第147話






◇◇◇


「………ここは……外か?」


 レインたちが目を開けるとそこには海が広がっていた。王城の壁は崩壊して足元には不安定な島だけが残されていた。


 そして周囲にはメルクーア軍の船だろうか。大量の船団によって取り囲まれていた。しかしそれは警戒のためじゃない。


「出てきたぞ!!」

「命に変えても救出せよ!」


 船に乗る誰かが叫んだ。その声に合わせて複数の人間が海へと飛び込んだ。大きな船から小型の船もたくさん出てきた。


 Sランクダンジョンに来ていないCランク以下の覚醒者たちも多くの物を浮遊させて道を作る。負傷が多くいると思われているのだろう。この王城の壁が崩壊した段階でメルクーアの国王が救援部隊を派遣、待機させていたようだ。


 しかし実際は違う。今現在も負傷している者はいない。


 ただそんな説明を全員にする訳にもいかずレインたちは回収され船に乗り陸地へと辿り着いた。その時になってSランクダンジョン『海魔城』があった場所は波にのまれ海へと沈んでいった。その後は穏やかな海が広がるだけとなった。


「……終わった」

「消えたぞ!あのダンジョンは消えた!!」

「これでもう……」


 色々なところから色々な声が響く。ただ統一されているのはみんなの声は喜びに満ち溢れているという事だ。


 イグニス、ヴァイナー、メルクーアの覚醒者たちを群衆が取り囲もうとするのをメルクーアの兵士たちが壁になる事で防ぐ。


 そして兵士たちで出来た道を歩く国王と他の者たちが来た。


「お兄ちゃん!!」


 エリスは国王すら追い抜いて先頭に立っていたレインへ飛び付いた。


「エリス……帰ったよ」


 エリスがレインへ飛びついた事で収拾がつかなくなる。兵士たちを押し除けて覚醒者の家族がそれぞれの元へと向かった。


『始まりの王城』と呼ばれたSランクダンジョよりも死傷者が遥かに少ない。ただゼロではない。それらの報告をメルクーア王城でこれからまとめて行う。


◇◇◇



「…………以上が報告となります」


 各国の覚醒者たちの代表が国王へ報告を行う。最初に集まった応接室にはメルクーア側は国王エルドラムとレダスとオルガがいる。イグニスからはレインとニーナ、ヴァイナーからはオーウェンとシリウスだ。


 ニーナが一通りの報告を終える。内部の情報やどういった環境だったのか、攻略完了までの流れなどだ。

 そして今回のダンジョン攻略の死者は12名だ。イグニスは奇跡の0人だ。メルクーアのA、Bランク覚醒者が5人、ヴァイナーの覚醒者が7人の内訳だ。全てあのレインを模したと思われるモンスターに不意打ちでやられてしまった。


 しかしその者たち以外には後遺症もなく全てポーションとスキルや魔法で治療可能なレベルだった。


「そうですか。亡くなった者には特別な勲章を用意しましょう。その家族には今後の生活で困らないほどの支援もします」


「お願いします」


 そうニーナは返事をする。しかし1番気になる事を知れていない。この中でその事を知っているのはレインだけだ。


「……では最後にレイン・エタニア様、あのダンジョンの主の話を聞かせていただけませんか?そのボスを倒したのはレイン様なのでしょうか?」


 国王は質問する。当然聞かれると思っていた。しかしアルティの事は出てこない。アルティの存在を知っているのはニーナだけだから。

 アルティの事は黙っていてほしいとお願いしてニーナが了承した。報告の中にはアルティのやった事は全てレインがした事にしてもらっている。


 ただボスに関してはニーナに説明のしようがない為、そこに関してはレインが話す事になっている。


「……そうですね。ボスは……人間の身体に魚の顔が引っ付いた奴でした。黒い水の斬撃を無数に飛ばしてきたり、盾にしたりする奴でした。その黒い水には毒も含まれていて少しでも当たると毒で死ぬようでした。

 解毒ポーションを持っててよかったです。でも海をモンスターに変えるのがメインの能力だったみたいで本人の力はそこまでなかったので勝てました」


「そうですか。……最後にすみません、なぜダンジョンの主がそこにいると分かったのですか?海の水を全で消費するまで主への空間へはいけない様に思えるのですが……」


 もちろんこれの回答も用意している。絶対に聞かれるとニーナがレインへ話していたからだ。


「俺は……誰も信じてくれませんでしたが、魔力の見え方が普通の覚醒者と異なります。魔力が色で見えて、感知能力が圧倒的に高いんです。モンスターが島からどんどん離れて生まれるようになったので気付けました」


「そうですか。では主の空間への大穴はどのように?魔法……でしょうか?」


「はい、実は一度魔法を使った事があります。イグニスの都市にモンスターが侵入した時でした。その時、魔法が暴発して雲すら吹き飛ばす炎の柱を作りました。

 そこから魔法は使わなかったんですが、あそこでは巻き添えになる人もいないので魔法を使いました。結果は何とかうまくいった……くらいですけどね。もう使いません」


 実際、魔法の才能はない。あれを人並みに使えるようになるくらいなら剣の技術を鍛えた方がいい。


「ありがとうございました。では皆さまはお休みください。ここからは我々の仕事です。今回参加された皆さまに対するお礼は国家を通じてお渡し致します。

 あと3日後に祝勝会を開きます。それまではメルクーア最高の宿でゆっくりお休みいただければと思います。外出も好きにしていただいて構いません。この3日間は王都内の全ての施設を自由に使えるように手配しておきますので、遠慮なく満喫してください」


 こうして報告会も終わりレインたちは解散する。王城の外ではお祭り騒ぎだ。覚醒者たちも生き残った事に感謝して喜んでいる。


 メルクーアが用意した宿は国ごとに分かれていた。オーウェンたちとも別れ、レインはニーナと共に宿へと向かう。


「レインさん……大丈夫ですか?」


 ニーナがレインへ話しかける。やはり気になるようだ。


「少し……疲れましたね。ダンジョンの中では……10日くらい経ってたんでしたっけ?外では2日らしいですけど」


「レインさん」


「…………眠たい」


 結局レインはダンジョン内でほとんど寝ないで戦っていた。ある程度は回復薬で回復はしたが、それはあくまでその場凌ぎに過ぎない。不眠で10日は流石のレインも限界だった。


 ニーナに支えられるように宿に着く。エリスたちに出迎えられ、風呂に入り、食事をとって、フカフカのベッドにダイブする。まさかレインとアメリアたち使用人やエリスのために階層一つを丸ごと貸し切るとは思わなかった。部屋は余りまくりだ。


 あとダンジョンから戻った瞬間はレインに引っ付いていたエリスも今は遠慮しているのか、近くには来ない。

 レインがひどく疲れている事を察したようだ。誰もダンジョンの事を聞かないし、無駄話のためにレインを呼び止めたりしない。


 レインはベッドの上で仰向けになる。天井は真っ白な素材で出来ていた。その白い天井がどんどん遠くなる。もう落ちる瞼を支えられない。レインは10日ぶりに誰にも邪魔される事なく深い眠りについた。


◇◇◇



「…………………………」


 レインは目が覚めた。最後にあるカーテンから差し込んでいた光の記憶と今見える光に差が全くない。丸一日寝てしまったようだ。


「誰か……いないか?」


 レインは声を出す。普通に出た。しかし返事はない。自分の屋敷ならすぐにアメリアが入ってくるのに。しかしすぐに足音がこちらに聞こえてくる。


「レインさん?……どうかされましたか?」


 アメリアじゃない。この声はクレアだ。


「今、起きた。結構寝た気がする。折角だからこの街を見て回ろうかなって」


「え?!」


 扉の向こうからクレアの驚く声がする。何をそんなに驚いているのか。そして扉がゆっくり開いた。


「レインさん……無理しちゃダメですよ?」


「何が?」


 クレアといまいち会話が噛み合わない。


「レインさんが寝ると言って部屋に入ってから……まだ10分程しか経っておりません」


「…………すごい寝たけどなぁ」


 レインが新たに獲得した混成スキル〈魔王躯〉の自然治癒力の向上は疲労にも効くようだ。10日分の疲労は10分寝ただけで回復してしまった。


 "俺……人間じゃなくなったのか?"


 レインはそう思えるほど困惑した。

 

 

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