事をする為に別行動だ。屋敷の主人であるレインだけがアメリアの案内の元、その場所へ向かう。
「何でそうまでして使用人に?」
「私には理解しかねます。緊急という事で私の部屋で寝かせています。誠に勝手ながらポーションも使用させていたさました。申し訳ありません」
アメリアは謝罪する。必要だと思えば好きに使っていいと言っているのだから何も問題はない。
「別に良いよ。必要なら自由に使って良いって前に言ってんだから。……その人の名前とかは分かる?」
アメリアは歩きながら首を横に振る。アメリアも知らないという事はレインもおそらく知らないはずだ。レインに女性の知り合いはいない。
そう断言できるのが悲しくなってくるが、そんな人がいきなり使用人希望で現れた?
しかも倒れるまで10日近く屋敷の前でレインを待っていた?命を賭けてまで使用人になりたいと考えるその思考が分からない。
「いえ、名前も聞ける状態ではありませんでした。ただ……ここで使用人になりたいと。ご主人様への恩を返したいと
「俺への恩?」
「心当たりなどはございませんか?」
アメリアが不安そうに尋ねる。もし心当たりが無ければアメリアは全く関係ない人物を屋敷に入れてしまった事になる……とアメリアは思っていた。
当のレインはそんな事は微塵も気にしないが、心当たりが無さ過ぎて困る。
思い出そうと必死になっている内にアメリアの部屋の前まで来た。そしてアメリアが部屋の扉を開ける。アメリアの部屋にも護衛用の傀儡を配置しているが、念のためレイン本人も少しは警戒する。
しかしアメリアのベッドの上で眠っている顔を見て記憶が呼び覚まされた。警戒の必要もないし、使用人として雇うと決めた。
「…………ああ…あははッ!アメリア、この人を使用人として雇おう。色々教えてやってくれ」
「よ、よろしいのですか?」
「もちろんだ。まさか本当にこっちに来るなんてな。Sランクダンジョンの事で頭がいっぱいで忘れてたよ。セラ……久しぶりだな。あんまり無茶しないでくれ」
そこに寝ていたのはセラだった。レインがハイレンから戻る時に助けた村出身のメイドだ。
王女お付きのメイドでそれなりの仕事に就いていたはずなのに、それを辞めてまでレインの使用人になる事を選んだ。
あの時、レインへ約束した報酬。全てを捧げるという約束を果たす為に、まだ採用されるとすら決まっていないのに仕事辞めてレインの元へ来た。
タイミングが悪くこうなってしまったが、結果としてその覚悟をレインに示す事が出来た。十分すぎるほどに。
「アメリア……俺は応接室の方に行くよ。あまりシャーロットさんを待たせる訳にはいかないし。あとこの子はセラっていう名前でシャーロットさんのメイドだった人だ。助けてやってくれ」
「かしこまりました。ご主人様がそう仰るなら私が全身全霊でご主人様にお仕えするに相応しい人物になるよう教育いたします」
「あまり厳しくしないようにな?あと必要な物はこれまで通り好きに買い揃えてくれ。いちいち許可は取らなくていいからな?……あとシャーロットさんが帰ったらご飯にしてくれ。久しぶりにアメリアの料理が食べたい」
「……勿体無いお言葉です。セラさんの件は承知致しました。料理の件も腕によりを掛けて準備させていただきます。…………ただシャーロット様の元へ行かれる前に……一度汗を流された方がよろしいかと」
「…………あー、じゃあそうするよ。とりあえず風呂に行ってからだな。俺が準備してから行くってことも伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
そう言ってアメリアと別れる。エリスたちが先に風呂に入っていると思うが、どうせステラやクレアたちと一緒に入ってるだろうし、彼女たちは長く風呂に入ってはいない。風呂に入ると眠くなるタイプだから、すぐに上がるようにしているらしい。ちなみにレインは風呂に入ると目が覚める時もあれば沈みそうになる時もあるタイプだ。
とりあえず準備を急ぐ。疲労はないが、兎に角腹は減っている。報告はアメリアがしてくれたはずだから簡単な話だけだろう。さっさと終わらせて食事にしたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます